第17話 神隠し

「———お、おおっ!! これが超メジャーな能力の1つ———【身体強化】か! 一体どう言う原理なのだ? 魔力が細胞を活性化させているのか? なら魔力は一種のアドレナリン的な要素に含まれるのか……?」

「……あんまジロジロ見るな。あと近い」


 鬱蒼と茂る森の中。

 相変わらず動物の気配や鳴き声もなく、夕陽が微かに地面を照らすが……依然として視界は暗い。


 そう———俺が屑野郎を殺し、三条渚沙と初めて会った森にやって来ていた。

 本当は行きたくなかったが……この森は人が居ないので、透に身体強化を見せるのにもってこいの場所だったのだ。


「おーい、透ー? 聞こえてるかー? ダメだな、1ミリも聞いてない」


 そんな場所で俺は、身体強化をした状態のまま……此方を超近距離から観察してくる透に辟易していた。

 しかし透には、俺の声が届いていないかの様に反応がない。


 流石厨二病。

 ファンタジー要素になったら集中力が段違いだな。


「……これは長くなりそうだな」

「頑張れ、剣人」

「心が篭ってないな、全く。せめて俺を見てから言えよ」


 俺はジトっとした目を、辺りを浮遊しながら何かを探している様子のレイに向けた。

 しかしレイは、俺の視線に全く怯むことなく、尚も辺りに視線を巡らせながら言った。


「私は、この森の噂が気になる」

「あー……そう言えばそんなことさっき母さんが言ってたな。確か……神隠し、みたいな感じだったか?」

「そう」


 神妙な様子で頷くレイ。

 幽霊として、何か感じる所があるのかもしれない。


 因みに神隠しとは、まぁ一種の噂だ。

 俺達は一旦家に帰ってからこの森にやって来たのだが……母さんが言うには、この森には昔から神隠しの噂があるらしい。

 俺的には迷信だと信じたいのだが……。


「……剣人。この森、おかしい」

「……だよなぁ……」


 この森の魔力が神隠しを迷信だと信じさせてくれない。

 

 端的に言えば———異常なのだ。


 この前来た時はまだ魔力の感知に慣れていなかったせいで気付かなかったが……明らかにこの森に漂う魔力は異常な程多い。

 森は魔力が溜まりやすい場所と剣聖の記憶にあるものの……それでは済まされない程の量である。


「レイは何か気付いたか?」

「……まだ、分からない」

「そうか。まぁほどほどにしとけよ。無理に首突っ込む必要はないしな」


 どうせ絶対面倒事だから。

 それに関わったらまた退魔連盟とかいう謎組織に関わらないといけなくなりそうだし。


 何て考えながら俺が顔を顰めていると……透が此方にキラキラした瞳を向けていることに気付く。


「……今度は何だ?」

「我が盟友よ! 次は剣術を見せてくれ!」

「分かったからマジで離れろ。お前の身体が細切れになる———」

「———良いぞ! やってくれ!」

「それは離れ過ぎな」


 50メートルくらい先の木の後ろに隠れてこちらを窺うビビりな透にため息を吐きながら木刀を構える。

 ゆっくり深呼吸をして……身体の感覚に身を任せて剣を振るった。


 ———ヒュッッッッ!!


「おおっ!! あ、ふ、ふっ……わ、我の次くらいに素晴らしいな……」


 静寂の中に鳴り響く風切り音。

 不規則に刻む地面を蹴る靴音。

 恐ろしく軽く、思った通りに動く身体。

 その全てが心地いい。


 あぁ……やっぱり剣は良いな。

 さて、そろそろ速度を上げて行くか。


 俺は架空の敵を作る。

 相手は……マシンガンにするとしよう。

 マシンガンを持った人間が俺の目の前にいるイメージ。


「疾ッ———」


 俺は鋭く息を吐き、迫り来る大量の弾丸を木刀で弾く。

 慣れれば徐々にマシンガンの数を増やす。

 そうして段々速度を上げ……周りに風を纏い始めたその時———。



「———剣人っ!!」

「っ!? な、何だ、レイか……」


 

 レイが焦燥に駆られた様な表情で俺の名前を呼んでいるのに気付いた。

 俺はレイの寸前で止めた木刀を納め、額にじんわりかいた汗を袖で拭きながら問い掛ける。


「どうしたんだよ、急に。てかあんまり近くに来ると危な———」




「———透が、消えた……っ!!」




 …………何だって?


 俺はレイの言葉で反射的に、先程透が隠れていた木に目を向ける。


 しかし———そこに透の姿は無かった。

 まるで最初から居なかったかの様に跡形も無く消えていた。


 俺は驚愕に目を見開き、呆然と呟く。

 

「嘘だろ……さっきまでそこにいたぞ……。それに居なくなる気配も感じなかった……レイは何か見なかったか?」

「……分からない。私が、目を離していた隙に、消えた」


 レイがまるで自分が悪かったとでも言うように顔を俯かせ、悔しそうに唇を噛む。

 俺はそんなレイの頭を……ガシガシと撫でた。


「っ!? な、なにする……」

「そんな顔すんな。俺だって剣に夢中になって透に意識をやっていなかったのは間違いなく俺の落ち度だ。それに……今は後悔より先にすることがあるだろ?」

 

 レイは突然乱暴に撫でられたことにキッと睨んで来たが……俺の言葉に小さく頷いた。

 

「はぁ……それにしても、まさか本当に神隠しが起きるなんてな。関わるつもりは全くなかったんだが———「ァァァ……」———ッッ!?」

「剣人……っ」

 

 突然何の気配もなく上半身だけ地面から現れたゾンビの様な見た目の幽霊に、俺は反射的に魔力を込めた木刀を浴びせた。

 

 ———ズバッ。


 両断された幽霊は、何の抵抗もする事なく消滅した。

 あまりの呆気なさに俺が首を傾げたその瞬間———。




「「「「「「「「「———ァァァアアアアアアアアアアア!!」」」」」」」」



 

 地面から大量の老若男女様々なゾンビみたいな異形が次々と出現し———逃がさないと言わんばかりに俺を取り囲んだ。


「……剣人」

「ああ、コイツらだろうな……透を連れて行ったのは」


 ただ、ノコノコと俺の前に現れてくれるとか———何てラッキーなんだ。


 俺は木刀の切先を異形共に向け、告げた。





「おい、貴様ら。俺の親友は———返して貰うぞ」


 

 

 

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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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