第29話 お出掛け②

「———やっぱり無理だったな」

「ねー、楽しそうだったのにぃ……」

「当たり前じゃない。どれだけ頭下げてもダメなモノはダメなのよ」


 俺達は徐々に最高地点まで上がっていくジェットコースターを眺めながらアイスを食っていた。

 アイスはジェットコースターに乗れなかった際、佳奈が代わりに言ってきた物だ。


「それにしても……アイツらガチでどこに行きやがったんだ……?」


 そう、結局レイと透の2人とは朝から会えていない。

 透は余程アトラクションに夢中なのか、スマホに電話を掛けても出なかった。

 レイに関しては幽霊なので、特に心配とかはしていないが。


 俺が透のスマホに繰り返し電話を掛けていると……チョコレートのアイスを口にする渚沙が言った。


「迷子センターにでも行ってみる?」

「そんな場所があるのか?」

「えぇ、パンフレットには書いてあるわよ」


 渚沙が遊園地のパンフレットを取り出して俺に見せてくる。

 俺はパンフレットを受け取り、少し探せば迷子センターと書かれた場所があった。


「へぇ……確かにあるな」

「見せてー! かなも見たいーっ!」

「あいよ……っと」


 俺は見たがる佳奈を膝の上に座らせ、パンフレットの迷子センターと書かれた場所を指で示した。


「ほんとだっ! 透お兄ちゃん、かなより先に迷子になるなんて子供だね」

「この年齢で厨二病を未だ拗らせてる時点で察せられるよな」

「随分酷い言われようなのだけれど、全部本当だから何も否定できないわね」


 若干引いた様子で呟く渚沙には悪いが……透の全て事実の悪口はまだまだこんなものじゃないぞ。

 アイツほど既存の悪口にそのまま当てはまる奴は居ない。


「さて、それじゃあ迷子セン———ん?」


 俺がベンチから立ち上がったその時———突如スマホから着信音が鳴り出した。

 大方透だろうと予想して半ば反射的に電話を取り、スピーカーにする。


「おい透。お前一体どこ———」

『———緊急事態だ剣人!! レイが捕まったッッ!!』

「……………は?」


 俺は思わず声を漏らした。


「おいおい……面白くない冗談はよせよ。レイが捕まるとかあり得ないだろ」

「そうね。玲奈様の実力は当主レベル……とても普通に人間に捕まるなんてことは考えにくいわね」

『信じられないなら動画をとって置いたから見てくれ。我は奴らを追ってみる。我には……力の無い一般人の俺には、これしか出来なかった』

「あ、おい待て———」


 そう悔しさを言葉の端々に宿しながら透が俺の言葉を無視して電話を切った。

 同時に透からLI◯Eが送られてきて……トーク画面を開けば2分ないくらいの動画が送られてきている。

 俺は無言で動画をタップ。


 動画の場所は、俺達のいるジェットコースター辺りからそう遠くはない。

 そこで、レイが黒の修道服を着た何者かと相対していた。


『……何が目的で、私を尾行する?』


 レイが目を細め、警戒の色を灯す。

 対する修道服を着た者は、不気味なほどにこやかな笑みを浮かべていた。

 そこに敵意も害意もない。


『貴方には、———の一部となる栄光を授けます。喜びなさい、本来ならば別の者を予定していたのですが……神は貴方を選ばれたのです』

『……これだから、宗教は面倒』


 辟易とした様子で吐き捨てるレイだったが———突然目を見開いた。


『じゅ、術が使え……!?』


 更にレイの身体がバグを引き起こしたゲームキャラの様にブレる。

 そんなレイの様子を眺めていた修道服の女は、相変わらずにこやかな笑みを浮かべながらレイに近付く。


『それでは、行きましょうか。大丈夫、神は貴方をきっと赦してくださるでしょう』

『くっ……』



 ———ここで、動画は終わる。



「……何だアイツ。見るからに狂信者みたいな見た目だったが……」

「……もしかして……いえ、でも何故玲奈様が……」


 全く心当たりのない俺とは違い、渚沙は心当たりはあるものの……未だレイが連れ去られた理由に納得がいっていない様子で、顎に手を当てて眉間に皺を寄せる。

 そんな中———。



「…………邪神教徒……」



 誰かが、そんな言葉を口にした。

 俺は渚沙かと思い彼女に視線を送るも……渚沙は違うとばかりに首を横に振る。

 それなら———。


「……佳奈……?」

「…………」


 俺は、険しい顔をした佳奈へと意識を向けた。

 佳奈は俺と渚沙からの視線を受け……俺達に向き直って1度目を閉じる。

 そして次に目を開くと———覚悟の色を宿したで俺と渚沙を見据えた。



「———あの人達は、邪神を信仰する者達。退魔師の渚沙お姉ちゃんにとっても、私の様な魔法使いにとっても敵となる者達だよ」



 同時———佳奈の身体が光に包まれる。

 光の正体は、膨大な可視化した魔力。

 その魔力は佳奈の身体から発せられたものではなく……佳奈が付けていたヘアゴムだった。


 ただ、ヘアゴムから溢れた魔力も徐々に収まっていき……光の中から、1人の中学生くらいの美少女が現れる。


 燃えるような真紅の髪と瞳。

 耳には赤く透き通った宝石の様なイヤリングが付いている。

 衣装も赤を基調とし、綺羅びやかなスカートにはフリルが沢山付いている。


 そう、まるで———魔法少女の様な姿だった。


「……佳奈、なのか……?」

「うん……そうだよ、お兄ちゃん」 


 あまりにも普段知る佳奈とは姿の違う美少女に、俺は唖然として言葉を失う。

 俺の横では、俺ほどではないものの驚愕に目を見開いた渚沙の姿があった。


「も、もしかして……【魔法少女プロジェクト成功被験体:マーク4】……?」

「渚沙? おい、それは何だ?」


 俺は良くラノベやアニメなどで聞く、人体実験の計画の様な名前を呟いた渚沙に詰め寄ろうとして……佳奈が俺の手首を掴み、目を伏せて首を横に振った。


「……お兄ちゃん、渚沙お姉ちゃんに聞いても無駄だよ。きっと殆ど知らないから。それに……隠し事をしてるのはお兄ちゃんもでしょ……?」

「佳奈……一体何があったんだ……?」


 そう問いながらも、薄々勘付いていた俺がいる。

 酷く冷静な俺が何処かに居て……全ての違和感の辻褄が合あったことで寧ろ納得すらしていた。


 ……通りで、レイを見ても全く動じないわけだ……。


 俺が一気に大量の情報が流れてきた事に頭を痛めていると……佳奈が俺の両手をぎゅっと握り———。

 

 


「ちゃんと全部後で説明する。だから……お兄ちゃん、お願い———私と一緒に来て……っ!! 急がないと……レイお姉ちゃんが……!」




 真紅の瞳に涙を浮かべて、そう言う。

 俺はそんな佳奈の表情を見た瞬間、全ての困惑や驚きは頭から吹き飛んだ。


 俺は佳奈の頭に手を置き……真紅の髪を優しく撫でながら笑みを浮かべた。





「———安心しろ、佳奈。お兄ちゃんが全部解決してやるから」





—————————————————————————

 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

 モチベで執筆スピード変わるので、続きが読みたいと思って下さったら、是非☆☆☆とフォロー宜しくお願いします! 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る