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やがて今日も全ての授業が終わりました。皆はなんだか心地よいぬるま湯に身体を浸らせながら、夢でも見ているような気分でした。それでどこか方向の定まらない場所を見つめながら、何も言わずにとぼとぼと教室をあとにしていきました。皆さまも一本の素晴らしい映画を見終わった後には、同じような気分に浸るのではないでしょうか?
結局、ビスはその日一度も学校に戻ってきませんでした。彼はトイレでひとしきり泣いた後には、教室に戻るに戻れずに、学校の周りをぶらぶらとしながら時間を過ごしていました。彼はトイレを出る頃には少しだけ落ち着きを取り戻し、こんなことを考えていました。
――何故ぼくはこんなにもつらい目ばかりに合わなければならないのだろう? ぼくはなにか悪いことをしたんだろうか? 神様はぼくを見放したんだろうか? ぼくはみんなに嫌われている。おっかさんだって、ぼくがテストであんまりひどい点数だから、ぼくなんか産まない方が良かったって言っている。ぼくはどうしてこんなに出来損ないなんだろう? ぼくはなにも悪いことをしていないのに、なんでぼくは……。ぼくはこのまま何もできずに、ただこんな風に苦しみながら死んでいくだけなんだろうか?
彼はこんなことを頭の中で繰り返しながら、校舎横にある電灯の周りをぐるぐる、ぐるぐると回っていたのです。
あるとき電灯には一匹の蛾がやってきて、光をめがけ繰り返し体当たりをし始めました。その度にこつんこつんと小さな音が鳴りました。こつんこつんこつんこつん……。
ビスは尚も頭の中で同じ言葉ばかりを繰り返していました。すると突然、音がパタっと鳴りやみました。ビスははっとして頭上を見上げます。そこに蛾の姿はありません。そのまま視線を戻すと、アスファルトの上には、電灯に照らされた死にかけの蛾が、ぴくぴくと身体を震わせながら横たわっているのでした。ビスはその蛾をひどく哀れに思いました。そしてそれはつまり、自分自身を哀れだと思っているのと、同じことだったのです。ビスは思いました。
――これはぼくなんだ。ぼくはいずれこうなるんだ
ちょうどそのタイミングで、学校から一授業を終えたネズミ達が一斉に飛び出してきました。ビスはそこで我に返り、逃げるようにして家へと向かいました。
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