第40話 第3章エピローグ
———1ヶ月後。
「———ふぅ……」
「素晴らしい! 遂に本気の我ですら手も足も出なくなった! 流石我の心を唯一踊らせる人間である!」
「そりゃどうも」
狂喜乱舞しているダークサイドの首筋に突き付けた剣を消し、小さく息を吐く。
この1ヶ月———実際に修行した正確の時間は2ヶ月分だが———俺は修行に明け暮れていた。
学校はダークサイドが作った俺の幻影に行かせていた。
ただ、記憶の移行は出来ないらしいので、1ヶ月の間に授業で習った内容は自らが必死に復習しなければならない様だ。
そしてダークサイドが本気で作ってくれた洞窟の修行場は、1か月経っても何とか魔術自体は機能しているが……壁は障壁を突き抜けた斬撃によってボロボロになり、地面も至る所が抉れていた。
当初は透が見に来たりもしていたものの……障壁を突き抜ける様になった辺りからは危ないので来ていない。
「それにしても、我の魔術がまさか1か月程しか持たぬとは……普通ならば100年経っても全盛期と変わらぬ効力を持つのだがな」
ダークサイドはボロボロの魔術陣を眺めて苦笑する。
しかし直ぐに表情を戻しつつ、俺に何処か讃えるような、嬉しそうな表情を向けた。
「誇れ、剣人よ。汝は神である我を越えたのだ。もう誰も、汝を侵すことは敵わぬだろう」
同時———俺に掛けられていた治癒魔術が解かれた。
そこで俺は治癒魔術を掛けられていたことを思い出す。
修行の当初は傷が大量に出来ていたため、常時治癒魔術———魔力は俺のものを使う———を掛けてもらっていたのだが……そう言えば解除されてなかったな。
もう慣れすぎて何とも思ってなかったわ。
「あぁ……ありがとな、ダークサイド。今度、マッサージでも受けに行くよ」
「クククッ、歓迎しよう。時間魔法士との戦いを教えてくれるのなら、特別にサービスするのである」
「それはありがたい。こちとら高校生で常時金欠なんだ」
俺とダークサイドはお互い笑みを零しつつ、大成功しているらしいダークサイドが経営するマッサージ店に行くことを約束して修行場を後にした。
「———いやぁ……1ヶ月振りの外だな。飯とかダークサイドが買っててくれたし」
自らが開けた大穴から脱出し、空中に魔術陣で足場を作った俺は……少し強くなってきた太陽の光を浴びながら呟く。
少し湿気が混じる風ですら心地よいと感じる。
相当外ということに感情が高ぶっているらしい。
「さて、と……良い加減家に帰るか」
実体化した魔術陣を足場に軽く跳躍。
軽々と木に着地すると、そのまま家に向かって駆ける。
母さんも佳奈も驚くかな?
レイは案外驚きそうに無いけど……。
俺は自らの身体に視線を落とす。
1ヶ月前とは違い、全体的に大分筋肉が付いて線が太くなった。
また、治癒魔法では消しきれなかった深い傷が若干跡になっていた。
……母さん達にどれだけ無茶したんだって怒られそうだな。
安々と怒った2人の顔が思い浮かび、小さく笑みを零していると……家が見えてきた。
俺は速度を落とし、ゆっくりと玄関の前に立つ。
何度か深呼吸をして高鳴る鼓動を落ち着かせ、ドアノブに手を掛けた。
玄関の扉は、キィィンっという独特な音を鳴らして開く。
「た、ただいま」
俺は若干震える声に気付き、小さく苦笑する。
そんな俺の下に———ドタドタと階段を駆け下りる音が聞こえたかと思えば、多分俺の思い違いだろうが……少し大人びた気がする佳奈が嬉しそうにジャンピング飛び付きで俺に抱き着く。
「おかえりお兄ちゃんっ!! 久し振りだし凄くムキムキになったねっ!!」
「まぁ昔の俺は特に鍛えてもない普通の身体だったしな」
飛び付いてきた佳奈を抱き止めた俺は、丁度胸のあたりにある頭を撫でて言う。
すると佳奈は、にへら、と頬を緩めて気持ちよさそうにリラックスした声を漏らした。
やっぱりウチの妹は可愛い。
反抗期とか来たら多分お兄ちゃん死んじゃう気がする。
俺に暴言を吐く佳奈の未来の姿を想像して若干ダメージを受ける俺の下にリビングの扉が開いて母さんと透、渚沙がひょっこりと顔を出した。
母さんがクッキーを頬張りながら口を開く。
「あら、おかえりなさい、剣人。お友達が来てるわよ?」
「ただいま母さん。友達なら言わなくても今眼の前に見えるよ」
「我が盟友よ! どんどん我の思い描く剣士の姿に変わっていくな!!」
「何か厨二病に褒められるって複雑な感じだな」
俺がそう言うと、透が青筋を浮かべて佳奈とは別の意志を持って飛び掛かってくるので、片手で押さえながら小さくため息を吐いている渚沙に顔を向ける。
「久し振りだな、渚沙。男の家に来て良かったのか?」
「ばっ———!? 貴方ね、久し振りにあって最初に言うことがそれなの!? もっとこう……何かないわけ!?」
ちょっと揶揄ってみただけなのに、ガチで怒ってズンズンと歩みよってくる渚沙。
相変わらず反応が面白いので揶揄い甲斐がある。
俺が肩を震わせて笑いを堪えていると……揶揄われたと気付いたらしい渚沙が別の意味でワナワナと肩を震わせだした。
その様子に俺が更に笑みを浮かべていると———ガチャッと玄関が開く音が聞こえ、透き通る声が耳朶に触れる。
俺は、体感2ヶ月会っていないからか、何処か懐かしい感覚を覚えながら……声の主の方を向く。
「———剣人、おかえり」
「ただいま。それと、お前こそ———おかえり、レイ」
絹糸の様に滑らかで艶やかな白髪と水のように透き通った淡い碧眼の美少女———レイの方を。
声の主であるレイは、ふっと笑みを浮かべる俺の顔を見つめ……初めて見せてくれた時の様に僅かに口角を上げた。
「———ん、ただいま」
こうして……俺達は再び道を同じくする。
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
これにて第3章は完結です。
次話から第4章『剣聖と時間魔法士』です。
宜しくお願い致します!!
モチベで執筆スピード変わるので、続きが読みたいと思って下さったら、是非☆☆☆とフォロー宜しくお願いします!
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