1-8
「ただいまっ」
ハナは部屋に入るとすぐにお母さんを見つけ、傍に駆け寄っていきました。
「おかえりなさい、ハナ、トルエ」
二匹のお母さんは微笑みながら小柄なハナを抱きしめて、頭を撫でました。ハナは気恥ずかしくもなりましたが、心地よさが勝り、お母さんのことを抱きしめ返しました。
「ただいま、ママ。ピートはもう帰ってきたの?」
ハナはリビングの方をのぞき込むようにして聞きました。
「いまさっき帰ってきたわよ。それよりあなたたち、お腹が空いたでしょう? 今日はごちそうがあるのよ!」
「ほんとに!」
ハナは嬉しそうに髭をぴくりとさせました。
食卓には三つ子の弟のピートと、彼らのお父さんがいました。年季の入った本のテーブルの上には、綺麗な装飾が施された銀製のお皿が敷かれていて、その中には、分厚い牛肉の塊が入っていました。二匹はそれを見て飛び跳ねました。
「お腹が空いたから先に食べてしまおうかってパパと話してたところだったよ」
トルエとハナがやってきたのを見ると、弟のピートがからかうように言いました。
「危ないところだったわね、おにいちゃん。私、もうお腹ペコペコよ。早く食べてしまいましょうよ」
ハナが急かし、二匹はテーブルの前に座りました。
「でも父さん、今日は特別な日という訳でもないのに、どうしてこんなご馳走なの?」
トルエは、テーブルの上に置かれたナイフの背をなぞりながら、お父さんに尋ねました。
「今日は仕事先でチーズハンターをやっている方とのやり取りがあってな。それで彼に頂いたんだよ。お前らも、こんな風に美味しいものが食べられるのは彼らが危険を冒してくれているからなんだから、感謝しないといけないぞ」
「そうだったんだね父さん。もちろん、ちゃんと感謝しているよ」
トルエはそう言うと、小さな手を鼻の所に当て、何か考える素振りを見せました。
「私もちゃんと感謝してるよー? うん、美味しい!」
「あ、ハナ! 抜け駆けしてずるいぞ!」
ハナとピートはそんなことはお構いなしに、お肉の取り合いを始めています。
「こらこらあなたたち。こんなにたくさんあるんだから、ゆっくり食べれば良いでしょう」
お母さんはやれやれとため息をつきます。それを見るとトルエも考えるのをやめ微笑みました。それから皆は夢中になって食べ始めました。
食事中、家の中では絶え間なくおしゃべりが飛び交い、中でもハナは楽しそうに、学校であった出来事を話して聞かせました。トルエは自分からこそあまり話しませんでしたが、それでもハナの話を聞くのは好きでした。
彼女にはネズミを惹きつける魅力が、朗らかさがあったのです。朗らかさとは、それがあるだけでとても素晴らしいものです。食事は楽しいものでした。トルエはその頃にはもうすっかり気分が良くなっていました。今の彼には、フォルのことであれこれと頭を悩ませるのは心底馬鹿らしいことに思えました。それで段々と心地よい眠気がやってきて、安らかな眠りへとついたのです。
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