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 ビスがトイレでそんなことを考えているとはつゆほども知らずに、残ったネズミたちは二時限目の支度を始めていました。二時限目は国語の時間です。ネズミ達は走り疲れてぼんやりとする頭で国語の教室へと向かっていきました。二時限目が始まっても、教室にビスの姿はありませんでした。それで誰かがまたくすくすと笑いましたが、先生に注意されるともうそこで飽きてしまって、その日はもう誰もビスのことなんて考えませんでした。


 国語の先生は少し強面で、いつもなんだか不機嫌そうな顔をしているということで評判でした。しかしそれは単に彼の顔つきの問題で、彼はむしろ他のネズミより優しすぎるくらいでしたが、今日はいつもよりもいっそう眉をひそめて険しい顔で教壇に立ったので(それは彼が、真面目な話をする際の癖でしたが)、生徒たちは内心びくびくとしながら先生の言葉を待ち構えていました。


「君たちはもうわが校の最上級生だ。来年には卒業だし、そろそろ進路を決めなくちゃいかん。そこでだ、今日は先週言っていたように進路調査を行う。しばらくしたら順に聞いていくので、呼ばれたものは答えていくように」

 先生はゆっくりと言いました。


 何かきついお叱りがあるのではないかと思っていたのが、単なる思い過ごしであったことを知って、教室のネズミ達はほっと胸をなでおろしました。それからわっと騒がしくなって、彼らはあれこれしゃべり始めました。

「オレ、やりたいことなんてわかんないよ」


「お前は父ちゃんがやってるレストランで働けばいいだろ」


「えー、でもオレ料理なんか好きじゃないんだよなあ」


 そんな他愛のない会話があちこちで飛び交い、膨らんだ喧騒は当分収まりそうにありませんでした。一方でトルエは教室の前の席で何も言わずに、ただじっと時が過ぎるのを待っていました。


――「コホン!」

 先生の大きな咳払いで、皆は波が引くように静かになりました。

「では、聞いていくとしようか。まず、アルフォードくん」

 呼ばれたネズミは恥ずかしそうに顔を赤らめて、立ち上がりました。


「はい、先生。僕は、学校の先生になりたいです」

 教室からは、おーっといった歓声が上がりました。


「うむ。君は確かに成績も良いし、なにより国語が良く出来る。きっと立派な先生になれるよ」


「ありがとうございます、先生」

 アルフォード君ははにかみ、もじもじとしながら座りました。そんな風に皆は、思い思いの未来を語っていきました。


――「トルエくん、きみはどうかね?」

 順番になって呼ばれたトルエは立ち上がり、答えます。

「はい先生。僕は医者になり多くのネズミ達を病気から救いたいと思っています」

 彼はきっぱりと答えました。このことは彼の中ではもうずいぶんと前から決めていたことだったのです。


「うむ、素晴らしいね。君くらい優秀な子は中々いない。これからもその調子で頑張ってくれたまえ」

 誰かが、茶化すようにヒューっと口笛を吹きました。別の誰かは羨望の眼差しで彼のことを見つめました。まだまだ進路調査は続いてきます。

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