第30話 2人の秘密
「———それじゃあ私達も動きましょうか、佳奈ちゃん」
「……どうして渚沙お姉ちゃんはお兄ちゃんを行かせたの?」
私———朝山佳奈は、お兄ちゃんが見えなくなったのと同時くらいに電話を切った渚沙お姉ちゃんに、責めるような視線を向けて問い掛ける。
すると、渚沙お姉ちゃんは私の様子に責めるわけでも嫌な顔をスルわけでもなく、まるで私の気持ちが分かるとばかりに走りながら苦笑した。
「確かに始めはそうなるわよね。私もそうだったわ」
「……ならどうして……」
私は顔を俯かせる。
私には理解出来ない。
生まれてからずっとお兄ちゃんを見てきたからこそ分からない。
お兄ちゃんはつい最近まで普通の人だった。
魔力も殆ど無くて、身体能力が飛び抜けているわけでもない。
でも……とっても優しくて何かと世話焼きなところがあるのを知っている。
だからこの装備に適合した私がお兄ちゃんを護るんだって思ってた。
「そうね……佳奈ちゃん———少し覗いてみる?」
「え?」
私が顔を上げると、悪戯っぽく笑みを浮かべた渚沙お姉ちゃんの顔があった。
「あの強さは実際に見ないと分からないわ。だから……葉山君は私が護るから、ちょっと見てきて良いわよ。多分剣人君ならその可能性も考えてるだろうし」
「…………」
まるでお兄ちゃん考えが分かるかの様な口張りで言う渚沙お姉ちゃんに、ちょっとモヤモヤする。
渚沙お姉ちゃんは一体どんなお兄ちゃんを知っているんだろう。
レイお姉ちゃんが毎晩決意を表明するみたいに呟く『剣人に、絶対追い付く』って言葉はどういう意味なんだろう。
透お兄ちゃんが絶対的に信頼を置くお兄ちゃんは……。
「———着いたわよ、佳奈ちゃん」
「あ、うん……」
どうやら、私が堂々巡りする思考に苛まれていた間に……透お兄ちゃんの下に着いていたらしい。
私は目の前の———廃病院をモチーフにしたであろうお化け屋敷を眺める。
ちゃんと崩れないように作られているのだろうが、廃病院らしさを出したために少し頼りない印象を受けた。
そう言えば昔のお兄ちゃんはホラーが苦手だったような……。
私が昔のことを思い出していると……ソワソワした様子の透お兄ちゃんを見つけた。
透お兄ちゃんは少し廃病院から離れた所でぐるぐるとその場を回っており、少し周りから注目を集めている。
「透お兄ちゃん!」
「む? おっと、誰かと思えば我が盟友達ではないか。剣人なら既に中に入っ———たっっ!?!?」
透お兄ちゃんが私達……正確には私を見た瞬間目を見開き、続いてキラキラと子供の様に瞳を輝かせる。
「ま、魔法少女か……!! 素晴らしい……唯一我がなれない至高の存在! まさにキューティクルエンジェル!」
「……葉山君? 今は巫山戯ている場合じゃないのだけれど?」
「申し訳ありませんでした」
渚沙お姉ちゃんが人形を愛でるように私の周りを回っていた変人(透お兄ちゃん)を引き剥がす。
そして、私に視線だけ廃病院の入り口に向けると……まるで『見てきなさい』とでも言うようにウィンクをした。
「……ありがとう、渚沙お姉ちゃん」
私の分まで透お兄ちゃんを護ってくれる渚沙お姉ちゃんに感謝しながら、『立ち入り禁止』の張り紙が貼られた少し古い入り口の扉を開ける。
中は暗くて妙に埃っぽく、あまり人が出入りした気配はなかった。
「……【ライト】」
魔法のステッキを振りながら呟けば、10メートルくらいの先まで照らせる程の光量を持った魔力の光が生まれる。
私はその光を頼りに、魔力が濃い方へと向かった。
うっ……この魔力……。
私は腐敗臭の様な臭いの汚れた魔力に思わず顔を顰めたその時———。
———私は、陽の光が照らす教会にいた。
「っ!?!?」
突然のことでパニックになる。
どうして!?
魔法の発動は感じなかったのに!?
一体どうやって私を転移させたの!?
分からない事だらけで混乱を極める私だったが———突如目の前に、グッタリとした様子のレイお姉ちゃんをお姫様抱っこしたお兄ちゃんが現れた。
そのお兄ちゃんの表情は暗い。
「お、お兄ちゃん!?」
「やっぱり来たか。まぁ……あれだけ一方的じゃあ心配になるのも無理———」
突然、何かを抑えるようにお兄ちゃんが目を瞑る。
その額には汗が浮き上がり、頬を伝って顎から垂れていた。
拳は硬く握られ、僅かに血が流れている。
「……ふぅ、よし。それじゃあ……」
何かを抑え終わったとばかりに大きく息を吐いたお兄ちゃんは、一瞬教会の奥を気にしたかと思えば……しゃがんで私に言う。
「いいか、佳奈。お兄ちゃんがこれから佳奈に秘密を見せてあげよう。だから、佳奈は此処でレイを護ってあげてくれないか?」
「……分かっ———」
———ドガァァアアアアアアアンッッ!!
私の言葉を遮って教会の女性の像が爆発。
爆発音が鳴り響き、爆風が周りの長椅子みたいなモノを吹き飛ばす。
同時に———私達の前に白目を剥いた修道服姿の女性が現れた。
しかし、顔や首、手や足の甲など……視認できる全ての部分が、血管という血管が浮き出ている。
更には膨大な濃い紫色の魔力を垂れ流しにしていた。
「アレは……」
「———邪神、だ。不完全だけど、な……」
苦しげに話したお兄ちゃんの衝撃的な言葉に思わず言葉を失う。
———邪神。
それは、文字通り神の如き生物だ。
魔法界では、この世界より高次元にいるとされ、この世界の法則が通用しない化け物。
出会えば最後、生きて帰って来れないと言われる程の相手だ。
そんな化け物から私を護るように立った兄ちゃんは、ボソリと呟いた。
「出来るだけ、遠くで見てるんだぞ」
「———【魂怨剣】」
瞬間———お兄ちゃんの身体から、膨大な漆黒の魔力が噴き出す。
漆黒の魔力はお兄ちゃんの身体ごと包み込むと……渦巻いて収束し、やがて一本の剣を形作った。
———闇夜より暗く、光さえも呑み込む漆黒の剣を。
「…………」
「お兄ちゃん……?」
「……だ、だめ……」
何処か様子のおかしいお兄ちゃんに、薄らと目を開けたレイお姉ちゃんが話し掛けたその時———漆黒の剣がカタカタ動いて嗤った気がした。
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
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