第24話
———緊張感の増した大広間。
敷居には畳が敷かれ、床の間には如何にも高そうな掛け軸や花がいけられた壺が置いてある。
敷居の中央には座高の低い机、その上に湯飲みがこの場にいる着物や羽織を着た男女十数人と同じ分用意されていた。
そんな緊張感が支配する場で、俺は驚愕に目を見開く渚沙に話し掛けた。
「あー、大丈夫か?」
「ぇ、ぁ……な、何で……」
戸惑いを隠せないといった様子の渚沙は、驚愕に染まった瞳で俺を見上げ……絞り出す様に声を出した。
俺は理解出来ないと言うような彼女の問いに、肩を竦めて応える。
「ウチの我儘姫がお前を助けて欲しいんだとよ。後はまぁ……俺も知り合いが脅しを受けてる姿を見てイラッと来たから、だな」
「……朝山君……」
「———……誰だ貴様ァ? 見た事ない顔だなァ?」
自分を無視して渚沙と話す俺を、俺より十数センチ程身長の高い金髪の青年が日本人に多い黒眼でギロッと睨み付ける。
その睨め付ける視線には僅かに魔力が籠もっており……どうやら俺を威圧しているつもりの様だった。
……何してんだコイツ?
これっぽっちの威圧なんて有って無い様なもんだろ。
一体誰が怯むってんだよ。
俺は自分がこの場で最強とか思ってそうな青年に煽る様に鼻で笑った。
「そりゃ奇遇だな。俺もお前を見た事ない。てか覚えようとも思わないな」
「何だとテメェ!?」
「ま、待って、
胸ぐらを掴んで吠える銀牙と呼ばれた青年を俺が一発ぶん殴ってやろうとしたその時———渚沙が俺の胸ぐらを掴む腕を掴んで制止の声を上げる。
三芳銀牙は渚沙の声に少し驚いた様に動きを止めて俺を横目で眺めた後、気に入らなそうに舌打ちしながら手を離した。
「チッ……命拾いしたなァ、朝山剣人。今日は当主様の名に免じて許してやるが……次この俺に舐めた口を訊きやがったらタダじゃおかねェ」
「あっそ。あ、俺からも一言」
俺は背を向けた三芳銀牙を敢えて嘲笑しながら煽った。
「———お前の威圧、子供のママゴトみたいだったぞ」
勿論煽るのにもちゃんと理由がある。
こういった輩は、1度しっかり心を折っておかなければ……いつまで経っても変わりはしない。
多分これからも次期当主候補という肩書きを使って渚沙を脅すだろう。
肩書きがあるから、それに見合う強さがあるから、周りも無理に手を出せず……結果渚沙が迫られているのをただ黙って見ていることしか出来ないのだ。
だから———ここで俺が徹底的に捻り潰す。
ぽっと出の俺が捻り潰せば、それはそれは圧倒的な挫折を味わうだろうしな。
勿論ぽっと出で名家出身でもない俺に負けたとなれば、言い訳もできない。
「ッッ!? て、テメェッッ!!」
「だ、ダメ———」
俺の煽りを三芳銀牙は面白い様に真に受けて、怒りで顔を真っ赤にしながら拳を振り上げてきた。
渚沙が焦った様子で制止の声を上げたその時———。
「———そこまでよ、銀牙」
大広間にレイと共に三条静香が現れ、酷く冷めた目で三芳銀牙を見つめる。
これには流石の三芳銀牙も拳を止め、驚愕に目を見開いた。
「と、当主様!?」
「銀牙、彼は私の客人なの。この意味が分からない程貴方は馬鹿ではないでしょう?」
「くっ……し、しかし……!!」
尚も食い下がろうとする三芳銀牙に三条静香が鋭い眼光で睨む。
そこには濃密な殺気が篭っており、三芳銀牙は顔を真っ青にしたあっさりと黙った。
「はぁ……ごめんなさい、剣人君。実力は確かなのだけど、まだ精神的に未熟なのよ」
そう言って申し訳無さそうに三条静香が頭を下げる。
周りの奴らが何やら驚いているが……俺としては別に謝って欲しいわけじゃない。
何なら自分で突っ込ってんだわけだし。
「あー、頭を上げてくれ。別に謝って欲しいわけじゃないんだ。ただそうだな……コイツと戦える場所を用意してくれないか? あと木刀も。どうせアンタは俺の力をその目で確認しないと気が済まない
俺がそう答えれば、三条静香は一瞬驚いたように瞠目し……心底面白そうに笑みを浮かべた。
「ふふふっ……全く、初めて会ったのに良く分かってるじゃないの、剣人君」
「アンタみたいな人間を何人か見たことあるからな。次いでに退魔連盟の奴らに見せるための動画でも取ってもいいぞ。俺も質問責めとか嫌だからな」
俺がニヤッと笑みを浮かべて言えば、呼応する様に更に満面の笑みを浮かべた。
「本当に最高ね、剣人君! 今すぐに用意するわ! ———銀牙、準備しなさい」
「……御意」
打って変わって冷たい視線を跪いて頭を下げる三芳銀牙に向けた三条静香は、一瞬魔力を高めたかと思えば、身体が光に包まれてその場から消失する。
どうやら転移系の術を使った様だ。
三条静香が消えた瞬間、場の空気が少し緩和する。
同時に、立ち上がった三芳銀牙が俺を見たかと思えば、顔が加虐に塗れた表情に歪んだ。
「馬鹿な奴だなァ……折角見逃してやったってのによォ? 貴様が今から泣き叫ぶ顔が目に浮かぶぜェ」
「勝手に言ってろ。煽る暇が会ったら練習でもしとけ」
「……ぜってェに殺す……!!」
ギリッ……と忌々しげに俺を睨みながら、何人かの従者(?)を連れて何処かに去っていった。
それと入れ替わる様に、レイが俺の隣にやって来る。
その手にはちゃっかり和菓子の箱があった。
「……一応呼んだけど、良かった?」
「あぁ、完璧だ。レイのお陰で合法的にアイツの心を折れる」
「……朝山君、どうしてあんな提案を……」
未だに釈然としないと言った感じの渚沙の額に、俺はデコピンをした。
「痛っ……な、何するのよ……」
額を抑え、若干涙目になる渚沙に俺は呆れた様にため息を吐いた。
「はぁ……お前、アホだろ」
「なっ、なんでそうなるのよ!」
「アイツと戦う理由なんてお前のため以外にあるわけないだろ。じゃなきゃわざわざあんな面倒なことしねぇよ」
「で、でも私と貴方は友達でも何でもないって……」
「俺は自分が思った以上にお人好しらしい」
「え?」
俺は小さく笑みを浮かべた後、呆けた表情を浮かべる渚沙の頭に手を乗せ……少し雑に撫でた。
「———まぁ……あれだ。お前が気に病むことはねぇよ。俺が勝手にやるだけだしな」
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
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