1-6

 「あ、おにいちゃん!」

 しばらく歩いていると、トルエの後ろから声がしました。


「やあハナ、今日はめずらしく帰りが一緒なんだね。お友達とは話してこなかったの?」

 彼は振り向いて答えます。


「ううん。話してたんだけど、お腹がすいたから急いで帰らなきゃと思って走ってきたの」


 三つ子の妹のハナがそう言うと、まるでタイミングを見計らったかのように、彼女のお腹がぐうと鳴りました。それで彼女は照れくさそうに笑いました。それを見て、彼も微笑みました。二匹は揃って歩き出します。


「一限目の授業、大変だったよね。フォルのやつったら、いっつも皆に迷惑かけてばかりなんだから!」

 道すがら、ハナはつんとした口調でフォルの話題を彼に投げかけました。


「うん、そうだね。僕は、先生が言っていたように、彼のお母さんにちゃんとそのことを伝えるべきだと思うよ」

 彼は大まじめに、自分の考えを述べました。


「それはダメよ! そうしたら彼のお母さん、本当に倒れてしまいそうだもん。それに、今は病気で色々大変みたいだし……」


 それは彼の知らない話でした。それで彼はちょっと驚いて尋ねました。

「そうなんだ。でもどうしてハナがそんなことを知っているの?」


「えっ。あ、いや……友達に聞いたのよ!」

 ハナは慌てて言いました。その様子から彼は何か妙な違和感を感じ取り、気になりもしましたが、空腹と疲れも相まって、もうそれ以上は聞かないことにしました。

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