第42話 剣人VS魔法少女(佳奈side)
———訓練所では、お兄ちゃんと詩織の戦いが始まろうとしていた。
「……物凄く良い剣ですね。まだあまり生きていない私でも、今後コレ以上の剣は見られないと断言できます……」
「それは嬉しいことを言ってくれるな。俺の自慢の剣なんだ」
そう嬉しそうに笑みを浮かべるお兄ちゃんが握るのは、白銀に輝く長剣。
私が見た漆黒の剣とは真反対の、何処までも暖かい光を帯びた剣。
「……何だ、あの剣は……あの魔力は……」
これには、流石の局長も口を半開きにして呆然とお兄ちゃんの剣を眺めていた。
そんな局長を横目で見ていたレイお姉ちゃんは、自分のことの様にドヤっている。
「でも……詩織のソレも凄いな」
お兄ちゃんの声が聞こえ、意識を2人に戻す。
どうやら今度はお兄ちゃんが詩織の魔法少女姿を褒めているようだ。
立体的なレースが付いた蒼白のインナーミニドレス———スカート部分の前側が短くて後ろ側が長い———に身を包み、耳には氷の花のイヤリングを付けている。
髪と瞳は淡い青に染まり、160前半まで伸びた身体の周りには蒼白の魔力を帯びており、辺りのモノを凍らせていく。
そして———手には、冷たい空気と魔力を纏う蒼白の細剣を握っていた。
詩織は魔法少女にしては珍しく、特化型だ。
勿論魔法少女なので全ての魔法が使えるが……特に剣術と氷に秀でていた。
その力量は、他の魔法少女を寄せ付けない程のモノである。
だから、魔法少女の特注服は氷と動きやすさに特化していた。
また、魔法のステッキではなく魔法剣が同じ機能を果たす様に出来ている。
「ありがとうございます、剣人さん。私も、この姿は気に入っているんです」
とても小学生とは思えない大人びた姿に変化した詩織が、可憐でありながら妖艶な笑みを浮かべる。
「さて、そろそろ開始と行こうか。構えな、詩織」
「勿論です。それでは———行きます」
腰を低くして細剣を構えた詩織が、短く白い息を吐き、地面を踏み込む。
『ドゴンッ!』という地面が陥没する音と共に詩織の姿がかき消え———一瞬にしてお兄ちゃんの眼の前に移動。
容赦のない鋭い刺突を放つ。
心臓目掛けて放たれた神速の一撃は、寸分違わずお兄ちゃんの胸へと———。
———ガキンッッ!!
突き刺さることはなかった。
構えてすらいなかったお兄ちゃんの剣が、いつの間にか詩織の細剣を弾き返していたのだ。
これには詩織も驚愕に目を見張り、唸る。
「くっ……アレが跳ね返されるなんて……」
「その細さで、その力と耐久力。身体能力、剣の耐久力共に凄いな。そりゃあ魔法少女が魔法使いの集大成と呼ばれるだけあるな……っと」
お兄ちゃんは体勢を立て直した詩織の怒涛の連続刺突を全て避けながら、魔法少女というモノを冷静に分析する。
まるで、大人と子供の戦いだ。
それ自体は詩織も理解しているのか、一瞬で後ろに引き、感嘆の声を漏らした。
「す、凄いです……私の剣撃がまるで通用してない……」
「俺からしたら、小学生がこれほどの剣撃を振るってることに恐ろしさしかないんだけどな」
お兄ちゃんはそう言って苦笑する———と同時に小さく目を見開いた。
そして、詩織が小さく笑みを零す。
「これは……」
「
そう、お兄ちゃんの四肢が凍っていたのだ。
どころか、訓練所全てが霜に包まれ、一部の空気ですら凍っている。
これこそ詩織の十八番。
相手は詩織と戦えば戦うほど動きが鈍くなり……最終的には動けなくなる。
お兄ちゃんは魔力すら纏っていないから完全に凍っていた。
「ふん、所詮香里君の力はこの程度だったか」
凍ったお兄ちゃんの様子を眺めながら失望を瞳に宿す局長。
しかし彼とは正反対に、レイお姉ちゃんの瞳には信頼が宿っていた。
勿論、私のも。
「やはり計画は中止———」
「———笹岡実、黙って見てろ。剣人は、この程度で負けない」
「そうですっ! あまりお兄ちゃんを舐めないでくださいっ!」
私達の気概に押された局長が、無言で2人に視線を戻した。
中では、完全に凍ったお兄ちゃんを詩織が眺めていた。
「これで、私の勝ち———」
「———ふんっ!」
詩織が細剣を納めようとした瞬間———お兄ちゃんの身体から膨大な魔力が放出。
たちまち水蒸気が発生し、凍っていたお兄ちゃんの身体が溶ける。
お兄ちゃんは、驚愕に染まった詩織にプラプラと手を振りながら宣う。
「良い性能と戦い方だな、詩織。そのくらいの力量で空間系の魔法も使えるなら本当に世界を創造できそうだ」
「う、嘘……完全に凍ったはず……」
「わざとな。どの程度のもんなのか知りたかったんだ」
気付けば———お兄ちゃんの身体が詩織の隣にあった。
まるで初めからそこに居たかのように、何の予備動作も無しに移動したのだ。
詩織は顔を向ける前に反射で細剣を振るう。
正しく最速の一撃だ。
———ガキィィィィィンッッ!!
しかし、お兄ちゃんには通用しなかった。
細剣は完璧に受け止められ、それどころか反撃の蹴りを食らう。
「ぐはっ———!?」
ギリギリ自らの身体に引き寄せた細剣でお兄ちゃんの蹴りを受け止めるも……詩織の身体が弾丸の如き速度で吹き飛ぶ。
そんな吹き飛んだ先にはお兄ちゃんが立っており、詩織の身体を受け止めた。
「ぐふっ!? じ、自分で蹴っといて何だけど、結構力入れすぎたな……」
「……どうして私を助けたのですか? やっぱり私を子供だと思っているんでしょう?」
詩織は悔しそうに唇を噛み、潤んだ瞳でお兄ちゃんを睨む。
対するお兄ちゃんは、再び剣を構えて言った。
「いや、あの蹴りは俺のミスだ。だから俺は詩織を助けた……要は尻拭いだな」
「……??」
「つい癖で足が出たんだよ。本来は剣だけで戦う予定だったんだ」
足が出る癖……お兄ちゃん、あの1か月の間に何があったの?
私が苦笑するお兄ちゃんの姿にため息を吐くと……レイお姉ちゃんも同じ様に小さくため息を吐いていた。
しかし———訓練所の中の空気が一気に変わったことにより、否応なしに意識が中へと戻されることになる。
「詩織、今から力を少し開放する。良いか、絶対に受け止めきれないと感じたら迷わず避けろ」
「……は、はい……!」
真剣な表情のお兄ちゃんの気迫に押され、詩織がコクンと小さく頷いた。
瞬間———膨大な白銀の魔力が奔出する。
暴れ狂う魔力が生み出す突風は、幾重にも張り巡らされた魔法陣によって護られた訓練所の壁に易易と亀裂を刻み、押さえきれない力が研究所自体を揺らす。
「ば、馬鹿な……!? 全研究員に告ぐ! 今直ぐ防衛システムを発動させろ!! 場所は訓練所だ! 急げ!!」
焦った様子の局長が拡声魔法で指示を飛ばしつつ、自らの身を護るために幾重にも魔法を発動させ始めた。
そんな局長に遅れること数秒。
訓練所の周りを囲むように、最高品質の魔鉄———魔力を数千年掛けて蓄積させて遥かに硬度が増した鉄———で出来た防護壁が出現する。
更に防護壁の外側には、空間断裂の魔法が発動。
この一角を完全に研究所から隔離した様だ。
因みにこれほどまでに様々な事象を引き起こした張本人であるお兄ちゃんは、防護壁などのことは全く気付いていない様子だった。
その様子に、私もレイお姉ちゃんも苦笑する。
お兄ちゃんは小さく白い息を吐き、白銀に輝く長剣を上段に構える。
「行くぞ、詩織」
「は、はい……!! ———【魔法剣術:絶対零度】ッッ!!」
詩織が自身の魔力の大半を使用して膨大な魔力を籠めた細剣で虚空を刺突。
刹那———空間が物凄い勢いで凍り付いていき、空間全てが動きを停止させる。
正しく絶対零度に相応しい完璧な技。
しかし、全ての原子が動きを停止させる程の極寒の中で、白銀の魔力が一気に剣に吸収され、魔力が白銀の剣を更に装飾する。
やがて全ての魔力を吸収して刃渡り3メートル程の大剣になった白銀の剣を、お兄ちゃんは両手で持ち———地面が陥没する程に踏み締め、振り下ろした。
「【剣聖流剛剣術:天地破断】」
瞬間———白銀が視界を埋め尽くす。
文字通り、天地を斬り裂く必殺の一撃が放たれた。
—————————————————————————
新作上げました。
コメディー作品です!
是非見てみてください!
『さぁ、美少女を救うラブコメを始めよう』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます