第6話 まああんなモノか

 気配を消し、音を立てずに木々の間を抜ける。

 ……が、あらら、運が無い。お互いに。

 さほど遠くないところに転がった馬車。倒れている兵士。まだ戦闘中の様だ。

 ただそれよりも、間違いなく襲っている側の仲間が木々の中でその様子を見ているところだった。


 おそらく見張りだろう。

 しかし素人か。見張りが戦闘中の方を見てどうすんだよ。逆だよ逆。

 まあいいや。素手もちょっと心もとなかったんだ。


「借りるわ」


「は?」


 腰のベルトにあった短剣を抜いて、状況を理解する前に首を掻っ切る。

 騒がれちゃ困るんでね。

 ただ今の手ごたえ……少し気になるな。結構な高レベルといった感じか。

 少なくとも、ただの野盗ではなさそうだ。


 見たところ、転がっている馬車には王家の紋章が付いている。マジか。

 そうすると、護衛の兵士はレベル80を超えていてもおかしくはないぞ。

 当然の様に完全武装。鎧にはしっかり王家の紋章付き。馬は見えないが、ここまで騎乗していたのは間違いないな。

 この狭い森という地形で騎乗に拘泥こうでいしないのは良い判断ではある。

 しかし次々と倒される。相手に魔法の支援があるとはいえ、こうも一方的とはね。

 どう見ても実戦経験と連係。それにスキルが段違いだ。


 レベルを急速に上げた分、戦える相手の危険度も飛躍的に増加。

 その状態なら、武芸のスキルを上げるのはさほど難しくはない。

 やはり虚空を相手に武器を振り回すより、強敵との実戦が一番だからな。

 当然、レベル屋はそっちのケアもちゃんとしている。


 しかし上げていないな。アホだねえ。

 王家の馬車を護衛するのに金がないとは思えないし、そうなるとあの護衛はボンボンだろう。

 貴族の3男だの4男だのって所か。


 危険は限りなく無いように俺らが慎重にサポートするが、やらなければ意味がない。

 そういったのはレベルという基礎はあっても技量スキルが追いつかない。

 面倒くさかったのか怖かったのかは知らないが、死ぬよりはマシじゃないか?

 まあお偉いさんっていうのは、自分が死ぬ時など想像もしていないものだがね。


 戦争ならそのレベルの暴力と組織で押し切れるが、レベルだけのおぼっちゃまだけじゃああの連中は厳しいだろうな。

 とはいえ将来的には騎士になるわけだし、無能なうちに間引きされるのは庶民からすれば良かったのかもしれん。


 そんな感じで見物していたら、ついに最後の兵士が倒された。

 襲っていた連中は一部金属鎧を付けているが、基本は革装備。

 まああのレベルが振り回す武器なんて相手にしたら、金属も革も紙切れと変わらん。

 機動性を取るのは普通だが、それにしてもやはり強い。

 見えている限りでは、襲っていたのは19人。一応、その内4人は倒されているな。

 一方で地面に転がっている護衛は8人。

 森から不意打ちの魔法が飛んでくることを考えれば頑張った方ではあるが、それは普通のレベルならだしなあ。


 ご丁寧に改めて転がっている兵士にとどめを刺している一方で、リーダーらしい人間が倒れている馬車の扉を開ける。


「控えなさい! この方をどなたと心得ますか!」


 若い女性の振るえを帯びた叫びが中から響くが、カエルを潰したような声と共に馬車の外に投げ捨てられた。

 服装からしてどうやらメイドらしい。歳は16か17って感じだな。

 中の人間はなかなか地位が高いようだ。いやまあ王家の馬車だから当然か。そうなると、あのメイドも貴族の娘かな。

 とはいっても、馬車が王家の物なら中身も王家の人間とは限らん。

 重要な客人か、或いは何かしらの囮の可能性だってあるわけだが……さて。


「いや! やめなさい! フェンケ! フェンケ!」


 次に引っ張り出されたのは金髪のお嬢様。

 見た所15歳程度だな。

 というかあれは……そうか、あの子か。

 何だろうかね。世の中というものは、たまに妙なところで繋がっているものだ。

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