第33話 邪神VS剣聖の力を受け継ぐ者

「レイ! おい、しっかりしろ!」


 俺の腕の中で未だ目を覚まさぬ白髪の少女へと呼び掛ける。

 しかし、淡い碧眼は瞼の下に隠されたままで返事はない。

 

 くそッ……何でだ、何で目を覚さない!?

 魔力が足りないからか?

 それともただ気絶しているわけでは……。


 そこまで考えた時、俺はレイが連れ去られた時の動画を思い出す。

 あの、術を使用出来なくした不思議な力。


「おい、お前がレイの意識を奪ったのか?」


 殺気の篭った瞳を女に向ける。

 この女ならレイの状態も分かるはずだ。

 レイを救出した以上、急ぐ必要もない。

 尋問でも何でもやってやる。


 しかし、気になる事が1つ。

 女は何故か手を組み、祈る様に無我夢中でボソボソと呟いていることだ。

 それも、敵である俺の目の前で、俺に意識を向ける事なく。


 ……何を企んでやが———ッ!?


 突如、光を失っていた魔法陣が再び輝き始め、濃い紫色の魔力が噴き出した。

 濃い紫色の魔力は徐々に手の様な形に姿を変えて女を掴むと……一瞬で魔力の中に引き摺り込んだ。


「……これはちょっとミスったな……」


 ドクンッと心臓が跳ねる。

 剣聖の力を手に入れて以降、初めて感じる強敵の気配に自然と力が篭る。


 せめてレイが目を覚ましていれば……。


 今回ばかりはタイミングが悪い、と苦虫を噛み潰したかの様な表情になるのを自覚しながら舌打ちをする。


 禍々しい魔力が飲み込まれたはずの女の身体の中に徐々に取り込まれていく。

 そして———。




「———久々の現世うつしよだ……」




 白目を剥き、全身の血管が浮き出た女が男の様な口調で言葉を紡いだ。

 その身体からは膨大な魔力が垂れ流されており、触れたものが徐々に腐っていく。

 感慨深げに手を広げる女だったが……俺とレイの存在に気付いたらしく、キョトンと首を傾げていた。


「汝らは何者だ? 何故ここに……ほう、何故我が不完全な状態で呼び出されたかと思えば……汝が邪魔をしたのか。そこの少女が我を召喚するための贄だったわけだ」


 納得したと言わんばかりに何度も頷く女の皮を被った邪神の姿に、俺は少し身体を竦める。


 ……まだ俺は圧に慣れてない、か。


 やはり幾ら剣聖の力も性格も受け継いだとしても、俺は戦いを知らぬ高校生に過ぎないのだと自覚させられる。

 この力も仮初で、前世の無念を晴らすために与えられた。


 …‥上等じゃねぇか。

 俺が全部守ってやるよ。

 家族も、友達も、全部。


 同時に、俺は小さく笑みを浮かべながら頭を振ってレイを片手で抱き締め、囁く。

 

「レイ、ちょっと揺れるけど我慢してな」


 俺はサバイバルナイフに魔力を篭める。

 相手は腐っても邪神。

 俺1人ならば脅威ではあるものの十分対処できる。


 だが、今回はレイがいる。

 あの魔力に触れれば、魔力体であるレイは一瞬で飲み込まれてしまうだろう。

 つまり、あの魔力に触れる事なく、尚且つ相手の攻撃に一回も当たらず相手を殺さなければならない。


「はっ、良いハンデだな。———おい、そこの臭い奴」

「……それは我のことか、人間よ」


 邪神がピクッと眉を動かし、じっくり観察する様に此方へと瞳孔のない白目を向ける。

 絶えず威圧が辺りを支配しているが、視線を向けられた途端に威圧感が増す。

 普通の人間でなくとも気絶するほどの威圧感をモロに受けた俺は、逆に魔力を放出して邪神を威圧する。


「……っ、ほう……いい覇気ではないか。これ程の覇気を放つ人間を見るのは久方振りと言えよう」

「お褒め頂き光栄だな。それと言っては何だが……場所を変えさせてもらうぞ」

「良かろう。何処でも汝の好きな所にすると良い」


 こうして———時は現在へと戻る。









「———くっ……」


 前世の俺ですら完全に掌握することが出来ていなかった暴れ狂う剣———【魂怨剣】を手にした俺は、頭の中に流れてくる殺意、憎悪、嫉妬などの負の感情に思わず頭を押さえた。


「お、お兄ちゃん……!?」

「大丈夫だ、佳奈。だから、レイを連れて離れてろ」


 俺は心配そうに見つめてくる佳奈から視線を切り、警戒の色を示す邪神に【魂怨剣】を向ける。


「……汝に問いたい」

「……何だ?」


 突然口を開いた邪神に、俺は警戒を解かず懐疑的な目を向ける。

 そんな俺……ではなく俺が握っている剣を指差した邪神が尋ねた。


「……汝は我と同じ神なのか?」

「…………は? いきなり何を言ってる?」


 予想外の質問に、俺は反射的に疑問の言葉がついて出る。

 しかし俺の疑問に答える事なく邪神は1人で勝手に納得した様子で首を横に振り、小さく笑みを浮かべた。

 

「……ふっ、これは我の運が悪かったと言えよう。さぁ、もうそろそろ良いだろう。殺し合おうではないか」

「あぁ、とっとと始めよう」


 未だ奴の言葉の意図が掴めないものの、そんなものは些細なことか、と意識を切り替えた。


 瞬間———眼前に魔力の手が迫る。

 あらゆるモノを喰らう魔の手だ。

 彼の手に触れたものは、一気に存在ごと呑み込まれてしまう。


 しかし———此方も負けてはいない。


 俺は舞う様に【魂怨剣】を振るう。

 漆黒の斬撃が魔の手を薙ぎ払い、切断部分が『ジュッ』という焼けるような音と共に煙を上げる。


「ぐっ……何だこれは……」

「怨嗟だ。この剣には、何十、何百、何千万もの者達の負の感情が詰まっている。膨れ上がった負の感情は———時にその命を奪うんだよ」

「ククッ……汝の剣に宿った怨嗟が、我の魔力の性質をも突き破ったというわけか」

「そういうことだ」


 そう言ってクツクツと笑みを浮かべる邪神は、心底この戦いが楽しいと感じている様子だった。

 邪神は再び俺へと濃い紫の魔手を伸ばしながら———人間の身体では不可能な程の速度で接近してくる。

 俺は全ての魔力の手を斬り捨て、同じく地面を蹴って邪神へと接近。


 ゆっくりと進む時間の中、先に仕掛けたのは邪神だった。

 

 邪神は魔力で剣を2本創り出し、縦横無尽に熟練の達人の様な動きで猛攻を仕掛けた。

 対する俺は、四方八方から迫り来る剣撃を最小限の動きで躱し、受け流し、反撃。



 ———ガガガガガガガガガガガッッ!!



 10や20では済まない激しい剣同士のぶつかり合いに、聖堂内を衝突音が支配する。

 また、俺達の剣戟が生む衝撃波は、椅子を粉々に斬り裂き、床や天井や壁など……至る所に斬撃痕を残した。

 

「ククッ……フハハハハハハ!! 先程は汝との出会いを不運だと例えたが……それは訂正しよう! 汝との邂逅は、この数百年間の我の退屈を吹き飛ばす最高のモノである!」

「それは良かったな。こっちも、今の俺が受け継いだ力に頼り過ぎていたことに気付かされたよ。まぁレイの魔力で蘇った貴様は許せないけどな」


 お互いに命を賭けてしのぎを削り合いながらも、子供の様に楽しげな邪神に俺がそう毒付けば、一瞬キョトンとした表情を浮かべる。

 しかし直ぐにクツクツと笑い声を上げた。


「そうであるな、我は汝の仲間の魔力を奪って来た存在。さぁ、全力で我を滅ぼしてみるが良い!!」


 そう言った邪神が、俺を蹴り飛ばす。

 宙に舞った俺を視界に映ったのは———奴の身体から膨大な魔力が吹き荒れる景色だった。


 ……アイツ、決着を付けるつもりだな。

 まぁ俺もそろそろ限界だ。

 どうやらレイが目を覚ましたのか……佳奈も戻った様なので丁度良い。


 俺は体勢を整え、地面に着地。

 漆黒に輝く【魂怨剣】を鞘に納めて、居合の構えを取る。

 途端———膨大な漆黒の魔力が【魂怨剣】に凝縮されていく。

 そんな俺の姿に、邪神は嬉々として声を上げた。


「良い魔力ではないか! この空間は外とは隔絶されている。その力も存分に行使出来るであろう。申し遅れたが……我の名は、ダークサイド。———汝よ、名は何という?」


 俺は邪神———ダークサイドの問いに、剣の柄に触れながら告げた。



「朝山剣人。又の名を———アイン・クルーエル・ディア・ソード」

「ククッ、どちらも良い名前だ」



 同時———2つの大技が放たれた。


  




「【クルーエル剣術第一式:斬魔一閃】」

「【全てを喰らう神の一撃ゴッツ・シュラック・ディア・イス・アルレス】」






 世界が崩壊する。


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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