第43話
「———さて、と。俺と詩織の手合わせも終わったことだし、計画の確認をするぞ」
俺は集まった面々を見渡しつつ言う。
現在俺達は訓練所から離れ、本来は研究者達が討論や議論を行う際に使う会議室にやって来ていた。
集まっているのは———俺、レイ、佳奈、母さん、笹岡、詩織、そして残りの魔法少女達なのだが……1人、この部屋に入ってからずっとキラキラ瞳を輝かせて俺を見ている少女がいるせいで気が散るのだ。
俺は遂に視線に耐えかね、歳は佳奈と同じくらいで如何にも活発そうな見た目の日焼け少女に問い掛ける。
「あー、君の名前を聞いても良いか?」
「勿論だぜ、兄貴っ! オレは【魔法少女プロジェクト成功被験体:マーク2】の
この際兄貴呼びはスルーするとして……多分君は透と話が合う気がするよ。
アイツ、精神年齢はまだ小学生くらいだから。
「宜しく、えっと……莉央?」
「おう、兄貴っ!」
太陽のような明るい笑みを浮かべ、俺の手を両手を握りながら頻りに『剣教えて!』と言ってくる莉央。
しかし、途中で佳奈と詩織に引き剥がされていた。
「な、何するんだよ!?」
「ダメですよ、莉央。これから剣人さんは計画のお話をするのですから」
「そうだよ、莉央っ! それに、お兄ちゃんは私のお兄ちゃんだからね!?」
「勿論知ってるぜ! でもオレはお兄ちゃんじゃなくて兄貴だからな!」
正論で諭す詩織と、俺が取られそうで怖いのか、必死に俺が自分のお兄ちゃんだと力説する可愛い佳奈だったが……謎理論を振りかざした莉央の前に2人揃って頭に疑問符を浮かべていた。
因みにもう1人の魔法少女はと言うと……。
「……ふんっ、これだから精神年齢の低い奴は……」
此方は此方で非常にキャラが濃かった。
見た目こそ詩織と同じくらいでアイドルの様に可愛い系の整った顔立ちをしているが、3人の様子を部屋の端の壁に寄りかかりながら露骨に見下している。
ただ、別に敵意があるわけではないので放っておいても大丈夫だろう。
俺は1度咳払いをして、弛緩した空気を変える。
「んんっ! それじゃあ本題に入ろう。まず、計画の概要だが……決行は土曜日の夜だ。一応この計画に直接関わる俺達の大半が学生だからな。そして時間魔法士が何処に居るかは、魔法使い側が知っていると聞いている」
「ええ、そうよ。アイツ……時間魔法士は、普段は一般社会に溶け込んでいるの。剣人は『時野谷ホールディングス』って知っているかしら?」
勿論知っている……というか知らない人は中々居ないと思う。
時野谷ホールディングスは俺が生まれた頃に出来た会社で、様々な業界に手を出して成功しており、今や日本でも有数の会社である。
ただその名前が出てきたということは……。
「もしかして、その代表が時間魔法士とかなのか?」
「そうだ。表では一気に巨大になった企業だが……時野谷ホールディングスと競争になると、必ず相手企業のトップが死ぬ。それも———老衰で、だ」
「……寿命を吸い取っているのか?」
俺の言葉に笹岡が神妙な面持ちで頷く。
「あぁ、儂らはそう推測している。他人の時間を奪う……そんなことはあってはならない禁忌だ。しかし、その程度で魔法少女を生み出す理由にはならない」
「「「「「!?」」」」」
佳奈達魔法少女達だけでなく、研究員である母さんまでもが驚愕に染まった表情で局長に視線を送った。
どうやら皆んな今笹岡が言ったことまでしか知らないらしい。
「……なら、奴は何をしたんだ?」
眉をひそめる俺の問い掛けに対し、笹岡が言った。
「———神界の過激派と結託し、この世界を滅ぼそうとしている。奴は方法は不明だが過激派の空間を司る神とコンタクトを取って契約し、神界とこの世界を繋げる次元の裂け目を作ろうとしている」
笹岡のあまりにもスケールの違う話に、俺とレイ以外の誰もが言葉を失う。
そんな中、俺はレイは1度目配せをした後……幾つかの疑問と俺の中での答え合わせをするべく口を開いた。
「……幾つか、質問良いか?」
「ああ、構わない」
「じゃあ遠慮なく。———何で神様達は俺達の世界を狙うんだ?」
まずはそれだ。
神がわざわざこの世界を狙う意図が読めない。
「……簡単に言えば、浄化だ。この地球を汚す人類、増えすぎた人類という病原菌を排除するために。しかし神の中にもまだ見守ろうと言う穏便派もいれば、直ぐに滅ぼせと豪語する神もいる。後者が———時間魔法士と結託した神達だ」
「なら、わざわざこの世界の人間を使う理由は? 神だけで此方の世界に来ることだって出来るだろう?」
俺は続けて質問を行う。
対する笹岡は、首を横に振った。
「出来る、が……あくまで憑依という形を取らねば顕現できない。しかし……此方の世界の人間がコンタクトを取ってきた場合は別だ。この世界から神を呼び込めば神は自らの身体で動くことが出来る」
「なるほどな……良く分かった。それじゃあ……最後の質問をしてもいいか?」
笹岡は促すように頷く。
俺はそんな笹岡を見据え———レイに親指を立てる。
同時にレイがこの場に強力な空間断裂術を発動。
一瞬視界が歪み、会議室内を隔離する。
「な、何してるのお兄ちゃん、レイお姉ちゃん!?」
「佳奈、それと皆んなも———今直ぐ俺の近くに寄れ」
突然纏う空気を一変させた俺とレイの様子に笹岡以外の面々が戸惑いながらも、俺の周りに寄る。
その間、俺は殺気を浴びせて笹岡の動きを牽制していた。
しかし俺の殺気の中で、余裕の笑みを浮かべたままの笹岡が肩を竦める。
「急にどうしたのいうんだ? 儂を親の仇の様に睨んで」
「当たり前だろ? さっきも言ったが……お前が居なければ、佳奈はこんな危険な世界に両足を突っ込むことはなかったんだ。なぁ、笹岡……いや———」
俺は【魂白剣】を召喚させながら、奴の正体を告げた。
「———時間魔法士」
笹岡———時間魔法士は、口元に三日月のような薄気味悪い笑みを浮かべた。
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
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