第12話 これはまた随分と早い掌返しだな
真っ暗な街道をランタンの明かりだけで急いで進んでいると、
「そこです。そこから森に入ってください」
姫様に場所を指定された。
よく分かるものだと思ったが、考えてみれば知らなければ目的地に行く事すらできないか。
「了解です」
姫様に指定された小道に入る。
獣道ではない。ただの森林だ。
だが道になっている。それもここ数日で踏み固めた感じだな。
確かにきちんと隠されているように見えるね。この儀式が行われる僅かな期間を過ぎたら、もう見つけることは出来ないだろう。
何も言われないのでそのまま進むが、間違えたら何か言われるだろう。
しかしまあ、姫様の薄いドレスは小枝にでも引っ掛かったら一発で破れそうだが、そういった危険は全て排除してある。
それと、さっきの話でこのドレスを持って来た理由も分かった。
もっとも、これを着てここを歩く予定はなかったと思うけどね。
ただどうでも良いな。それどころじゃないし。
2人は気が付いていないようだが……いいか。様子を見よう。
この時点で俺が何か言っても仕方ない。目的は変えられないのだからな。
それはそれで手間はかかったが、何とか日が変わるより前に小さな石碑のある場所に到着した。
本当に小さい。俺の身長の半分くらいか。
こんなものが、この国の大切な墓石とは思うまい。
そしてその前には、立派な聖衣を纏い、大きな聖典を持った初老の男がいた。
小さなランタン――いや、魔光の魔道具か。それに周囲から照らされた姿は聖職者なのに軽くホラー。少し笑った方が良いのかと考えてしまう。
ただ王家の大事な儀式の場所にいる事を考えれば、大司教様といった所か。相当偉いな……つかトップか。
ただあまり関わり合いになりたくないがね。
「これはこれは、セネニア姫様。あまりに遅かったので肝を冷やしましたぞ」
「大変申し訳ございません。途中でトラブルがありまして」
と言いつつ、豪華な金のヒールに履き替えている。
確かに靴だけ違和感があったが、ちゃんとあったのね。
「では儀式を」
「はい」
とは言っても姫は石碑に跪き、大司教らしいのはただ見ているだけだ。
まあ俺にはこういったもんは分からん。
だが微かに、そして確かに姫様と石碑が淡く輝いていた。
そしてそれが10分も続くと、
「これにて儀式は完了です。神よ、御照覧あれ。セネニア・ライラスト・クラックシェイムはこれより正統なる王位継承者として、新たなる道を踏み出す事でしょう」
「はい、光栄でございます」
「では、これからはもう少しお淑やかになられませんとですな」
あ、やっぱり気にされていたか。
だよなあ。
「無理です」
こっちも即答かよ。
まあ俺的には今動いて良いものかどうかのほうが問題だ。
「それはそうでしょうな。ははは」
「ふふふ」
「それでは、これにてお別れです。惜しい、実に惜しい。その体を……」
ん? 急にゲス顔になって来たぞ。
「いや、違う。そう、使命を果たさねば。使命を……で、ではセネニア 姫様、短い門出でございましたな」
なんだ? また元に――いや、さっきより遥かに真剣な顔になった。だがさっきの目――あれは最初に襲ってきた連中と同じ目だ。やはりという感じだな。
「え?」
言葉と同時に聖典が光る――が、その聖典にナイフが刺さると同時に光が失われる。
「なっ!」
「聖職者がそんな殺意を剥き出しにしちゃ駄目だぜ。それと、聖教魔法は詠唱がいらないのが利点だが経典が無くなると何も出来なくなるのが難点だな。しかも専用で代替は効かないと来たものだ。まあ修復すれば使えるのが普通だし、無理すればそこからでも魔法は使えるか」
「な、な、な、な……」
「ただ絶対に傷つけてはいけないモノがある。経典の宝石と対になるもう一つの宝珠だ。それを作り直すのは大変というか無理か。聖職者になった日から祈りを込め続けて、生涯をかけて育てるんだよな。あんたほどのモノともなれば、さて何年ものやら。しかもそっちが傷つくともう魔法は使えない。もったいなかったな。さようなら、神の奇跡」
「がはっ」
ナイフは脇腹にも突き刺さっている。宝珠はそこに入っていた訳だからな。
なんて他人事の様に言っているけど、やったのは俺以外にいないわけだが。
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