第45話 剣身一体

 ———【剣身一体:白】。


 俺が1か月の間に会得した剣聖の奥義的技で、文字通り剣と一体化する。

 一体化した剣によって俺の姿は勿論、能力も変わるのだ。


 そもそも、【魂白剣】も【魂怨剣】も一種の概念的武器に分類される。

 【魂怨剣】が今まで剣聖がその手で殺してきた者達の怨念から出来上がったモノだとすれば、【魂白剣】は剣聖という1人の剣の極みに達した人間の魂そのものの具現化と言っても良い。

 だから俺は始め使いこなせなかったのだ。

 魂は同一であっても、剣人と剣聖では歩んできた道のりが違う。


 よって———俺も剣術を完全に自分のモノにしなければならなかった。

 

 しかしこの1か月———実際に修行をしたのは2ヶ月———の間、ダークサイドとの本気の殺し合いは勿論、彼が居ない間はひたすら基礎を繰り返していたことが功を奏し、ギリギリで【魂白剣】と一体化出来るまでになったのだ。


「ふぅ……やっぱり慣れないな」


 俺は自らの身体を確認して苦笑する。

 全身に白銀の魔力を纏い、髪は魔力や剣と同じ白銀に染まっていた。

 ダークサイドが言うには瞳も白銀らしいが……定かではない。


 俺は自らを包む膨大な魔力によって創り上がった白銀の繭を、同じ白銀を纏う腕を軽く振るって斬り裂く。

 開けた視界に、此方を見て驚愕している神達の姿が映った。


「すげぇ……人間の身でその頂きに達した奴が居るとはなぁ!! これは面白くなりそうだぜッッ!!」

「……姿が変わろうとやることは変わらない。私はただ、敵を屠るのみだ」

「…………」


 3者それぞれの反応を見せる中、チラッと佳奈の様子を窺う。

 しかし、先ほどと変わらず白目を剥いて動きを停止させていた。


 ……まだ目覚めてない、か。

 まぁ流石に佳奈と戦うのは精神的にキツいから良いんだが……。


「まぁ、佳奈の様子はアンタらを倒してからにするか」


 姿勢を低くして両手を地面に向けて翳す。

 すると、俺の両方の手のひらから一振りづつ白銀の剣———【魂白剣】と良く似た剣が体内から生えてくるかの如く出てきた。

 俺は素早く剣の柄を掴み、3人の内、1番面倒だと思われるスカジに視線を向けると同時に片方の剣を振るう。


「チッ、避けろ!!」

「!?」


 ———スパァァァァァァンッッ!!


 スカジに向けて放った不可視の飛ぶ斬撃は、亜光速並の速度だったはずだ。

 それをアレスがスカジの身体を吹き飛ばしたことで回避されてしまうとは……ちょっと相手を見くびっていたかもしれない。


「……な、何だ今のは……」

「馬鹿野郎!! 何ぼーっとしてやがんだ! アイツ、仲間の身体だっていうのに本気で攻撃してきたんだ! アイツは甘くねぇ! オレと同類だと思って戦え!!」


 アレスが呆然とした様子で後方の壁に刻まれた斬撃痕を眺めるスカジに、恐ろしい程の気迫の籠めて叱咤すると。


 ———ガキィィィィィッッ!!


 一瞬にも満たぬ間に俺へと接近———拳を振るっていた。

 対する俺は、剣を盾にして防ぎ、反対の剣で反撃の一太刀を浴びせる。


「おっと、そいつに当たるのはやべぇよなぁ!!」

「はっ、お前は確かに剣聖と同類らしいな」


 半身を反らして剣を躱したアレスに、俺は僅かに笑みを浮かべた。

 そんな俺の様子にアレスも笑みを深めると。


「やっぱり強者との戦いはこうでなくちゃな!! 燃えるぜ!!」

「奇遇だな、俺もだ」


 アレスが1段階ギアを上げたのか、先ほどとは比べ物にならない速度で、全身を使いながら怒涛の連撃を繰り出してくる。

 それも変幻自在、縦横無尽という言葉が相応しい程に変則的に。

 しかし俺は、その全てを見切った上で一瞬の内に最善手を判断。

 次々と迫る連撃を両手の剣で受け流し、避け、反撃する。


 ———ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッ!!


 絶えず響き渡る剣と拳の衝突音。

 音は空気を揺らす波紋となり、波紋はやがて物体にも影響を及ぼす。

 壁は破壊され、地面は陥没し、天井にぽっかりと穴が開く。


 一応補足だが、佳奈はこの程度の衝撃波ではびくともしない。

 魔法少女の服が常時この程度の攻撃は無効化してしまうからだ。

 つくづく素晴らしい衣装である。


 何て、アレスの攻撃に集中しながら俺が頭の隅で考えていると。

 

「———【氷雨】」


 太陽の光が入ってきたと同時。

 俺へと音速を遥かに越えた速度で氷の雨が降り注いだ。

 それも1つ1つが容易に鉄を貫く程の硬度を持った鋭い氷が、アレスの攻撃を一切邪魔すること無く上手く合わせるように。

 人間離れした神業の如き操作能力であり、間違いなくスカジの仕業だ。


 しかし、あまり俺を見くびって貰っては困る。

 此方も対多数への対処法はあるのだ。



「———【我が半身たる剣よ、護れ】」



 刹那、俺に迫っていた氷の雨が砕け散る。

 細かい氷の残骸がキラキラと太陽の光を反射して煌めいていた。

 これにはスカジは勿論、流石のアレスも表情を崩す。


「なっ……アレにも対応できるのか……!?」

「けっ、オレの攻撃を捌きながら別の剣を操作出来んのかよ……つくづくバケモンだなお前はよぉ!!」


 そう、氷の雨を破壊した———今もスカジの放つ氷を斬り飛ばしている———のは、俺の周りに浮遊する2本の白銀の長剣だ。

 勿論手に持っている剣とは別で、俺の魔力から新たに創造された物である。

 わざわざ言葉にしたのは、思考リソースを極力アレスと佳奈に使ってたいからだ。

 ところで……。

 

「おい、お前らの仲間のトールとか言う奴は動かないのか?」

「アイツは未だ目覚めない最後のオレらの仲間の護衛だよッ!! それに———」


 突如アレスが獰猛な笑みを浮かべたかと思えば、地面を強く踏む込んだ。

 同時に、魔法少女姿のアレスの身体から膨大な金色の魔力が迸る。

 その金色の魔力が奴の両拳に籠められると———。


 


「———あんま、オレらを嘗めるなよ?」




 圧倒的破壊力を包括した打撃が、俺の剣を穿つ。

 その一撃は、俺が持てる技術を使って力を受け流したにも関わらず———身体を遥か上空に突き飛ばした。


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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