第19話 洞窟(最初は三人称)

 ———剣人とレイが異形達から透の居場所を聞き出していた頃。


「…………こ、此処は……」


 恐怖の入り混じった震える呟きを発したのは、葉山透。

 そして透は、空の見えない地表から大分離れた自然発生したと思われる洞窟にいた。

 洞窟を照らす明かりは、自然に出来た壁に掛けられた松明のみ。


(……マジでここは何処なんだよ……いきなりゾンビに身体を触られ———っ!?)


 透はここに来るまでの記憶を思い返して息を呑む。

 浅い息を吐きながら恐る恐ると言った感じで異形に触られた両足首に視線をやり……くっきりと黒く変色した手の跡が残ったのを見た瞬間、悲鳴を上げた。


「う、うわぁあああああああ!?!?」


(な、何なんだよこれ!? どうやったら消えるんだよッ!!)


 透は黒く変色した手の跡を掻きむしる。

 しかし、幾らかいても跡は消えない。

 それどころか更に最悪な事に———。


「「「ぁ、ァァァァァァァァァ……!」」」


 地面から数体のゾンビの様な見た目の異形が現れる。

 異形達は透を見るや否や呻き声を上げながら透に近付いて来た。


「くそッ……く、来るな! ど、どうにかして逃げ———あっ! そ、そう言えば……」


 透は何かを思い出したかの様にポケットの中をまさぐる。

 そしてポケットから出てきたのは———。



 ———鞘に入った刃渡り十数センチの短刀と、数枚の不思議な文字の書かれた札。



 これらは森に入る前、予め剣人とレイから貰っていた物だ。

 透自身これらに何の意味があるのか分からなかったが……2人にはもしもの時に使えと言われていたことを思い出す。


「でも刃渡り10センチちょいのナイフみたいなのと使い方が分からない札じゃあ……」


 そう言いながら透が短刀を鞘から抜いたその時———刀身が青白く光り輝き、刀身が50センチ程に伸びる。

 

「お、おぉぉぉぉおおおおおお!!」


 厨二病患者である透は明らかに場違いな歓喜の雄叫びを上げる。

 既に変色した手の跡のことなど透の頭にはない。


(な、何なんだこの超カッコいい刀は! 漆黒の堕天者たる我にピッタリの刀だ! ククッ……いける……いけるぞ……!)


「———今ならどんな敵が現れようと我の敵ではない!! 全て我が愛刀———青滅刀の鯖にしてやろう!! クククッ……フハハハハハハハハ!!」


 そう狂ったように高笑いをする透を、異形達はドン引きした様子で眺めて……ゆっくりと後ずさった。










「———この森にこんな馬鹿デカい洞窟があったなんてなぁ」

「確かに大きい、けど……」


 俺達は目の前に広がる岩肌の洞窟を眺めながら零す。

 しかし、感慨深く洞窟に視線を巡らせる俺とは違い、レイは後ろの俺が開けた巨大な穴を見下ろしていた。


「……やり過ぎ」

「いや俺もここまでになるとは思わなかったんだよ」


 因みにどれくらいまで開いたのかは、底が見えないので不明だが……取り敢えずやり過ぎたことは確実であった。

 それにクルーエル剣術を使った代償は他にもあり……木刀が木っ端微塵に砕け散ったのも大分痛い。

 あるものといえば……念の為持ってきてたサバイバルナイフくらいか。


「……あのさ、あんまりこっち見ないで欲しいんだが……」

「……はぁ……この後、どうなっても知らない」

 

 俺は終始レイからジト目を向けられ、気まずくなって顔を背けると……続々と行く手を阻むかの如く現れる異形達に視線を送る。

 

「……まだいたのかよ……てか居すぎだろ。明らかにおかしいだろ」

「ん、関係ない。全部、倒すまで」 


 そう言って巫女装束の袖から複数枚の御札を取り出すレイ。

 いつになくやる気に満ち溢れたレイの姿に俺も鼓舞され、レイ同様何故かやる気に満ち溢れてきた。


 それにしても……。


「———何か、懐かしい光景だな……」


 俺は既に百を裕に超えた異形達が迫り来る光景に、過去の情景を重ね合わせる。


 剣聖時代、どんな場所に居ようと数百を越える敵が居た。

 それは朝でも昼でも夜でも変わらない。

 最後の数年間だけでなく、まだ世界を敵に回していない時でも……俺は常に対多数と戦ってきた。



 まぁ何が言いたいかと言うと———急いでいる時に対多数相手に戦うのは、非効率的だってことだ。


 

「レイ、折角やる気出してる所悪いんだけど———」

「っ!? な、何、する……!」


 俺はレイの脇と膝裏に手を滑り込ませ、此方の世界で言うお姫様抱っこをする。

 突然抱っこされたレイは最初はジタバタと暴れていたが……まぁ当然俺に力で敵うわけもないので直ぐに諦めた模様。

 しかし淡い碧眼を細め、俺をこれでもかと睨み付けてくる。


「……」

「いやそんな怒るなよ。どうせこいつらまだまだいそうだし相手するだけ無駄だろ。知ってるか? どっかの偉い人が言った『逃げるは恥だが役に立つ』って言葉。アレが正しく今の状況なんだよ」


 俺は足に流す魔力の比率を上げ、地面を踏み締める。

 瞬間———異形達の間を爆発的な速度で駆け抜けた。

 それも洞窟内をぎっしりと埋め尽くす異形達の間を、だ。

 今更ながらに後ろから俺が地面を蹴った音が鳴っているが……離れすぎたせいで既に元いた場所は視認できない。


 俺は脇目も振らず、一瞬感じ取った透の気配に向かって突き進む。

 そして———。


「…………髪」

「お前幽霊だから一瞬で治るだろ」

「……確かに」

 

 風圧でボワッとなった髪を一瞬で元に戻したレイを降ろした俺は……眼の前の光景に目を向ける。


 片や、全身ボロボロの状態にも関わらず俺が渡した短刀を構える透の姿。

 周りには破れた御札が散乱している。

 片や、透に加虐的な笑みを浮かべている5メートル程の身長に強靭な肉体を持ち、額に2本の角を生やした———黒い鬼の姿。

 数メートルはある大剣を肩に担ぎ、大剣には血が付着している。


 互いに、俺達の存在には気付いていない様子だった。


 ———ギリッ……。


「…………」

「……剣人……」


 俺は歯を食いしばって今にも爆発しそうな怒りを抑え、相手が気付くように敢えて膨大な量の魔力を身体から溢れ出させる。

 そこでやっと此方に気が付いたクソ怪異の顔と透の安心した様な顔を見た瞬間。


 ———俺は自分でも驚くほど低く、威圧感の籠もった声が出た。





「———よくもやってくれたなッ……貴様は俺の手で、確実に滅ぼしてやるよ」

 




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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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