【 人生設計とは 】
第5話 出てすぐにトラブルとはね
まどろみも無く、ぱちりと目が覚める。
一瞬で覚醒するのは職業病だから仕方がない。色々とね。
どうせすぐに忘れるが、まだ夢の記憶が残っている。
あの後すぐに、政敵だった商会と和解。
俺は証拠の隠滅という形で王都のレベル屋――まあさっきの所に売られたわけだ。
まだ16の頃だったな。
もっとも、ゴミと残飯を漁っていた頃に比べれば、此処でも幾分マシだった。
もう人を殺さなくて良いってのも、なんだか彼女の意志に沿うような気がしたしね。
そこから3年はレベル屋も試行錯誤。
理論は何十年も前に確立したが、いかんせん適したモンスターがいない。
高レベルのモンスターは、確かに大量の経験値を得られる。
だがそれだけの強さも兼ね備えているわけだ。一般人の手に追える相手じゃない。
なら鎖とかで拘束したとしよう。
確かに鎖を作った人間に経験値は入らない。
だが動けないほどに拘束したら、経験値分配の関係で拘束した方に多く入る。それが一番大きな効果だからだ。これではレベル屋にならない。
素直に自分で倒して冒険者にでもなれって感じだ。
そんな時に舞い込んできたプリズムポイズンワーム。
確かに危険だし犠牲も出たが、それ以上に見返りは大きかった。
犠牲なんて俺たちみたいな奴隷や日雇いだしな。ゴミと変わらん。
そして気が付いたらマーカシア・ラインブルゼン王国は周辺諸国相手と戦争を開始。
俺がいたローサム商業自治区は、元々3つの国を結ぶ交通の要所にある城塞都市だった。
事あるごとに隣接する3か国の奪い合い、その度に城壁や他防衛施設やらを追加した結果、商業都市とは程遠い外見になったのは皮肉なものだ。
そのおかげというか、その立地のおかげで盗賊の危険も無く栄えまくったわけだがな。
だけど王国の軍勢はレベルが段違い。
スキルが同じなら、とても勝負にならない。
ただの一般兵が、よその国では将軍や突撃隊長に匹敵する。
まあ勝てんわな。
結局他国が形だけでも真似して膠着するまでにマーカシア・ラインブルゼン王国はその版図を広げ、自治領は吸収され隣接3か国は領土を大きく削られた。
国の1つは首都まで陥とされたそうだ。悲惨なものだ。
さてローサム商業自治区はというと、まあ基本は変わらない。
王国から代官が出て政治は牛耳っているが、商業なんてものはまるで素人だ。
下手に手を出して商業都市としての価値を失ったら、何の為に占領したのか分からないからな。
俺も22歳になったから、お嬢様ももう25歳か。さて今頃はさすがに結婚している頃だろう。
自治領の防衛施設も、もうアホな盗賊でも来ない限り使わない。自警団も動かない。
それが商業都市の生きる術だからな。
大体、ここまで強大になった国家に抵抗した所で勝てるわけもないのだかから当然だ。
……ってのが、奴隷の身分で分かる噂話だな。
だが噂をしているのはどれも豪商だの貴族様だのだ。信憑性は高いだろうよ。
さて、そんな無駄な事を思い出している間にいよいよ出口。
商家に仕えていた時には何度も使っていたからな。知らない奴にとっては迷路みたいなものだが、俺からすれば庭のようなものだ。
上層の下水は川に繋がっているが、下層の下水はずっと遠くまで枝分かれして、しかも殆どが行き止まり。
土に還って肥料にでもなるんだろうが、知らない奴は自分も仲間入りっと。
ただ点検用に、いくつかマンホールがある。
こちらは首都を流れる川と違って出口は無数。当然だが外には誰もいなかった。
さすがにここまでは兵を派遣してはいないよな。
ここは小高い丘の上。遠くには首都の城壁や王城が見える。
しかし寒いね。季節としてはもう冬だ。これから本格的な寒波が来る前にどうにかしたいものだね。
「ここからの眺めは懐かしいものだ。まさか生きてこの景色を見るとは思わなかったよ」
別にいつ死んでも構わない身ではあったが、こうして生き延びたのも何かの運命だろう。
お尋ね者だけどな。
この冤罪は100パーセント晴れないだろうし、さてここからどこへ行くか。
首都に戻るのは阿呆のやることな訳で、当然どっかの町で乗合馬車を使う事になる。
そこまでの移動に関しては問題無い。どの方向に行っても、大体半日もあれば他の町に到着する。何せここが首都だからな。
そこから離れれば離れるほど町の間隔は空いていき、最後は馬車も行けない危険地帯――いわゆる魔物の縄張りって境界線に辿り着く。
もっとも、そこまで行く気は毛頭ない。
出来れば普通に他国。それもド田舎の村が良い。
そこで平穏に暮らせれば十分だ。幸い当座どころか数年分の金は貰ったしな。後は畑でも耕してゆっくり暮らすさ。
そんじゃまあ、危険もないようだしこのまま東にでも向かうか。
反対方向の西に行けば商業都市があるが、今更帰ってどうするよ。
それにいち早く手配書も回っているだろうしな。
「ではさらば王都よ。2度と戻らんが、悪くはなかったわ。良くも無かったけどな」
■ ■ ■
そんな訳でそのまま東へ。
つっても街道を通るほど馬鹿じゃない。
到着は明日になるが、このまま雑木林に囲まれた田舎道を通っていくか。
こうしてのんびりと一人旅としゃれこむが、何せ食べ物が無い。
もう少し早く追放してくれれば、この雑木林にも色々と食えるものがあったろうに。
そりゃ飢餓訓練くらいはしているし、奴隷の食事なんで雑穀汁が1日2回程度。
そもそもそれなりにレベルがあるから、数日の飲まず食わずは大丈夫だ。
だから慣れているといえば慣れているが、生理現象は別物なのだよ。
毒耐性を利用してキノコを見つけては食べて進むが、もう少しいいものが良い。
そういや肉とかいつから食べていないんだろう。
ずっと芋虫共の腐肉を扱っていたので食べたいという気持ちすら沸かなかったが、いざ自由となると食べたくなるのも本能というものか。
ドォーン!
ん?
さほど遠くないところで爆発音。
木が邪魔で良く見えないが、僅かに煙が見える。ありゃ魔法か。
何かの実験か、それとも魔法使いたちの練習か?
「敵襲! 敵襲だ!」
「守り切れ!」
ドォーン!
ドドォーン!
再び響く炸裂音。これはちょっと気になるな。
確かにここは主要な街道ではないが、王都からすぐ近くの道には違いない。
そこで襲撃? しかも襲われているのは護衛付きか。それもかなり上質な金属音がする。
厄介ごとには関わりたくないし、幸い路銀に不足はない。
通報なんてされたら厄介だしな。
しかしそれよりも興味が上回る。
この道を進んで良いかに関する大事な指針だ。
どんな連中がうろついているか分からないんじゃ、安心して進めないしね。
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