第35話 魔法使い(魔法少女)とは

「———……眠い」


 日曜日の朝。

 俺は大きく欠伸と伸びをしながら、ベッドで零した。

 チラッと寝息の主———レイの方に視線を遣れば、無防備な可愛らしい寝顔を晒していた。


 …………昨日のは、夢じゃないんだな。


 確かに目の前にいるレイの存在に、俺は昨日の出来事が全て現実のモノだという実感が湧いてくる。

 同時に———答えを保留にしたことに、僅かな罪悪感が胸の中で燻っていた。


「……どうしたの?」

「起きてたのかよ、お前……」

「勿論。幽霊は省エネ」

「どこでそんな言葉覚えてきた?」


 時々レイが200年以上前の人間とは思えない現代語を使うので、最近ちょっと疑ってたりする。


 そんなくだらないことを考えながら、俺はふふんっと胸を張る白髪の少女の姿に小さくため息を吐き、首を横に振った。


「いや、何でもないよ。ただ……昨日の夜は悪いことしたな、と思ってな」

「ん、別に気にしてない。佳奈が言ってた。『恋愛は、告白した後が本番』って」


 なるほどね、佳奈がそんなこと……そんなことを佳奈が言ったのか??

 まだ9歳の佳奈が??


「ちょっと待て。佳奈がそんなこと言ったのか? 佳奈は好きな人がいるのか? ちょっと教えてくれ、今すぐに佳奈に相応しい奴かどうか確かめてくるから」

「お兄ちゃぁぁん! 朝起きたらレイお姉ちゃんが居ない……お兄ちゃん?」


 タイミングが悪いとは、正にこの状況のことを言うのだろう。

 俺が佳奈の好きな人を聞き出そうとレイの肩を掴んで迫り、レイが戸惑った様子で淡い碧瞳を揺らした瞬間に———佳奈が俺の部屋の扉を開けて入って来たのだから。


 佳奈の呆れた様な責める様な視線がまぁ痛い、痛い。

 お願いだ、そんな目を向けないでくれ。

 お兄ちゃんは何もしてないから。


「……何してるの、お兄ちゃん?」

「佳奈の好きな人を聞き出してた」


 俺は正直に話した。

 下手な嘘をついて余計な疑惑を持たれるのは本望ではないからだ。

 しかし、それは逆に答え合わせをしている様な物だったらしい。


「なっ!? れ、レイお姉ちゃん!?」

「ごめん、つい、流れで」


 『ボフンッ』という効果音が付きそうな程に顔を真っ赤にした佳奈が若干涙目で普段通りの無表情に戻ったレイを睨む。

 レイは睨み付ける佳奈からスッと目を逸らして彼方を眺める。

 お陰で俺への視線は無くなったが……そんなものが温いと言えるほどのダメージを心に受けていた。


「いるのか、まさか本当にいるのか? お兄ちゃん的にはまだ9歳の佳奈に恋愛は早いと思うんだ」

「お兄ちゃんも何言ってるのっ! それにこのくらいの歳になったらもう皆んな彼氏作ったりしてるよっ!」


 あ、ヤバい、鋼で出来た自慢のハートが砕け散った音がする。

 涙出そう……ってか、最近の小学生はちょっとマセ過ぎでは??

 俺が小学生の時は付き合ってる何て男女殆ど居なかったぞ。


「……これが、ジェネレーションギャップ」

「レイ、お前マジでどこでそんな言葉覚えたんだ?」


 確かに使い方合ってるけど。


「そんなことどうでも良いよ、お兄ちゃん! それよりレイお姉ちゃん! かなの秘密を言った代わりにかなも言うからねっ!」


 どうだ、とばかりのしたり顔でビシッとレイを指差した佳奈。

 どうやら2人は俺の存ぜぬ場所で何やら秘密のお話をしているらしい。


 

「ん、別に良い。昨日の夜、告白したから」



 レイが此方に穏やかな眼差しを向けながら言うと、佳奈が驚愕に目を見開くと共に。



「———ええええええええええっ!?」



 ご近所迷惑確定の絶叫を上げた。









「———それじゃあ、佳奈。じっくりと色々な話を聞かせてもらおうか」

「もらおうか」

「う、うん……分かってるけど2人とも何か怖いよ」


 無事佳奈の絶叫せいで目を覚ましたらしい母さんに怒られた俺達は、俺の部屋で佳奈を取り囲んで詰問を開始していた。

 

「まずは……好きな人の名前と年齢、性格を教えてくれ。ついでに写真もあれば写真も」

「……剣人、順番逆」

「いやあってる。これが1番重要に決まってるだろ。仮に塵屑だったら俺がぶっ殺……脅し……お話をしてやる」

「お兄ちゃん!?」


 大事な大事な妹には、是非とも幸せになって欲しいからな。

 仮に佳奈の前でだけ良い顔して裏ではとんでもない奴とかだったら……多分その子は次の日からがないだろう。

 席も、籍も。


「剣人の言葉は無視して良い」

「おい」

「分かった!」

「分かっちゃうなよ……」

「それより、魔法少女について教えて」


 どうやら俺の質問はなかったことにされたらしい。

 やれ、お兄ちゃんとは難儀なものだ。


 俺は小さくため息を吐き、佳奈の言葉に耳を傾ける。

 合計4つの視線に晒された佳奈はほんのり緊張した様子で口を開く。


「……えっと、お兄ちゃんは魔法使いから分からないよね?」

「まぁ、そうだな。でも……多分退魔師のことよりは知ってる」

「うん、何でかは後で聞くね。それで魔法使いは……簡単に言えば、退魔師の親戚かな」


 まぁそうだろうな。

 幾ら魔力や霊力と呼び名が変わっても、使っているモノの本質は変わらないのだから。


「お兄ちゃんが気付いてるか分からないけど……退魔師って属性を使った術が多いんだよ? でも、魔法はソレ以外の分野にも発展してる」

「それが【魔法少女プロジェクト成功被験体:マーク4】とかいう不穏な名前の付いているヤツのことか?」

「うん。魔法使い達が100年以上の年月を掛けて成功させた人体実験。コンセプトは魔法使いより、退魔師より、悪魔祓いより……何よりも強力で従順な魔法使い。全身に魔法陣が組み込まれてて、脳に———」



「———そこまでよ、佳奈」



 突然、俺達以外の第三者が声を上げる。

 佳奈とレイは驚いていたが……俺だけは気配で分かっていた。

 ずっと扉の前で此方の話に聞き耳を立てていた存在を。


 俺は、ゆっくりと扉の方に顔を向ける。





「———一体何者なんだ……母さん」





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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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