第44話 魔法少女が作られた理由

「———どうやって気付いたのか、聞いてもいいか? 儂の隠匿技術は完璧だったはずなんだが……」


 口元を三日月に歪めたまま首を傾げて問い掛けてくる時間魔法士———時野谷。

 彼の隠匿技術は確かに完璧だった。

 しかし、俺が笹岡を疑っていたのは……仕草や態度ではない。



「魔力だ。お前の中に、別の魔力が混ざってるだろ? ———神の魔力が」 



 俺はこの1か月、腐っていても神であるダークサイドとずっと過ごしていた。

 よって少し独特な神の魔力というものを覚えていたのだ。

 

 そして———笹岡はダークサイドと同じ特徴の魔力をその身に宿している。


「始めは神の魔力を宿しているのに疑問は生じたが……そんな奴も居るのか、とスルーしていたんだが……お前の話を聞いて合点が言ったってわけだ」

「ハハッ、なるほど……儂自ら答え合わせをしてしまったわけか。それでは、その幽霊の少女はどうやって私を見抜いた?」


 今度はレイの方を向く。

 レイは普段のぼーっとした瞳に警戒の色を混ぜながら言った。


「笹岡実の、心象世界」

「……!? まさか覗けるのか、他人の心象世界が……!?」

「……そう。笹岡実は、空が巨大な時計で出来ていて、巨大な砂時計が置いてある世界だった」

「正しく儂の心象世界……!! よもや、儂に気付かれずに心象世界に侵入できる者がこの世に存在するとは……!!」


 何やら興奮した様子で目を見開く時野谷だったが……俺はさっぱり言っていることが分からなかった。

 

 何だよ、その心象世界って。

 字面を見たらその人の心を映した世界っていう解釈になるけど……レイはその世界に自由に出入り出来て、その能力が物凄い珍しいってことか?

 まぁ、今はそんなことどうでもいい。


「それで……お前は何のために魔法少女を作った? 馬鹿正直にお前を斃すために魔法少女を作った、何てわけじゃないんだろう?」

「勿論だ」


 そう言った時野谷が懐からナニカのボタンを取り出したかと思えば……母さんが驚愕の声を漏らした。


「———【強制命令キー】!? それは開発段階で組み込まないことになったはずじゃ……!?」

「ああ、だが……儂がこっそり組み込んだ。———全員の魔法少女に、な」


 そう言うと同時———突如4つの魔力が膨れ上がる。

 勿論4つの魔力とは、佳奈、詩織、莉央、先ほど3人を見下していた最後の魔法少女である神崎雫の4人。

 恐らく魔力を放出する様にその【強制命令キー】とかいうモノで命令したのだろう。


 白目を剥いた彼女たちが発生させる可視化された魔力が奔流となって隔離した空間を揺らし———。


「……っ、限界っ」


 そんなレイの呟きの直ぐ後、彼女1人で耐えきれる魔力の総量を越え、空間の隔離が消失する。

 隔離が消えると、4人の魔力が天井を消し炭にして空へと続く穴を開けた。


 同時———4人の魔力に天から降り注いだ神の魔力が入り込んだ。


 ———ビクンッ!!


 佳奈達の身体が大きく痙攣を起こして動かなくなったかと思えば、体外に放出されていた魔力が消える。

 そんな先ほどとは打って変わって恐ろしいほど静寂がこの空間を支配する中、時野谷が狂った様に嗤う。


「ハハハハハハハ! 遂に成功だ! 剣人君、君は先程魔法少女を作る理由を私に問うたな!? これが答えだ! 神の完全な力に耐えうる人間を作る、それが魔法少女の存在意義だ!! まぁあくまで魔法少女は保険だったのだが……神とこの世界の繋がりが強くなればその分召喚するのも容易いので、結果オーライと考えるとしよう」

「……なるほどな。通りで気配が変わったわけだ……最悪だな」


 俺は母さんを護りながら舌打ちをする。

 気配が変わったということは、今の魔法少女の人格は降りてきた神そのものというわけだ。


「レイ、母さんを連れて逃げろ」

「……分かった。その後、応援を呼ぶ。私の師匠」

「それは心強い。頼んだぞ」

「……ごめんなさい、剣人。私達が魔法少女を作ったばかりに……」


 母さんが罪悪感に押し潰されそうな表情で唇を噛む。

 俺はそんな母さんに笑みを浮かべた。


「気にすんなって母さん。俺は母さんに似てガサツであんまり気にしないタイプなんだ。ほら、レイに掴まって」

「……必ず生きて私の前に帰ってきなさいよ」

「ピンピンした状態で帰ってくるよ。佳奈と一緒に、な」


 俺が親指を立てて口角を上げたと同時———2人の姿が消える。

 レイが新たに習得した転移術だ。

 やはり空間系の術は実に有能だな。


「さて……わざわざ待ってもらって悪かったな、神様達」

「別に構わねぇ。オレは、この世界の強い奴と戦いたいだけだからな」

 

 そう言って獰猛な笑みを浮かべるのは、莉央に憑依した神。

 彼からは、俺と同じ気配———武人の気配を感じる。


「それにしても……すげぇな。全力とまではいかねぇが、数分なら9割の力は出せそうだぜ。良くやったじゃねぇか、カオス様の契約者」

「お褒め頂き光栄です。それでは、儂……いえ、私はカオス様をこの世界にお呼びして参ります」

「おうよ、行って来い。お前に居てもらったらこっちが集中できねぇ」


 シッシッ……と追い払うような仕草をする莉央に憑依した神だが———俺がそれをただ黙って見ているはずがない。


 【魂白剣】を握り、地を蹴る。

 一瞬にも満たぬ内に時野谷に接近した俺は、首に向かって水平に剣を振るう。

 しかし、首と剣の間に地面から生えた氷の棘が現れ、衝突。


 ———ガキィィィィィッッ!!


 甲高い金属同士のぶつかる音と共に、詩織に憑依した神が詩織の身体で口を開く。


「彼はカオス様の契約者。私の名の下に絶対に彼を殺させはしない」

「おぉ、スカジは相変わらずかてぇな。あ、だから氷を操るのか?」

「その五月蝿い口を閉じろ、アレス」


 どうやら詩織に憑依した神をスカジ、莉央に憑依した神をアレスと呼ぶらしい。

 ……2人とも神話違うけどそこの所はどうなんだろうか。

 まぁ何でも良い。


「なら、アンタは何者なんだ?」


 俺は、時野谷を取り逃がしたことに舌打ちしつつ、一先ず奴らから距離を取って未だ動かない佳奈から視線を外し、雫に憑依した神に問い掛ける。

 

「…………」

「おいおいトール、返事くらいしてやれよ」


 雫に憑依した神はトールか。

 皆んな有名な神ばっかだな。

 ……透がこの場にいたら間違いなく喜びで発狂しそうな面子だ。


 ただ、有名が故に、一筋縄ではいかないことを意味する。

 そんなことは承知の上、俺は3人の魔法少女の姿をした神に向かって笑みを浮かべた。


「急いでアイツを追わないといけないんでな。全員纏めて、相手してやるよ」


 俺は【魂白剣】の柄を両手で握り———唱えた。






「———【剣身一体:はく】」





 

 白銀の魔力が輝いた。


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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