1-9

 翌晩目を覚ましたトルエは身支度を済ませ、学校へと向かいました。


 今晩は昨日とは打って変わって、分厚い灰色の雲が空を覆ってお月様を隠してしまっています。秋の夜にしては少し寒すぎるくらいの日で、ヒューヒューと強い風が何度も吹き、道路の上を枯葉が舞い散っていきました。そのたび彼はぶるぶると身体を震わせ、手を擦り合わせてわずかな暖を取りました。


 火曜日の今日は、彼にとっては憂鬱な一日でした。今日は彼の好きな医学の講義はありません。代わりに、彼の大嫌いな体育の実技があるのです。

「ああ……」

 彼は道すがら、思わず何度もため息を漏らしました。


――何故こんな枯葉の舞う寒空の下、必死にグラウンドを走り回ったりしなければならないんだろう?

 彼はひとり考えます。


――確かに、適度な運動というものは、医学的に見ても大切だろう。しかし、学校であんな風にして走り回って、互いに競い合って順位をつけることに、どんな意味があるんだろうか? 結局は皆、運動などで将来を競い合う訳ではないというのに。ああいうものは、やりたいものだけがやればいいんじゃないだろうか? 少なくとも学校という場所は、もっと将来のためになることを教えるべきなのに……。


 彼は、こんな風に考えていました。

 この文章を読まれている皆さまが、彼の考えについてどんな意見を抱くかはわかりませんが、こういった考え方というのは、実にありふれたものなのです。

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