第39話 剣人の修行

 ———俺達は、計画を始めると共にそれぞれのするべきことに移った。

 

 レイは三条静香の下に空間系の術を教えてもらいに、母さんと佳奈は魔法少女を作り出した研究所の説得をしに行った。

 そして俺は———。



「———……頼みがある」

「ふむ……誰かと思えば汝であったか。我に一体何の用だ?」



 爽やかな好青年と言った感じの見た目とは裏腹に、少し近寄っただけで気絶してしまう程の禍々しい魔力を纏った異次元の存在。

 そう、この前確実に消滅させたであろう邪神———ダークサイドに会いに来ていた。


 場所は、嘗て酒呑童子が牛耳っていた森の地下だが……今では嘗ての面影は全くない。

 天井に様々な種類の照明が付けられ、何処から手に入れたのか分からない様々な家具や日用品が置かれている。


「お前……これどうした?」

「おっと奪ったなどと勘繰るのはよすのだ。借金をして、会社を立ち上げた際の経費として買った物である。何、会社とは言っても我の凄腕テクでマッサージをすると共に、その者の魔力を吸収するだけの簡単な仕事だ」


 この邪神にマッサージなんかされた日には死んでしまいそうだけどな。

 

 絶対に受けたくない、という思考がそのまま顔に出ていたのかダークサイドは苦笑を零しながら肩をすくめた。


「我が吸収するのは、一応呪いや怨嗟の魔力であるのだがな……まぁ汝も1度受けてみると良い。癖になるぞ?」

「誰が受けるか。と言うか、何でお前は消滅しなかったんだ?」


 俺は寧ろピンピンしているまであるダークサイドに尋ねる。

 すると、ソファーに座ったダークサイドが人差し指を立てた。


「我は神だ。死という概念はない。無論、一気に数百万年程の時間を奪われでもしたら消滅するがな」


 我の場合は暇過ぎて精神崩壊を起こすだろう、と肩をすくめるダークサイド。

 ただ、それ以外に殺せる力がある。


「いや、もう1つあるぞ。お前らみたいな概念的不死者を殺す方法」

「ほう……それは面白いではないか。汝が我に会いに来た理由もそれであろう?」


 体勢を前のめりにして、楽しそうに笑みを浮かべるダークサイド。

 俺は上手く乗ってくれたらしい彼の様子に内心ほくそ笑む。


「ああ、俺の修行に付き合ってくれ」

「ふむ、良いぞ。ただ、毎日午後8時から深夜12時までは無理だ。仕事があるのでな」

「それで良い。毎日12時半から朝の7時まで此処でやろう。休日はもっとやるかもしれん」

「承知した。だが……それなら少し待て。此処は我の住居、壊されるわけにはいかぬ」


 そう言ったダークサイドが、何やら魔力を操作して壁に手を当てる。

 同時———壁に人1人が通れる程の穴が開いた。


「この横に我が本気で魔術を掛ける。その中なら、我と汝の力にも耐えれるだろう。ついでに1時間が2時間になる魔術も掛けておいてやろうか?」

「良いのか?」

「うむ、我があの白髪の少女を苦しめた償いとでも思ってくれれば良い」


 今後汝達とは友好関係を築いて行きたいのでな、とクツクツ笑う。

 そんな彼を見ながら『実はコイツ1人であの時間魔法士に勝てるのでは?』などと思っていた俺に先んじて、ダークサイドが首を横に振った。


「我は干渉せぬ。もう汝と戦あるのなら無理に危険を犯す必要はないのである。我は神の中でも比較的人間に友好であるからな」

「……そうか」


 俺と比較的似た考えを持つダークサイドの言葉に、俺は小さく頷いた。










「———終わったぞ。久方振りに本気で魔術を使ったかもしれぬ」

「……確かに、これは凄いな」


 俺は壁全体に構築された此方の言語でも彼方の言語でもない、全く未知の言語を用いた幾つもの魔法陣みたいなモノを眺めて、感嘆の言葉を漏らした。


「お前、一体どれだけ力が戻っている?」

「クククッ、全盛期の力とは言えぬが……既に前回汝と戦った時程の力は戻ってきているだろうな。この森は魔力が豊富で直ぐに回復できたのだ」

「道理で前より魔力が薄いわけだ」


 まぁ、でも、魔力が溜まり過ぎると余計な幽霊や怪異が寄ってくるので、特に文句はないが。


「では、そろそろ楽しい楽しい戦いを始めるとしようか」

「よろしく頼む。———【魂怨剣】」


 途端———膨大な漆黒の魔力が発現。

 ソレは俺の眼前で天に昇る様に渦巻き、だんだんと剣の形に変化していく。


 そして、刃渡り1メートル程の漆黒の長剣が姿を現した。

 

「くっ……」

「ほう……我を滅した魔剣であるな。ただ、相当辛そうに見える」

「あぁ、完全に掌握してないからな。自分にも返ってくる」


 痛む頭を押さえ、俺は剣を構える。

 そんな俺をジッと見つめていたダークサイドだったが……不思議そうに首を傾げた。


「汝、剣はそれだけであるか?」

「……誰かから聞いたのか?」

「我にその様なツテはまだない。ただ、この洞窟内にあった汝の魔力の残滓と形質が違うのでな……」


 驚いた。

 まさか僅かな魔力の残滓からそれほどまでの情報を読み取るのかよ。


「……正解だよ。俺にはこれ以外にも一振りの剣がある。来い———【魂白剣】」

 

 俺は【魂怨剣】を消し、純白に輝く長剣を顕現させる。

 白銀の魔力が漆黒の魔力を打ち消し、洞窟内に光り輝いた。


「ふむ、その剣は先程の剣とは正反対の力を持っているのか。ただ……どうやらその剣も掌握出来ていない様であるな」


 痛い所を突かれ、俺は思わず顔を顰める。

 

 そう、俺は【魂白剣】を掌握出来ていなかった。


 剣聖は完全に掌握していたため【魂白剣】の真の力を引き出せていたが……俺は真の力をまだ引き出せていないどころか【魂白剣】と【魂怨剣】の同時顕現も出来ない。

 剣聖オリジナルの剣術を習得するには、一先ず同時顕現ができる様にならないとスタートラインにも立てないのだ。


 だが———俺はそれを克服するためにここに来た。


 俺は中段に剣を構える。

 ゆっくりと息を吐き、意識を戦闘モードに切り替える。

 白銀の魔力を全身に纏い、制御出来ないほどの莫大な力を自らの身に篭めた。




「あぁ、俺はまだまだ未熟だ。だが———1ヶ月の間に必ずやり遂げてみせるさ」

「クククッ……面白い! それでこそ我の心を踊らせる者である!!」



 

 白銀と藍色の剣撃が爆発した。


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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