第15話 誰かの独断かねえ

 これ以上はもう無理だな。

 幾ら高レベルでも。結局人はいつか死ぬのだ。


「そこのメイド、儀式は成功したが、賊の生き残りによって大司教は命を落とした。捕まっちまったら、ちゃんとそう説明しろよ」


「何をするつもりですか!」


「苦しませるのは趣味じゃないんでね」


 心臓を一突き。これで苦しみから解放された。

 あとは天国でもどこへでも、好きなところに行くといい。

 先に治療しておけばよかったと多少悔いもするが、それだと吐かなかっただろうしな。


「さっきの話だと、王位継承権を持っている事は確認出来そうですね。改めて言われて、何か自覚のような物はありますか?」


「今はまだ何も……」


“宝珠”が比喩でないのなら物体。そしてすぐ”取り出そう”としたことから、成長する類ではないだろう。それも自覚できない程に小さいと……。

 王権とやらを発動する場所、或いは道具。そんなものがあってようやく自覚できるって所か。

 だが本人が生きている必要もないと。


 しかし引っかかるな。彼女は6女。王位継承権としては11番目だ。

 それ以上の人間は、既に同じ物を持っている。

 ならそれより下か?

 だがよほど強力な後ろ盾でもない限り、そんな小僧や小娘が何かできるのか?


「誰の差し金かは分かりませんが、今の話が確かなら首謀者は王族の誰かでしょう。ですが王妃は外して良いかもしれません。どうやら使うには血縁が必要な様ですし。なら兄弟の誰かだと思いたいですが、王自身が首謀者なら厄介ですね……っと」


 考えてみれば王妃も外せない。可愛い我が子の為って奴だ。

 それにマーカシア・ラインブルゼン王国は子沢山で知られている。

 14人兄弟で、その中で妾の子が6人。王族の複雑な家庭環境って奴だ。なんてのんびり考えてはいけないか。

 姫様は真剣な顔をしているし、メイドはこっちを睨んでいる。

 でもこれって俺が悪いわけじゃないぞ。

 むしろ状況を理解しておかないと、城に帰った途端に不審死のニュースが流れる事になる。


「それで、これからどうします?」


「今はそんな事を考えられる場合ですか!」


「今決めなきゃ生きる望みがどんどん減るんだよ。さっきの話が確かなら、俺なら三の矢を放つね」


「三の矢?」


 このメイドは本当に戦闘経験とか、そういった方面の知識がないな。

 ある意味、逆に安心出来るが今は姫様だ。


「状況はお分かりと存じます。儀式が終わった頃を狙って刺客を放つか、森の出口を封鎖しておくといった辺りがセオリーでしょう。だが前者はないと思われます。こちらは馬車を失った分かなり遅れましたが、追ってくるような連中がいる気配はありません。そうなると後者ですが、姫様――」


「今はもう王女様でしょう。弁えなさい!」


 めんどうくせえ。

 他の国なら最初から王女だし姫なんだけどな。


「今まで通りで構いません。状況が状況です。フェンケもいちいち話の腰を折らないように」


「はい……」


「姫様は、馬車になんらかの書き置きとか残したりしましたか?」


「その様な事は思いつきもしませんでした」


「メイドは?」


 どちらかといえばこっちが心配だったのだが、


「儀式が終わりましたら、無理矢理にでも説得して城に帰る予定でした」


「そうなの? 折角遠出するために食べるものも持ち込んだのに」


 そんな理由かよ。


「コホン。故に、儀式が終わりましたらすぐに戻ると、きちんと手紙に書きしためて馬車に置いてまいりました」


 あー、こういう性格で助かったわ。

 もしかしたら馬車までは敵が来ていたかもしれなかったが、そんなものがあれば無理はしない。


 なにせ護衛も襲って来た連中も、死骸はそのまま放置だ。

 一応護衛はメイドが調理中に並べてやったが、そこまでが限界だった。

 しかしそれを見てどう考える? 状況的に姫様側が勝った事は一目で分かる。

 だが姫様がやったかメイドがやったか、それとも予定外の特殊部隊……特に”あの”連中が絡んでいたか。向こうにしては判断がつかないだろう。


 それに組んでいるなら儀式での事も承知しているはずだ。

 そんな状況で王国の装備を身に着けていても、信用されるとは限らない。いきなり不意を打たれる可能性もあるし、そうでなくても鎧の音を聞けば森の中に逃げてしまう可能性もある。

 どうせ生きていれば戻ってくるのだから、入り口で待ち伏せだよな。

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