第4章 剣聖と時間魔法士

第41話 顔合わせ

 ———修業を終えた次の日の放課後。


 制服姿の俺とレイ、佳奈の3人は、研究所とやらに向かうためにとある普通の3階建てマンションへとやって来ていた。

 そこで佳奈先導の下、マンションの中に入って1階のこれまた何の変哲もない一室の扉の前に立ち止まる。

 しかし、この部屋は外から上手い具合に見えない様に設計されているらしい。


「……佳奈? 此処なのか?」

「ちょっと待ってね、お兄ちゃん。———【魔法少女プロジェクト成功被験体:マーク4】」

『———認証致しました。ドアノブを捻ってください』


 突然インターホンを押して佳奈が自らの魔法少女名を名乗ったかと思えば、インターホンが自ら機械的な音声で話し始めた。

 これには俺もレイも少し驚く。


「……何かちょっと格好いいよな」

「……分かる。これ、スパイの映画で出てた」

「お兄ちゃん、行くよ」


 佳奈がドアノブを掴み、此方に視線を送る。

 そしてドアノブを開くと———。













 ———扉の中に吸い込まれるように転移させられた場所は、正しくドラマや映画の世界で見るような研究所だった。

 近未来的な機械に様々な魔法陣が起動しており、並んだ巨大な試験管の中には水に浮かんだ赤子が色々なモノを取り付けられている。


「へぇ……ここが、ウチの佳奈を危険な世界に巻き込んだ野郎共がいる所か。道理で濁った魔力を感じるわけだ」

「な、何てこと言うの、お兄ちゃん!? 会わない間にお口が悪くなってる!?」

「そんなことも、ない。剣人は、佳奈を溺愛してる。当然の言葉」


 その通りだ。

 俺はただ、佳奈を心配に思っているだけなのである。


 佳奈を抱っこして歩いていた俺とレイの下に、白衣に身を包んだ1人の初老の男性がやって来る。

 此方に嫌悪感の籠もった視線を向けて。


「———香里君の息子は、少々言葉が荒いんだな。魔法使いと科学の技術の結晶であるこの研究所に対して随分な言い草だ」

「でも事実だろ。あんたらが佳奈を魔法少女何かにしなければ危険な目に遭———もごっ!?」

「お兄ちゃん、抑えてっ! このおじいちゃんがこの研究所の責任者だからね!?」


 俺が言い返している途中で佳奈に手で口を塞がれ、焦った様子の佳奈が眼前の男の正体を明かす。

 初老の男は、佳奈のおじいちゃん呼ばわりに若干傷付いた様子を見せつつ、咳払いをして手を差し出した。


「……儂はこの研究所の責任者である笹岡ささおかみのるだ。君との相性は悪そうだが……公私混同はしない主義だ」

「どうも、朝山剣人だ。俺も公私混同はしないが……アンタとはつくづく合いそうにないのは同意見だ」


 お互いに頬を引き攣らせながら外行きの笑みを浮かべて握手をする。

 そんな険悪な雰囲気の俺達の間に、レイが割り込んできた。


「レイ。私は、年上。敬語は使わない」

「は? ……いや、君は幽霊か」

「ん。私の歳は、200を超える。だから、敬語は使わない」


 ドヤァァァ……と渾身のドヤ顔を浮かべるレイに、流石の笹岡もたじろいでいる。

 

「そ、そうか……佳奈君、君の兄とお友達は中々に個性が強いな……」

「勿論ですっ! お兄ちゃんは最強の剣士で、レイお姉ちゃんは退魔師の大天才ですから!」


 多分笹岡は皮肉のつもりで言ったのだろうが……9歳の佳奈には全く効かなかったようで、純粋な笑みが返ってきた。

 まぁ9歳で皮肉が分かる者が居たら居たで怖いけどな。


 俺が純粋な笑みを浮かべる可愛い佳奈の頭を撫でていると……笹岡が此方を値踏みするように見つめてきた。

 そして、僅かに眉をひそめて首を捻る。


「……最強の剣士、か。そうにはとても見えないがな」

「なら試せば良い。計画を実行するにあたって俺の力は確認しておいた方が良いだろうからな。俺も魔法少女とやらの力がどれほどのものなのか確かめてみたい」

「話が早くて助かる。君とは相性は悪いが……ビジネスパートナーとしての相性は良さそうだ」


 そう言った笹岡は、視線だけで付いてこいと訴え、俺達を何も無い真っ白な空間に連れてきた。

 否、1人だけ居る。

 佳奈と同じくらいか少し上くらいの大人しそうな黒髪を腰まで伸ばした少女だ。

 

「ここは、魔法少女達の戦闘訓練所だ。君には———マーク1と戦ってもらう」

「宜しくお願いします。【魔法少女プロジェクト成功被験体:マーク1】、相澤詩織あいざわしおりです」


 少女———詩織は、抑揚の殆ど無い口調で挨拶しつつ、恭しく頭を下げる。

 やはり、この大人しそうな少女は魔法少女らしい。


「お兄ちゃん、詩織は私のお友達だよっ! 私の親友!」

「か、佳奈ちゃん……あまり大声で……は、恥ずかしいよぅ」


 感情の起伏が少ないと思ったら……どうやら緊張していただけらしい。


 俺は、佳奈に抱き着かれて頬を朱色に染めながらアワアワしている詩織の姿を見て小さく笑みを零す。

 横では、レイも2人を眺めながら頻りに頷いて口角を上げていた。

 

「宜しくな、詩織。俺は佳奈の兄の剣人だよ。好きな様に呼んでくれ」

「私は、レイ。佳奈からは、レイお姉ちゃんと呼ばれてる」

「よ、宜しくお願い致します。えっと……剣人さんと、レイお姉さん」


 幸薄そうな笑みを浮かべる詩織に、レイは母性が刺激されたのか……無表情ながら詩織を抱き締めて頭を優しく撫でていた。


「自己紹介は済んだようだな。マーク1と香里君の息子以外は外の観察室に移動してもらおう」

「お兄ちゃん、頑張ってね!」

「……剣人。絶対に怪我させちゃダメ、だから」

「そ、それは難しい気が……まぁやれるだけやるさ」


 完全にレイは詩織に絆されたらしい。

 口酸っぱく言い聞かせてくるレイに苦笑しながら……ムッとした様子の詩織に目を向けた。


「悪いな、詩織。勿論君のことは侮っていないから安心してくれ」

「それなら良いです。それでは———始めましょうか」

「そうだな」


 その言葉を皮切りに、意識を戦闘モードに切り替える。

 詩織も笑みが消え、俺を鋭く睨んでいた。

 そして———同時に口を開いた。




「———【起動アクティベート:蒼氷の剣姫】」

「———【魂白剣】」

 



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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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