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授業ももう終わりという頃に差し掛かったとき、教室の後ろ側の廊下の方から、ガヤガヤと騒がしい話し声が聞こえてきました。その声は次第に大きくなり、やがて扉を開け正体を現しました。皆は興味津々な面持ちで後ろを振り向きます。先生も渋々話すのを一旦止めて、扉の方を見やりました。
そこには、三匹のネズミがいました。真ん中にいる、ひときわ大きな体つきをしたネズミは、黒茶色の刺々とした毛を纏い、堂々と構えながら、涼しい顔をして教室のネズミたちの顔を見つめ返しています。彼の名はフォル。一瞬の静寂の後に、はにかみながら彼は言いました。
「すみません、遅れちゃいました」
彼は悪びれる様子を少しも見せずにそう言ってから、ズカズカと教室内を進んでいき、空いている場所を見つけると、そこにどっしりと座り込みました。あとの二匹もそれに続きます。教室内にはピリッと緊張した空気が稲妻のように駆け抜けていきました。
「君、これは何回目の遅刻かね?」
フォルが着席するのを待ってから、先生は努めて落ち着いた口調でフォルにそう問いかけました。
「そんなこと一々覚えてないですよ、センセイ!」
フォルは、相変わらず軽い調子で返しました。
「私の記憶の限りだと、少なくないことは確かだね、君。あまり遅刻が目立つようでは私としても何か対策を、例えば、親御さんに報告をするなどしないといけない。けれど私としてもそんなことはしたくないのだよ、それは分かるだろう?」
先生はフォルの態度を見てやや憤慨してしまい、冷淡に言い放ちました。
しかしフォルの方ではそれを少しも気に留めない様子で、
「澄み切った湖のごとく、夏深き青空のごとく明快にわかります、先生。僕としても、やはりお母さんにそんなことは知られたくありません。自分の息子が放蕩息子であると知ったら、お母さんは卒倒するに違いないでしょう。お母さんは何も悪くありません。悪いのは僕なんですからね。ですから、お母さんを守るためにも、僕が努力しましょう。今度からは決して遅刻しませんよ! 神に誓って約束いたします」
と言いました。教室ではどこからか、くすくすと笑い声が聞こえてきました。
それで先生は呆れてしまい、やれやれと一度深いため息をつきましたが、身に着けた腕時計にちらりと目をやると、
「えー……、まったく仕方ないね。今回までは大目に見てあげるとしよう。ただし、次私の授業に遅刻してきたら、そのときは覚悟するように。さて、もう私の授業時間は終わってしまったようだ。次の授業からはきちんと出席するんだよ」
と言って、教室をあとにしました。
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