第18話 透の行方
———問題。
連れ去られた仲間の居場所を知っている奴らが目の前にいるとする。
しかし簡単に死んでしまうそいつらを殺したら最後、2度と仲間には会えないだろう。
さて———どうすればいいと思う?
正解は———教えてくれるまでひたすら死なない程度に斬る、だ。
「———おい、まだ斬られたいか?」
「私も、ぶん殴る……ぞ?」
俺は四肢を斬られ、再生され、そしてまた斬られて……それを既に10回以上繰り返した異形達を見下ろしながら問い掛ける。
横では何もしていないくせに威勢だけいいレイが、さらさらな白髪を半ばで結び、白と赤の巫女装束を身に纏い、指を鳴らす仕草をしていた。
「レイ、今こいつらは何て言ってる?」
「ちょっと待って」
そう言ったレイは、ゆっくりと地面に足を着いてしゃがみ、垂れてきた白髪を耳にかけながら悶え苦しむ異形の口元に耳を近付ける。
すると……異形の口が微かにパクパクと開閉した様に見えた。
レイはそんな異形の言葉を聞き逃さないという風に真剣な様子で耳を傾けていた。
因みに始めの異形達は、レイがこんなことをしようものなら速攻で攻撃を仕掛けてきていた。
ただ俺が全部ぶった斬って5回位経ったら何もしなくなったが。
何て考えていると……聞き終えたのか、レイが立ち上がった。
俺が彼女に声を掛けようとした瞬間———レイの体から膨大な魔力が立ち昇る。
「……レイ?」
「ちょっと待って。———【浄化術】」
空へと一直線に伸びる白銀の魔力は彼女の周辺に渦巻き……異形達に降り注ぐ。
彼女の魔力にあてられた異形達は、次々と光の粒子となって空へと消えて行った。
俺はその光景を眺めながら……小さく息を吐いたレイの横に立った。
レイは空へと登る光の粒子を見つめながら、口を開く。
「……皆んな、感謝してた。勿論、剣人にも」
「俺は恨まれることはしてても、あいつらに感謝されることはしてないぞ」
「皆んな、無理矢理従わされただけだった。剣人が痛みを与えたお陰で、自我を取り戻したって。だから、感謝してる」
……死んで開放されても従わされるってのは、皮肉だな。
それに、中々に胸糞悪い。
「はぁ……それで、どうだった?」
俺は陰湿な空気を吐き出すように息を吐いて問い掛けると……レイが1度目を瞑った後、ドヤ顔で親指を立てる。
「透の居場所、分かった」
「ガチナイス。それで……何処だって?」
「下」
「は?」
レイが地面を指差し、言った。
「———この森の、地下」
…………ヤバ過ぎるだろ。
俺はあまりにも予想外の答えに思わず眉間を押さえる。
いや、流石に地下は予想してないって。
「正確には、山の山頂の真下にいる。ただ、地下空洞は、至る所に張り巡らされてるらしい」
「そ、そうか……いや、幽霊が地下に行けるのは、まだ分かる。だけど……透は一体どうやって運んだんだよ……」
「……気合、根性?」
「すげぇ脳筋なやり方だなおい。まぁでも……場所が分かったなら話は早い」
俺は、そっと腰に差した木刀の柄を握る。
レイはそんな俺の様子を訝しげに眺めている。
「……何を、する気?」
「そんなの1つに決まってんだろ。———地面に大穴を空けてやるんだよ」
俺は『コイツガチか』というような驚きの視線を向けるレイにニヤッと笑みを浮かべ———全身と木刀に魔力を流す。
同時に———木刀と身体の周りに可視化された青白い魔力が吹き荒れる。
暴れる魔力同士が衝突し、激しくスパークを散らす。
「……これ、は……」
「まぁ見てろよ。勿論離れてな」
呆然と呟くレイを横目に、地面を軽く蹴る。
10メートル程飛び上がった俺は、剣を水平に構え———。
「【クルーエル剣術第三式改:蒼天穿ち】」
———地面目掛けて突きを放つ。
青白い膨大な極光が発射。
極光が刹那の内に空間を疾駆し———地面を穿つ。
———ドゴォォオオオオオオオオオオオッッ!!
響き渡る轟音。
発生する地震と見紛う強力な揺れ。
空気を伝導する衝撃波。
木々が激しくざわめき、衝撃波を食らった葉が一気に落ちる。
同時に辺り一体を埋め尽くす程の爆煙を巻き上げた。
少しして爆煙が晴れると———直径20メートル程の大穴が開いていた。
俺は穴を覗き込み……下に空間があることを確認して頷く。
「ふぅ、これでよし」
「良くない。明らかに、やり過ぎ。それに……クルーエル剣術って何?」
クルーエル剣術とは何か……とな。
随分と難しい質問だな。
「まぁ簡単に言えば……俺の前世の故郷に伝わる剣技だ。この剣技は第五式までしか無いけど……どれも威力高すぎて滅多に使わん。一応これでも大分威力は押さえたんだけどな……」
「……今後、その剣術使うの禁止。異論は、認めない」
レイが珍しくこれでもかと顔を引き攣らせてキツく言ってくる。
ただ、俺も実際に使ってみて分かったが……レイと同意見で、2度と使わない方が良い気がする。
というのも、どうやらこの世界はあっちの世界より色々と脆いらしい。
あっちの世界だとこのくらいの威力なら地面が抉れる程度で済むからな。
そう思ったらあっちの世界の地面は何で出来てんだろうか。
「まぁ今はそんなことどうでも良くて……取り敢えず降りるか」
「……良くないけど、降りるのが先なのは同意。透の方が先」
こうして俺達は、ぽっかりと空いた穴に飛び込んだ。
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次話は18時更新です。
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