第34話 やりたいこと

 ———結局、ダークサイドは消滅した。


 更に言えば、狂信者共が根城にしていたあの異空間も一緒に崩壊した。

 当たり前と言えば当たり前だが、完全に隔絶された異空間でさえ俺とダークサイドの大技に耐えきれなくなったらしい。

 しかし、勝ったのは奴が不完全な状態で復活したからに過ぎない。

 本来の力で蘇っていたなら、力と力の押し合いに負けていたのは俺だった。

 身体も未熟なため、やはり本来の力を取り戻せては居ないらしい。


 何とか運にも味方されて勝った俺は、崩壊する空間を脱出した。

 一応何ともなく脱出した俺だったが……渚沙と佳奈に危うく空間の崩壊に巻き込まれて死ぬところだったと告げられ、思わずゾッとしたのは言うまでもないだろう。


 その後は渚沙が連絡してくれたお陰でやってきた退魔連盟の方々が死体の後片付けをしてくれた。

 ただ、ちょっと殺し過ぎて後片付けにやってきた退魔師達から『コイツ本当に元一般人か?』なんて意図が籠もってそうなドン引きの視線を頂いたが。

 因みに今は、魔法使い側と退魔連盟側が交渉をしているらしく、もしかしたら俺達も召喚させられるかも、と渚沙が言っていた。


 ……いやまぁ今更魔法使いが出たところで驚かないぞ。

 でももう此処まで着たら悪魔祓いとか錬金術師とかもいそうだよな。


 ———と、此処まで考えたところで、そろそろ現実逃避はおしまいにしようと思う。


 深夜と言っても差し支えない時間帯。

 窓から覗く満月が正に夜の象徴たる輝きを纏い、その満月から放たれた月光が部屋の中を淡く照らしている。

 普段なら既に眠っているであろう時間に、俺はベッドにいつの間にか潜り込んでいた白髪の少女と見つめ合ったまま現実逃避を終え、少し目を逸らした。


「…………レイ」

「おはよう、剣人」

「……何で俺のベッドにいる?」


 普通にドキドキするから止めて欲しいんだが。

 こちとら女性経験皆無のチェリーボーイなんでね。


 特に、今のレイの格好がいけない。

 ピンクのレースネグリジェに身を包んだレイは、端正な顔立ちも然ることながら……白髪と淡い碧眼という日本人離れした容姿も相まって、お世辞抜きに似合っていた。

 彼女の足元まで伸びる艶やかな純白の髪は月光を反射してキラキラ輝いている。

 呼吸と共に僅かにネグリジェの胸部が上下する。


 つまり何が言いたいかというと———非常に目の行き場に困る。


 対するレイは、俺の葛藤など欠片も分かってい無さそうに温かい吐息と共に僅かに目を細める。


「剣人と、一緒に寝たかった。……だめ?」

「…………」


 小悪魔だ。

 コイツ、俺より年下の癖に俺の純情を弄んでやがる。

 しかも、俺が拒否しないことを分かっていて揶揄っているのがなおいけない。


 俺は突き放すことも良いとも言うことが出来ず……結局憮然とした表情を浮かべることしか出来なかった。

 そんな俺の様子を見ていたレイが……今までの言葉とは正反対に、遠慮がちに俺の背中に手を回して抱き着いてくる。

 

「……別に良いなんて言ってないが?」

「剣人は、私を拒絶しない」

「…………断言するんだな」


 俺が小さく零せば、俺の首元に顔をうずめていたレイが顔を上げ……上目遣いで俺を見つめた。


「剣人は、優しいから。私を、2回も助けてくれた。今日、私のために頑張ってくれてたって、渚沙から聞いた」

「……始めのは、お前の依頼を受けた方が早く元凶に辿り着けそうだったからだ。2回目は……た、大切な友達だからな。皆んなレイのことを心配してたし」

 

 ヤバい、今の俺……超恥ずいこと言ってるな。

 ……深夜テンションってこういうことなのか。


 自分で言っていて恥ずかしくなり、僅かに頬に熱が集まるのを自覚する。

 羞恥を必死に我慢する俺を眺めていたレイは、一瞬驚いた様に瞠目した後、俺と同じく僅かに頬を朱色に染めたと思えば俺の首筋に顔を埋めた。


 どうやら照れているらしい。

 恥ずかしいのが自分だけでないと分かり、ちょっとホッとしている俺に、レイが首筋から顔を離す。

 そして若干目を泳がせながら上目遣いで俺を見上げ、いつもぼーっとして何を考えているのか分からない淡い碧眼に確かな光を宿していた。


「……ありがと、剣人」

「……何がだよ」

「助けてくれたこと。それと……私を、友達だって言ってくれたこと」

「……もう良いよ。お互い様だろ。俺だってレイと出会えて良かったって思ってる」

 

 あぁ、今日は何か変だ。

 普段なら絶対口に出せないことでも言える。

 ただ、それは俺だけじゃないみたいだった。


「……剣人、1つ聞いて欲しい」

「……レイ?」

 

 暗くてはっきりとレイの表情が見えない。

 でも、気にせずレイは続ける。

 自分の心情を必死に言葉にして吐露する。


「剣人を見ると、元気が出る。剣人が喜ぶと、私も嬉しい。剣人がいないと、不安になる。剣人が悲しむ姿は、もう絶対見たくない。こんな気持ち、初めてだから分からない。なんて言えば良いかも、分からない。。でも……さっき分かった。こうして剣人と話す中で———私は、やりたいことを見つけた」

 

 風が吹く。

 それによってカーテンが靡き、カーテンで僅かに遮られていた月光が部屋を……俺とレイの顔を照らす。

 それと同時に———。



 ———人のために命を散らした幽霊たる白髪の少女が、幸せそうに表情を緩め、そっと寄り添うみたいに光り輝く満天の星空の様に、はにかんだ。

 



「———私は、剣人のことが好き。不器用だけど優しい貴方と、毎日を過ごしたい」


 

 

 そう言った少女の姿は、人ならざる者ではなく———確かに、この世に生きる人間そのものだった。


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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