第36話 魔法少女の存在理由
「———佳奈、そこから先は機密情報でしょ?」
「で、でも……お兄ちゃんは家族だし……」
普段のズボラな母さんは何処に行ったのか、と思わず問い詰めたくなるほどに冷たい眼差しで佳奈を見下ろしていた。
佳奈も普段は母さんに良く口ごたえしているのに、今だけは蛇に睨まれた蛙の様にタジタジになって口を噤んでいる。
ここは俺が間に入るしか無いだろう。
「母さん、あんまり佳奈を責めてやらないでくれ。魔法少女のことについては俺から聞いたんだ」
そう、俺は母さんに語り掛けながらも警戒は解かない。
魔法少女のことを知っていそうな辺り、レイの存在も見えているだろう。
佳奈とレイを背に、いつでも無力化出来るように身構える。
しかし、身構えたのを隠すのは勿論のことだが、敵意も殺気も、果てには害意や警戒心すらも隠して接するのだ。
あくまで自然体に、普段の俺の様に。
「勿論分かってるわよ? でもね、剣人。その先の話は知ってはいけないのよ」
「何でだ? 佳奈も言ってたけど……俺だって家族だ。大切な妹のことを知る権利はあるはずだよ、母さん」
簡単に引き下がってなるものか。
佳奈の身に何が起きているのかを聞き出すまでは。
とは言え、このままでは埒が開かない。
ここは1つ、クッションを用意しよう。
俺は嘆息して肩をすくめ、如何にも諦めたかの様に見せる。
「まぁ、一旦魔法少女は良いとして……俺的には、ずっと扉の前で聞き耳を立てていた母さんの本当の姿の方が気になるね」
恐らく……恐らくだが、きっと母さんも魔法使い———それも機密情報である魔法少女の詳細を知るくらいに位の高い———なのだろう。
ここで断定出来ないのには、主に母さんの魔力の少なさに起因する。
魔法使いからば、魔力量が多くないとある一定以上は強くなれない。
強力な魔法程1度に使う魔力量は膨大になっていくからな。
そして俺の予想である母さんが魔法使いの中でもトップクラスの地位を手にしているというのが本当ならば……最低でもレイ程の魔力量がなくては厳しいはずだ。
しかし、実際の母さんの魔力量は、一般人よりまぁ多い、程度と来た。
多分透の方が多いんじゃないか?
因みにだが……一般人の魔力量の平均が仮に10だとしたら、透は500くらいの魔力量を誇り、渚沙が2000、レイは5000程で、前世の剣聖が25000以上だ。
そんな中で、母さんの魔力量は恐らくだが3、400前後と、あまりにも少ない。
「……なぁ、母さん。母さんは一体何者なんだ? 何で佳奈の……ひいては魔法使いの機密情報まで知ってるんだ?」
この場を剣呑な空気が支配する。
部屋の温度が1度か2度下がった様な体感と共に、僅かな殺気に肌がヒリ付く。
発生源は、母さん。
俺達を熱のない冷酷な瞳で一瞥した後、纏う空気を一変させ、俺に殺気を向けて来たのである。
ただ、こういう時の対処法は知っている。
「———母さん、無駄だ。俺にその程度の殺気を向けたところで、怯みはしないぞ」
「っ!?!?」
より強い殺気をぶつけ返せばいい。
これが1番手っ取り早く相手に自分の方が格上だと伝えられる。
その証拠に、母さんは俺の殺気を受け、吃驚して腰を抜かしていた。
勿論俺に母さんを害する意図はないので直ぐに解除。
手を差し伸べて優しく話し掛けた。
「もう俺は、今までみたいに裏の世界に関われない程弱くない。だから教えてくれよ、母さん」
「……そう。はぁ……全く……ウチの子達って何でこうも反抗的なのかしらね」
そう愚痴を零しながらも、母さんの表情は穏やかだった。
やっと肩の荷が降りたと、感慨深げに俺と佳奈……そしてレイを見た。
同時にレイが目を丸くする。
「……剣人、今、見られてる?」
「あぁ、お前を見てるな。完璧にな」
「ずっと貴方を見ないようにするの、物凄く大変だったのよ?」
お父さんは普通の人なんだから、と苦笑する母さん。
そんな母さんの視線にレイは気まずそうに目を逸らしたものの、緊張した面持ちで言葉を紡いだ。
「……すいません。勝手に、居候してた……レイ、です」
「そんなに緊張しなくても良いのよ? 私、可愛い子は大歓迎だから。それに……剣人が連れてきた子なら私に文句はないわよ」
「母さん……」
「ありがとう、ございます」
やっと部屋の空気が完全に弛緩する。
それにしても……普段ズボラな母さんがあそこまで神経質になるなんてな。
「さて、じゃあ……話の続きをしよう。母さんも混ぜてな」
「あら、それなら私が話そうかしら」
「あ、お母さんが話した方が分かり易いからお願いねっ!」
「丸投げしたな、完全に」
完全に話を聞く体勢になった佳奈にツッコむと、恐ろしいほどに鋭い視線が俺に突き刺さる。
おっと、これ以上は我が妹の怒りを買いそうなので黙っておこう。
「えっと……あぁ、確か魔法少女の話だったわね。魔法使いが1つの魔法を極めるのに最低でも10年はかかるのよ。だから予め様々な分野の魔法使いが技術の粋を全身と魔法少女服とステッキに篭めたのね」
つまり……魔法少女は魔法使い達の真髄の結晶というわけか。
「因みに私が此処まで知ってるのは、私が魔法少女プロジェクトの研究員だったからよ。その時に佳奈を生んで……強制的に魔法少女プロジェクトの実験体にされたの。まぁ自分がやってる側だから仕方ないわよね」
「……そこまで強い人間を作って何がしたかったんだ?」
多少の胸糞悪さはこの際一旦無視しておくとして……この世界にそこまでの脅威となる者が居ない気がするんだが。
確かにあの邪神や酒呑童子は強かったが……酒呑童子は公に動いては居なかったし邪神だってそもそも召喚させなければいい。
俺の指摘に、母さんがもっともの意見ね、と頷いた。
しかし、僅かに眉尻を下げる。
「でも、確かに必要だったのよ。そもそも、【魔法少女プロジェクト】が始まったのには———とある人間が関係してるの。魔法使いの始祖でありながら人類を裏切り、今は失われた伝説の魔法———時間魔法を使う魔法使いを殺すために」
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
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