第14話 実戦から離れすぎた様だ

 大司教のケガは致命傷にはなっていない。

 だが経典の聖教魔法が無ければただのじいさんだ。

 レベルは100を超えているけどな。お布施がこんな事に使われて、信者は大変だねえ。


「それでさ――」


 顔がくっつくほどの高さまでしゃがんで真剣に聞く。


「で? お前誰よ。本物? 偽物? どうして姫様を襲った? それに儀式までは普通にやっていただろ? 何で終わるまで待った? 隙を作ろうとしたって訳じゃないよな」


「わ、我が名はイーネリアンス聖教が大司教、フライコス3世である」


「本物ですか?」


 一応姫様に聞くが、


「ほ、本物です」


 まあ一目で偽物とわかるようなら儀式はしないか。だが人間死にかけるとボロが出る。そこを確認したかったのだが、どうやら根本的に本物の様だ。

 妙だとは思うが、興味を持っても仕方がない。必要な事だけ確認しておこう。


「それで、それ程の人間がなんで姫様を襲うんだ? それでさっきも聞いたが、殺すなら儀式なんてする必要は無いよな?」


「お、王家の人間は、成人の儀式をもって初めて王族の血が覚醒する」


「しましたか?」


「わ、分かりません」


「だってさ。失敗してんじゃないの?」


「ぶ、無礼モノが……」


 まあいいや。


「それで、何で覚醒してから殺さないといけないんだ?」


「ゴホッ……お、教えてやってもいいぞ。だが貴様にも答えてもらおう。その答え次第だ」


「納得すれば教えてくれると。優しいねえ」


「答えよ!」


「重傷なんだから無理するなって。俺はクラム・サージェスだ。ガキの頃に、あんた程の地位じゃ知らない程度のスカーラリア家って商家に引き取られた下男だったが、奴隷としてブラントン商会に売られ、今ではお尋ね者として王都を脱出した身だよ。たまたまこちらの姫様が襲われているところに出くわしてね。次の町に着くまでの間だけ護衛として雇われている」


「……たわごとを」


「闇夜のマウスと名乗った方が良いのではないですか?」


 いや、それ全く意味ないどころか怒らせるだけだよ。

 まさかと思うが、実は本当に信じていたりはしないよな?

 ……と思ったがこれは違うな。静かな怒りを感じる。

 ここまで少し庶民的なおとなしいお姫様って所だったが、やはり超えてはいけないラインはあるらしい。

 まあこの日の為に色々と備えて来たのだろうし、犠牲も出ているんだ。

 気持ちはわかるのだが、この爺さんもかなりの高齢でね。ここは抑えて貰いたいものだな。


「王都に直接戻らないのは、俺に赦免を出せないので王都には行けない。俺も猜疑心が強いんでね、王都の近くで報酬が来るのを待つ気はない。そんな訳で、姫様がわざわざ隣町で褒美をくれるって訳だ」


「……くく、セネニア姫らしい」


「さて、これで答えたぞ。では時間も無いし、単刀直入に聞こうか。襲った理由だ。誰に、何のために、得るものは、簡潔に教えてもらおうか」


「まだだ。お前の話に納得はしていない。ただの下男が……奴隷が……あれだけの精鋭をいとも簡単に倒せたというのか。馬鹿々々しい。これ以上は時間の無駄だ」


「仕方ねえなあ。あんまり長引かせると治療が間にあわねえぞ。だが嘘は言ってないんでね、商家の下男ではあったが、そこの”便利屋”をやっていたってだけさ。大司教様なら意味は分かるだろう? 悪いが異名なんてものはない。そんなものが付いた時点で、この仕事は終わりだからな。証拠も痕跡も何一つ残すようなドジじゃなかったから生き延びた」


「闇夜のマウスは?」


 だから姫様は黙っていてくださいな。

 しかも今のは俺へのツッコミだし。


「これで納得したか? 名のある戦士だの伝説の勇者だのじゃない。ただ勝てる戦いしかしない臆病者さ。お前達は自分たちが最も苦手なステージで。俺は最も得意なステージで戦った。これで満足したか?」


「薄汚い暗殺者アサシンか……合点がいった。良いだろう……成人の儀式を完了した王族の心臓には特殊な宝珠が現れる。それは王族が王権を発動させる力の源である……が、使うのは本人である必要は無い。王族であれば……私が得られるものは……」


 これ以上は無理だな。ゼーゼーと息が荒く、目の焦点もあっていない。

 知りたい事の半分も聞いていないが、ここまでか。

 俺もなまったな。相手の体力を見誤るとは。

 これだけの地位だ。万が一のことがあれば姫様の立場にも影響が出るし、追撃も激しくなるだろう。

 依頼人の危険を増やすとは、完全に護衛失格だな。

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