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さて、トルエは学校へと辿り着きました。既にグラウンドには同じクラスのほとんどのネズミが集まっていて、その中にはフォルとその取り巻きの姿も見えました。クラスのネズミたちは寒さで身体を小刻みにぷるぷると震わせながら、体育の先生の周りを取り囲んでいます。先生は、周りの生徒たちとおしゃべりに興じていました。彼は若く、今年先生になったばかりでもあったため、他の生徒とあまり見分けがつかないくらいです。
彼は先生を囲んでいるクラスメイトたちの端の方にそっと腰をかけ、授業が始まるのを待ちました。しばらくして先生は、校舎の中心にある時計の針が二十二時を指し示したのを見ると、
「よし、じゃあ点呼を始めるぞ」
と、低く張りのある声で言いました。
それから順番に、生徒の名前を読み上げていきます。先生に名前を呼ばれたネズミは、元気よく返事をします。というのも、元気がなければやり直しをさせられてしまうことがわかっているからです。このことも彼の体育嫌いを加速させる要因でした。しかし彼は、これにはもう慣れっこでもありました。
――「えー次、トルエ」
「はい、先生!」
彼は、普段の調子からは想像できないくらいに、元気よく返事をしました。先生は彼の返事を聞くと、名簿に丸をつけ、点呼を続けました。
こんな風にして最後まで点呼が終わると、先生はおもむろに準備体操をやってみせました。それは無言の合図です。皆もそれに合わせて準備運動を始めます。身体を動かすと少し暖まり、皆の身体の震えは自然と治まっていきました。
「よし、全員いるな。今日はグラウンドを三周しよう。先生も一緒に走るから、皆一緒に頑張るぞ。では、スタート!」
先生の掛け声で、皆は一斉に走り始めました。トルエは、皆と同時に走り出した後で少しづつ減速し、いつも後ろの方になるグループに付くようにして走りました。彼にとってはそれが一番無理のない、かつ目立たない走り方だったのです。
しかしそれでも、グラウンド三周というのは堪えます(想像してみてください、ネズミの身体で学校のグラウンドを三周するというのは、どれだけ長いことでしょう!)。一周した辺りから既に、トルエや後ろのグループのネズミ達は息を切らし始めていました。
先頭の方には、フォルの姿が見えます。彼はいつも徒競走ではトップだったのです。そのため彼は、体育の授業にだけは遅刻したことがありませんでした。何より彼は身体を動かすことが大好きで、彼からすれば勉強なんてものは運動と比べると取るに足らないものに思われたのです。フォルが今日も一番にゴールした頃、トルエはようやく残り四分の一の地点を通過したところでした。
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