第11話 ようやく念願の食事だ
そんな訳で次の町まで進むことになった。
当然姫様は予備のドレスに着替えている。ただある事は予想していたが、透ける様な白い絹に金の装飾。更には黄金のティアラ。どう見ても普段着に使うようなドレスじゃない。
パーティーにでも行くつもりだったのか?
それにしてはちと通る道が変だ。
ここは粗末だが、一応は石畳が敷かれた街道の一本で馬車でも移動する事が出来る。
今は歩いているけどな。
周囲は深い広葉樹に囲まれ、道には起伏が激しい。
冬に入り葉が落ちている木もあるとはいえ、それでも視界は相当に狭いな。
「そういえば聞きたかったのですが、なぜこのような辺鄙な道を? 主要街道を通れば襲われる事はなかったでしょうに」
「貴方、身分の差が分かっているのですか? 王族の方のなされる事に意見するとは何様ですか!」
全く懲りていなかった。もう少し脅すか。
「フェンケ」
「いえ、これは恩人といえどもきちんとすべき事です」
そういうものなのか。なら従っておくか。
「確かにその通りでございます。これからは気を付けましょう」
「あたしは別に構いませんよ」
「それでも節度というものがございます。誰かに見られたらどうするのです」
「いえまあ、ここに人なんて通りませんが」
物凄くきつい目でメイドに睨まれた。確かに姫様とこいつは通って、しかも襲われた。
余計な事は言わない事にしよう。
とはいえ許可が出た以上、これは聞いておかないと今後に響くかもしれないからな。
「それでどうしてこんな
「はあ……もう良いわ」
姫様はくすくすと面白そうにしているが、メイドの方はお怒りだ。
「貴方には話してもいいでしょう。この先に、隠された道があります」
「姫様!」
「この人は、その程度の事くらい気が付いていますよ」
いや、初耳だけどな。
「それに護衛していただくのですから、結局は同じでしょう? それでですね、そこから先にとても小さなお墓があります」
「どなたの墓でございますか?」
「先祖のお墓ですよ」
そいつは驚いた。
「もっと巨大な王墓がありましたよね。あちらは?」
「あれはある意味本当のお墓。王墓である事には間違いないのですよ。でもこれから行くのはお墓であってそうではない。今は記念碑みたいなものになっています」
「ちょっとよく分かりませんが」
「あたしたちがまだ王家でなかった頃。遥か昔に作られた太古のお墓です。そういったお墓は、意外と各地にあるのですよ」
ふむ……確かにマーカシア・ラインブルゼン王国を治めるクラックシェイム家も人類誕生からそうだったわけじゃない。
市民であったり貴族だったり、長い歴史に翻弄されながらも今の国になった。
記録では、この王国は121年前に建国したとある。国としては若い方だな。
この程度の国は建国と滅亡を繰り返す
もっとも、今の王国はかなりの拡大に成功した。吹けば飛ぶような小国とは言えないな。
といっても栄華盛衰は世の常。マーカシア・ラインブルゼン王国の拡張で滅びの危機にある国もあるが、いずれそれは自らに帰って来る事もある。
ましてや急速に拡張した国は、すぐに大量の内乱とそれに乗じた他国の侵攻によって、あっさり滅んだりするものだ。
いや、どうでも良いか。俺の手の中に入る話じゃない。
「それでどうしてそこへ参られるのです?」
ジロリ。
メイドが睨んでくるのは、もう余計な事は聞くなという合図か。
「今日があたしの15の誕生日なのです」
ただ姫様はお構いなくといった感じだわ。
確かそろそろ15歳だとは思っていたが、今日が誕生日だったとはね。
また随分と運命的な出会いだ。
「そこで先祖のお墓に報告し、それをもって正式に成人として認められるわけです」
「おや? 確か王族は大々的に成人の儀を執り行うと聞いておりますが」
「それはこの儀式が終わった後。あの儀式で成人になるのではなく、成人になったから行われるのですね。あ、秘密ですよ。対外的には、あちらが本当の儀式となっていますので」
「王家の秘密とか、語る相手がいませんのでお気になさらず。ただ今後は護衛をもう少し増やした方が良いですね。もう知られていると思いますよ」
「確かにそうですね。でも大々的な行列になってしまうと目立ってしまいますわ」
「別に全員で仰々しく行く必要は無いでしょう。少数の部隊を何日も前から先行させて、周囲一帯にひっそりと配備させれば良いんですよ」
「あ、なるほど。そ、そうですね……」
今一瞬だが、下を向いて寂しそうな表情を見せたな。
ハッキリとは言わなかったが、出来ないという事か。
「お話し中に申し訳ございませんが、そろそろ休息致しましょう」
確かに陽が落ち始めている。
ここは平地とは比較にならないほど暗くなるからな。
「一度休んで、明日行くのですか?」
「いえ。今日行かないといけないのです。それが決まり事ですから」
「ですが、その為にもお食事と休息をとるべきです」
「そうですね。分かりましたよ、フェンケ」
実際にかなり疲れていたのだろう。さほど渋る事もなく素直に従った。
レベルを考えたら2人とも問題無いはずだが、これは精神的な物か。
それにしても日延べ出来ないのは不便だな。もし失敗したらどうなるのやら。
まあそんな事よりも、食事という言葉が俺の心にクリティカルヒットした方が大きい。
こんな作業がメイドの仕事とは思えないが、信じられないほど手際よく火をつけると、馬車から持って来たバッグから鍋や食器、それに下準備の出来た食材を取り出す。
万が一の為だろうが、準備が良いな。
ただ移動前に何かを探していたようだったが、無くしものでもあったか?
まあすぐ諦めた様だから、たいした物ではないのだろう。
しかし男爵の娘だそうだが、さっきの火の支度から場所の選出、調理の速さなど、とても城の花とは思えない技量だ。
若さから見て、慣れというより勉強熱心なのだろう。
「お時間がございませんのでこの程度ですが」
「気を使う必要はありませんよ。それでは……神よ、我らが今日もまた生きる略。 さあ、急いで食べて向かいましょう 」
それで良いのかよ。
内なる破天荒さは相変わらずというか噂通りというか。
それよりも、念願の肉だな。
玉ねぎと青菜、干し芋にベーコンのスープ。それにパン。
臓腑に染み入る。生き返る。やはり人間は食べないと生きていけないものだ。
ただのんびりと食べている時間はないか。
俺もかなりがっついたが、二人も驚くほど早く食べる。それも礼儀正しいからなかなか凄い。
調理と休憩に20分。それに食事に10分。大体30分ほど休んですぐに出発した。
しかし、この時間になっても後発の部隊が来ない。
それに今日中にというわりに1食分とはいえ食事の用意もあった。元々日帰りの予定では無いって訳か?
まあ詳しい事は付いて行けば分かるか。
「では進みましょう」
「自分が先行しますので、指示をして下さいませ。これでも夜目は効きますし、森林での移動にも慣れています」
「さすが闇夜のマウスですね。お願いしますわ」
その名前は忘れて欲しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます