第25話 圧倒的な力(途中から渚沙side)

「……最近何かと戦ってばっかだな、俺」


 家族との時間も取れていないし……今度一緒に遊びに行くのも良いかもしれない。

 ただそうなると……何処が良いんだ?

 今日帰ったら佳奈に訊いてみるか。


「……剣人、現実逃避しない」

「いや、仕方なくね? 見てみろよ。俺は動画を撮るのかと思ったら———一目で分かるお偉いさん方全員集合じゃねぇか」


 俺はぐるっと辺りに視線を巡らせる。


 今いるのは、三条家の馬鹿でかい御屋敷の地下にある修練場と呼ばれる場所らしい。

 広さはバスケットボールコート4つ分程。

 周りを囲む様に高そうな椅子と机が幾つも置いてあった。


 そして———俺とレイを見る7人の着物や羽織に身を包んだ男女。


 彼らは大広間にいた奴らとは違う。

 全員が全員レイ並の魔力を保有いる。

 場馴れしている様子で、戦いに身を置く者の気配をしていた。


 彼らが、退魔連盟の上層部。

 一条、二条、三条、四条、五条、六条、七条の者達。


「ん、仕方ない。剣人が、静香を煽った」


 だから俺のせい、とでも言いたげなレイの呆れた視線が突き刺さる。

 その横で気まずそうに渚沙が目を逸らしていた。


「……ごめんなさい、ウチの母が」

「あ、ああ、うん。まぁ俺が煽ったのは事実だし別に気にしてない。ちょっと緊張するだけで」

「いえ、次からはキツく言っておくから」


 母親———周りに並んだ椅子の一角に座る三条静香へと忌々しげな視線を送る渚沙。

 それに対して三条静香は楽しそうにクスクス笑った後、手を合わせてテヘペロと言わんばかりに舌を出した。

 2人の仲良さげな様子に、俺もレイも些か驚きを禁じ得なかった。

 

「(……なぁ、俺てっきり家族との仲が悪いのかと思ったんだけど)」

「(……私も。口も聞いてないのかと思ってた)」

「何を話してるのかしら?」

「「なんでもないです」」


 顔を近付けてコソコソ小声で話していた俺とレイを不思議そうに見つめる渚沙が、俺達には何故か般若の顔に見えた。


 何て俺達が呑気に戯れていると……向かい側のエレベーターの出口から何やら槍の様なモノを持ち、急所にのみ鎧を付けた三芳銀牙が現れる。

 彼は俺達の姿を見た途端、不快げに顔を歪めた。


「ふんっ……これだから一般人出の退魔師は無能だと呼ばれんだ。戦いの前だってのにてんでなっちゃいねェ」


 そう言って制服に木刀と言う自分でも何ともやる気の無さそうな服だと思う格好の俺を見た後、隣の渚沙に視線を移す。


「渚沙ァ、テメェはそんなゴミとつるむんじゃねェぞ。テメェは俺の女だからなァ!」

「わ、私、は……っ」


 三芳銀牙の下卑た視線に、渚沙が身体を震わせて口籠る。


「おいおい随分な言い草だな。束縛強い系男子はあんまモテないぞ。てか渚沙は俺のモノでもお前のモノでもねぇよ」

「ふんっ、弱い奴程よく吠える。テメェにお似合いな言葉だなァ!?」


 お、お前も煽れるんだな。

 まぁ俺の鋼メンタルは男子の悪口では傷一つ付かないから問題ないけど。


「ま、弱いかどうかは———戦ってから言ってみるんだな」


 俺は獰猛な笑みを浮かべながら、レイと渚沙を下がらせ、木刀を抜いた。









「———朝山君……」


 私———三条渚沙は、左手で木刀を構えた朝山君を見つめる。

 心の中は、心配と不安で埋め尽くされていた。

 

 確かに朝山君は強い。

 私の攻撃を跳ね返した時の剣術は、凄まじかった。

 藤木総司を倒したのも頷ける。


 ただ、私的に三条悠真は玲奈様と共に倒したのでは、と思っている。

 きっと私の母も同じ考えだろう。


 私は横に浮遊する絹糸の様に艶やかな白髪に透き通る凛とした淡い碧眼の少女———玲奈様に目を向ける。


 玲奈様は言わずと知れた退魔師だ。 

 幽霊となった今、人を1人も吸収していないにも関わらず……当主級の力を保有していると考えられている。 

 そんな彼女と特級をも倒せる朝山君が手を組めば、あの三条悠真にも勝てるだろう。


 しかし———相手があまりにも悪い。


 三芳銀牙。

 別名———近接殺し。


 彼の持つ槍———【怨槍村正】は、妖刀村正を先代の三芳家当主がその身を捧げて槍に加工した伝説級に分類される霊具。

 その怨念は相手の深層意識に干渉して戦意を折り、仮に耐えても触れれば触れる程身体が怨念によって身体が重たくなる。

 それを達人並みの槍術を誇る三芳銀牙が操るのだから無敵と言っても良い。


 正しく朝山君の天敵だ。

 

「…………」

「どうしたの、渚沙」

「……玲奈様は朝山君が心配じゃないんですか?」


 全く顔色を変える事なく朝山君を見つめる玲奈様に問い掛ける。

 私よりも彼と同じ時を過ごす彼女はもっと心配しているかと思ったが……。



「———その必要は、ない。剣人は、絶対負けないから」



 寧ろ逆だった。

 玲奈様は、朝山君の強さに絶対的な信頼を置いているのだ。


 私が玲奈様の力強い言葉に圧倒的にされていると……母が声を張り上げる。


「それでは———試合開始!!」


 同時。

 三芳銀牙の身体がブレる。

 瞬間———朝山君の眼前に迫っていた。


「死ねクソ雑魚がァ!!」


 三芳銀牙が吠える。

 妖槍が闇のモヤを纏い、朝山君の心臓を穿つ———ことはなかった。




「———ぐあっ……!?」




 突如、一条の閃光が槍を弾く。

 弾かれた槍は三芳銀牙を伴って壁に激突。

 壁が陥没し、三芳銀牙を中心にクレーターが出来る。

 しかし、それだけではなかった。


「くっ……!?」

「……っ」


 私も、玲奈様も、母も、他の当主達も。

 この場にいる全ての人間が———まるで重力が数十倍になったかのような重圧に、立っていられず地に膝を付ける。

 誰もが驚愕に目を見開き、重圧の出処でありこの空間でただ1人立っている———朝山君に注目が移った。


「あ、朝山、君……」

「剣人……」


 私達の言葉は届かない。

 圧倒的な威圧感を放つ朝山君は、壁に埋まる三芳銀牙を感情の篭っていない冷酷な瞳で見下ろしていた。




「———立て。今まで渚沙にしてきたことの……俺の心に侵入した代償を払ってもらうぞ」


 


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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