第27話 第2章エピローグ
「———そ、それでは、緊急会議を始めます!」
場所は変わって、三芳銀牙が渚沙に迫っていた大広間。
そこに俺とレイの他に名家の当主達が集い、司会役である少々緊張した面持ちの渚沙が開始の合図を告げた。
「ま、まずは本日の議題でもある彼の紹介から……」
渚沙がチラッと俺を見る。
同時に、当主達の面々が此方に視線を走らせた。
うわっ……こういう自己紹介って1番苦手なんだよな……。
ただ、剣聖の経験から、ここで少しでも此方が緊張した姿や気後れした様子を見せれば相手に主導権を奪われることを知っている。
ここは敬語になりそうなのをぐっと抑え……タメ口で、余裕があるように見せる。
「……朝山剣人、高校生だ。得意なモノは剣で……多分この場の全員に襲われても返り討ちに出来る程度の力量はあるつもりだ」
「「「「「「「!?」」」」」」」
全員が全員、俺の言葉に少なからず反応を見せる。
三条家と二条家の当主は心底楽しそうに笑みを浮かべる。
一条家当主は少し眉を潜め、四条家、五条家、六条家の当主は、あまり気に入らないといった風に顔を歪める。
最後に七条家だが……彼女は特殊だった。
七条家の当主———七条
見た目は20代後半くらいの日本人に多い黒髪の美女だ。
しかしその瞳は右目が真紅、左目が灰色という少々不思議なオッドアイの持ち主だった。
また、彼女の魔力量は他の当主の数倍はあり……俺やレイよりも多く、恐ろしい程洗練された魔力は清流を流れる水のように清らかだった。
そんな彼女は、少し感慨深げに呟く。
「妾も斃せる、か……」
「まぁな。アンタが1番手強そうだが……まぁ対処できないことはない」
俺は肩を竦める。
確かに彼女はこの当主達の中でもぶっちぎりに……それこそあちらの世界でも上位層に食い込める程に強いが、俺が本気で戦えば負けることはまずないだろう。
俺がそんな意図を篭めて七条絃に視線を送ると……七条絃は嬉しそうに微笑んだ。
「そうか……いや、喜ばしいことじゃな」
……の、のじゃロリ……ではないけど『のじゃ美女』だと……!?
そんな人間が実際に存在したのか……厨二病以外で。
てか、もしかして数百年とか生きてんのかな。
俺は内心の動揺をひた隠し……横からジト目を向けるレイは無視して話を続ける。
「俺は、此方から仕掛けることは絶対に無いと言っておこう。俺の剣に誓っても良い。ただ———そちら側が俺の家族や大切な人に何かしてきた時は、容赦するつもりもない。徹底的に排除する」
「それは良かったわ。私、剣人君とは何だか気が合いそうだもの」
三条静香が心底楽しそうな笑みを浮かべたまま、そんなことを宣う。
俺的には御免被りたいが……確かに接しやすいのは事実。
やはり俺は相当剣聖の影響を受け継いでいるらしい。
「ところで……そちらのお嬢さんは? 儂は1度も見たこと無いぞい」
二条家当主———二条歳三が不思議そうにレイを見ていた。
俺はレイを紹介しようと口を開こうとして……レイが瞳を閉じて首を横に振る。
どうやら何か言いたいことでもあるみたいだ。
俺は徐々に自らの意思を持ち始めたレイにクスッと笑みを浮かべて譲る。
レイは淡い碧眼に決意を漲らせ、口を開いた。
「私は、レイ。ただのレイ。いずれ剣人の相棒になる者。だから———誰にも剣人は渡さない」
「———お前なぁ、あの言い方はアウトだろ……」
「何で? 私のお陰で、剣人はどこにも所属してない」
「いやまぁそうだけど……」
緊急会議が終わり、人の少なくなった大広間で俺達は雑談に興じていた。
因みに今は、会議でレイがとんでもない言い方をして会議をかき乱した件について苦言を呈していた。
あの言葉の後、当たり前だが全当主達からブーイングが入った。
当たり前だ。
俺は何処の名家の派閥にも入らないと宣言しただけでなく、そもそも退魔連盟にも所属しないと言っている様なものだったからな。
まぁ結局俺もレイの言葉に乗っかり、何とか『ヤバい時だけ退魔連盟の要求に応じる』という約束を取り付けて仲裁したのだが……本当に大変だったなぁ。
特に三条静香が大人のくせに駄々こねてたし……。
その間も今も、レイは俺の苦言を全く聞き入れた様子はない。
やってやったとばかりに胸を張って若干ドヤ顔のレイと、眉間に手を当てて小さくため息を吐く俺の様子を眺めていた渚沙が、呆れた様な目を俺に向けてきた。
「相変わらず朝山君は、玲奈様に甘いわね」
「そう……かもしれない。何と言うか、もう1人の妹が出来たみたいな感覚なんだよな……」
だから世話を焼きたくなるし、成長した姿をみたら嬉しくなる。
そして、目標が出来たなら……応援したくなる。
「私は、妹じゃない」
「そんなことは知ってるさ」
「いや、剣人は分かってない」
とっても不服です、と言わんばかりのジトーっとした視線を俺に突き刺してくるレイが何故不服なのか分からず、俺は首を傾げる。
すると、横からクスクスと笑い声が聞こえてきた。
「……おい、笑うなよな」
「い、いえ……ふふっ、朝山君は面白いなぁと思っただけよ。それに、優しい」
「一体俺の何処がだよ」
「———助けてくれたじゃない。私を。もう知ってるだろうけど……三芳銀牙に昔からちょっかいを掛けられていたの」
渚沙が机をぼんやりと眺めながら、言葉を紡ぐ。
「会う度に、今日のように迫られていたわ。そして断れば……いつも、完膚なきまでにねじ伏せられた。ついさっき、朝山君がアイツにしたようにね」
「……なら、俺を軽蔑するか? あのクソ野郎と同じ手を使った俺を」
渚沙が一瞬キョトンとした様子で首を傾げた後……首を横に振る。
「するわけ無いじゃない。逆にスッキリしたわ。1度、私が受けてきた気持ちをあのクソ野郎にも味わって欲しいって思っていたから。いい気味ね」
「……渚沙は、強いな。アイツなんかより何十倍も」
俺は心の底からそう思った。
普通の人間なら、完膚なきまでにやられたなら諦める。
抵抗を、敵意を向けることを、拒絶することを。
必死に自分を押し殺して……その内自分の感情が分からなくなり、壊れてしまう。
俺は、それを何人も見てきた。
だからこそ、彼女が強いと言ったのだ。
「買いかぶりすぎよ。私だって……諦めかけてたわ。心だって殆ど折れてたし、もう抵抗しなくていいかなぁ……なんて思っていたもの」
そう悲しげに告げた後、俺を見つめる。
「でも———貴方が変えてくれた。私に、諦めるな、と言ってくれた気がした。誰かに頼っていいって言ってくれた気がしたの。貴方はそんなこと考えていなかったかもしれないけれどね? だから———」
そう苦笑した渚沙だったが———次の瞬間、俺は彼女の姿に大きく目を見開いた。
渚沙の黒曜石のような漆黒の髪が外から吹いてきた風に靡く。
力強い光が宿る漆黒の瞳には、俺が映っていた。
頬杖を付きながら俺を覗き込むように顔を近付けた渚沙が、一語一語を噛み締めるように言った。
「———本当にありがとね、剣人」
太陽に向かって力強く咲き誇るひまわりの様な、そんな笑顔で。
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これで第2章完結です。
そして次話から、『第3章 剣聖と魔法使い』です。
宜しくお願い致します!
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
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