第38話 レイside&佳奈side

「———たのもー」

『はい、三条家———玲奈様!?!? 本当に申し訳ないのですが……しょ、少々お待ち下さい!!』

「ん、分かった」


 私———レイは、剣人とその家族と離れ……1人で三条家にやって来た。

 相変わらず剣人の家より大分大きいなぁ……何て思っていながらインターホンなるものを鳴らす。

 するとカメラで私の姿を見たのか、インターホン越しに慌てふためく男達の声が聞こえ、直ぐに三条家の玄関から複数の黒のスーツ姿の男達が現れた。

 その中でもリーダー的な存在と思われる眼鏡姿の細身の男が尋ねてくる。


「れ、玲奈様!? 如何致しましたか!?」

「三条静香に、用がある」

「と、当主様に、ですか……?」

「ん」


 こくんっ、と頷く。

 すると、すかさず1人がスマホを取り出し始め、私はあれよあれよと家の中にお邪魔させて貰い、和菓子が沢山用意された和室に通された。

 やった、和菓子大好き。


「ち、因みになのですが……当主様に御用とは、一体どんな……?」


 緊張を滲ませたリーダー格の眼鏡が恐る恐る問い掛けてくる。


「三条静香に、空間系の術を教わりたい」

「く、空間術ですか!? しかも玲奈様のおっしゃっていることから推測させて頂きますと……全ての空間術を御習得なさるつもりでいらっしゃるのですか!?」

「さ、流石歴代最高の神童と名高い玲奈様でいらっしゃる……!!」

「す、凄い……これなら我ら三条家が七条家に勝てる日がやって来るかもしれないということか……!?」

「ん、違う」


 何故か皆んながズッコケた。

 この前剣人のスマホで見せてもらったバラエティーっていう番組みたいに。

 ちょっと面白い。


「ち、違うのですね……私め如きが邪推してしまい失礼しました……」


 皆んな若干落ち込んでいるが……私には何で落ち込んでいるのか分からなかった。

 


「全部極めるから、違う」



 私がそう言えば……皆んなが驚愕に染まった表情のまま固まった。

 眼鏡の人何て眼鏡がズレ落ちそうになってるのに直そうともしてなかった。

 試しにツンツンと横腹を突いてみても動く気配はない。


「……死んだ?」

「———はっ!? も、申し訳ありません……私としたことが……。ち、因みに……玲奈様はどのくらいで極めようと思っていらっしゃるのでしょうか?」

「1ヶ月」

「「「「1か月!?!?!? さ、流石玲奈様です……っっ!!」」」」


 皆んなが私をキラキラと輝く瞳で見てくる。

 何だかちょっと気分が良い。

 剣人だったら絶対しないからこれもいいけど……私の直近の目標は、剣人に褒められること。それが私の1番嬉しいこと。


 私が小さく拳を握って気合を入れていると……部屋に着物姿の三条静香が現れる。

 相変わらず胸がおっきい。

 男の子は胸が大きい方が良いとインターネットって書いてあったから、剣人も大きい方が好きなのだろうか。


 私は自分のぺったんこな胸を見下ろして嘆息する。

 もう少し生きていれば大きくなったんだろうか。


「……」

「え、えっと……どうしたのかしら……? あの、何で私の胸を……」

「ふんっ、お主のけしからん胸があの男朝山剣人を誑かさないか心配なんじゃよ」

「……何で、貴方がいる?」


 私は、私と同じく三条静香の胸を真紅と灰色のオッドアイで憎らしげに睨む———七条絃に目を向ける。

 七条絃は直ぐに三条静香の胸から視線を切り、ふっと笑みを浮かべて私を見た。


「勿論お主に空間術を教えるためじゃ。妾が静香に術をおしえたのだからのう。教わるにはピッタリな相手じゃろう?」


 七条絃は続ける。




「———嘗てその才能を恐れられて魔法界を追放された至高の魔法使いと、妾の師匠であり、当時最強の退魔師と謳われていた三条家当主の間に生まれた子よ?」











「———駄目だ、許可できん。我が研究所の全魔力はまだ良いとしても……魔法界の全知を詰め込んだ魔法少女を使うなど、な」

「でも局長! 相手はあの大魔法使いです! あの規格外の魔法を破るためには魔法少女の力が必要不可欠なのです! 全ての魔法に精通し、本物の世界と遜色ない亜空間を作るには!! それに……魔法少女プロジェクトの本来の目的は、あの男の討伐だったはずです!」

「何を言おうと無駄だ。儂が首を縦に振ることは絶対にない」


 魔法を研究し、魔法少女プロジェクトを取り進める本拠地。

 地下に建てられたこの研究所———魔法研究所には、様々な魔法陣や魔導具が置かれ、更には過去の私と同様に巨大な試験管一杯に満ちた特殊な水の中に浮かぶ新生児の姿が幾つもあり、あちらこちらに白衣を纏った研究者が忙しなく動いていた。


 そんな研究所の中で、私———朝山佳奈は、眼前で繰り広げられるお母さんと私達を作った、局長と呼ばれる60歳過ぎの白衣を纏う壮年の男性との口論を、ただ見ていることしか出来なかった。

 お母さんは、局長の毅然とした言葉に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 しかし局長は追撃とばかりに口を開いた。


「そもそも、君の言う計画には重要な部分が抜けている。仮に時間停止の魔法が使えなくなった所で……奴は強い。人類を遥かに超越した身体能力に魔力量、人類最高峰の魔法の使う魔法少女ですら勝てない相手だ。人類にはまだ勝ちうる可能性はない」

「だから、それは私の息子が———」

「———ふざけているのか、香里君ッッ!!」


 激昂し、大声で吠える局長。

 その瞳には、僅かな恐怖が見え隠れしていた。

 

「君の息子があのバケモノに勝てるだと!? 巫山戯るのも大概にしろ!! あのバケモノは規格外なんてレベルじゃないんだぞ!?」

「しかし局長! 剣人は、私の自慢の息子は邪神をも倒したんです!」

「所詮不完全な状態の邪神だ。本来の力には及ばん」


 そんなことはない。

 あの邪神はレイお姉ちゃんの魔力と数多の人間の魔力を吸い、恐らく8割くらいの力はあった。

 何より……あの邪神は剣士であるお兄ちゃんとは相性最悪な敵だったのに、お兄ちゃんはそんな相性なんか吹き飛ばして勝ったんだ。

 お兄ちゃんは、凄くて格好良くて強かった。


「それなら魔法少女である君の娘でも十分に勝てる———」


 私は我慢の限界に達し、ごちゃごちゃと五月蝿い局長の言葉を遮って叫んだ。




「———いい加減にしてくださいっ! 私の……私の自慢のお兄ちゃんを侮辱しないでくださいっ!!」




 そう叫んだ私の声はやけに響き……局長やお母さんは勿論、作業をしていた研究者達すらも此方を向いていた。

 普段、文句も言わない私を知っている局長達は、驚いた様子で見ている。


 でも、そんなの知ったことか。

 お兄ちゃんとレイお姉ちゃんならきっとこうするもん。


「か、佳奈君……?」

「お兄ちゃんは強いんですっ! 私なんかよりもずっと強くて……優しくて、カッコいいんです!」

「し、しかしな……魔法少女である君よりも強い人間など存在しな———」

「そこまで頑なに信じないなら———」


 私は、髪を結いだヘアゴムにそっと触れ……瞑目する。

 魔力が溢れ出し、眩い光が私を包み込む。

 そして———。


 燃えるような真紅の髪と瞳に耳には赤く透き通った宝石の様なイヤリング。

 手には金の可愛い腕輪と、天使の翼の様なモノが付いているステッキ。

 全身に赤を基調とし、綺羅びやかなスカートにはフリルが沢山付いている衣装を纏った———【魔法少女プロジェクト成功被験体:マーク4】となった私は、ゆっくりと瞳を見開く。


 その瞬間———私の周りの空中に数十モノ様々な魔法陣が浮かび上がる。





「———私が、この研究所を壊すよ。そして、魔法少女も辞めてやるからっ!!」

 




 魔法のステッキが、私の感情に呼応するように煌めいた。


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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