第16話 厨二病はある意味無敵である

「———どう言うことか教えてもらおうか我が盟友よッ!?」

「分かったから離れろ。俺に男子に迫られてときめく趣味は一切ない」


 俺は死気迫った顔を額がぶつかりそうな程に近づけて来る透を押し除ける。

 若干鼻息が荒いのがよりキモさを醸し出していた。


 しかし———。


「……黙って、透。邪魔、気持ち悪い」

「ごはっ、ガハッ!? ふ、ふっ……わ、我に精神攻撃を与えるとは……な、中々やるではないか……!!」

「離れて。ほんとに、気持ち悪い」

「ガハァァァ!?!?」


 幾ら暴走気味の透でも———俺の膝に座って透に絶対零度の視線を向けるレイには勝てなかった様だ。

 レイの言葉は、透の厨二病という分厚いファイアウォールを容易く突き破り、透の心を木っ端微塵に吹き飛ばした。


 と、透……き、気の毒に……。

 ただ俺の膝にレイが乗ってるのに近付いて来たお前も悪いから……まぁ、うん、強く生きろ。


 胸を押さえて机に突っ伏し、口から魂を吐き出しながら涙を流している透に、俺が哀憫と同情の視線を向けていると……同じく同情の目を透に向けていた三条渚沙が口を開く。


「えっと……彼は良いのかしら?」

「「お構い無く」」

「良くないわ!! それにレイよ……我が漆黒の堕天者であるからこの程度で済んでいるが、凡人だと今の10倍食らうからやめるのだぞ……」


 速攻で起き上がった透が片目を押さえながら言う。

 そんな様子を呆れた様に眺めていた俺は、ドン引きしている三条渚沙に視線を向けて小首を傾げた。


「ほらな?」

「そ、そうね……あまり効いて無さそうね……」


 だって厨二病は如何なる所にも格好良さを見出すからな。

 ある意味では厨二病ってメンタル最強なんだよ。

 今だって『余裕で耐えた我、強者感出て格好いい……!』とか考えてると思うぞ、多分。


「……剣人、透が怖い」

「奇遇だな。俺も透のメンタルが怖い」

「え、えぇ……初対面の私の前でここまで堂々と素を出せるのは、ある意味凄いことだと思うわ……」


 俺達3人は、椅子から立ち上がって何処から取り出したのか不明なローブを羽織った透に、ドン引きと恐怖と畏怖の籠もった目を向けたのだった。









 ———放課後。


「じゃあ明日の夜、迎えに行くわね」

「……分かった。出来たら行く」

「絶対居なさいよ? 居なかったらインターホン連打するからね?」


 そんな脅しを告げた後、三条渚沙は俊敏な動きで何処かに消えて行った。

 頻りに時計を気にしていたので、大方何か用事でもあるのだろう。


 ただ———今の俺には彼女よりも考えないといけないことがある。


「…………教えるから、良い加減落ち着け」

「落ち着いていられるものか!! 初めての異能力……あ、違う。初めて我以外の異能力を見るのだからな!!」

「本音が漏れてるぞ」

「今のは忘れるのだ」


 そう、テンションMAXの透に身体強化や剣術を見せることだ。


 勿論始めはやめようかと思った。

 というのも、どうやらレイが記憶を消す類の術が使えるらしいのだ。

 だからそれで透の記憶を消すというのも考えた。


 しかし……それは流石に可哀想だな、と思ってしまった。

 折角俺以外の奴と友達になれたのに、それを奪うのはどうかと思ったのである。



 そして何より———透はこんなでも俺の親友だ。



 今までもそれなりに助けてもらったし、透には死んでも言わないが……家族以外なら1番信用している。

 だから、俺の目を、親友である透を……信じてみようと思ったのだ。

 ただ……。


「……透、1つだけ伝えたいことがある」


 俺は、帰路を先々と進む透に声を掛ける。

 透は俺の真剣味の帯びた声に、足を止めて振り返った。


「……どうした、我が盟友よ?」

「……これを知ったら、もう後戻りは出来ない。ここがターニングポイントだ。今ならまだこんな危険なことに関わらなくて済む。だから———」

「———愚問だな」


 俺の言葉を遮って、夕陽を背中に浴びた透が言った。




「———覚悟なんてもうしてる。大切な友達である2人がこれから危険な目に遭うかもしれないのに……俺だけ何も知らず生活するなんて出来ないよ。それだけは耐えられない。お願い、剣人。俺にも関わらせてくれないか……?」




 透が頭を下げる。

 本当は誰よりも臆病で優しい……厨二病という防護服を脱いだ親友が。

 

 ほんと、生粋のお人好しだなお前は……。

 でも、そんなお前だから……俺はお前を親友って呼ぶんだよな。


 俺は相変わらずな親友に小さくため息を吐き……肩に手を置く。


「お前が覚悟を決めてるならそれでいい。それと……あ、ありがとな、透。お前が友達で、よ、良かったよ」


 最後は物凄いクサイことを言っていることに気恥ずかしくなって目を逸らす。

 そんな俺を透は呆けた様子で見上げていたが、目を何度か瞬かせた後……心底嬉しそうに頷いた。


「あぁ、我もだ……っ!! 我も、剣人と盟友になれて嬉しいぞ!!」

「あ、おい、くっつくな! 俺にソッチの趣味はないって何度も言ってるだろ。てか良い加減一人称は統一しろよ」

「そ、それは……そ、そう! 我は二重人格なのだ! 普段は何の力も持たない凡人———透で、今は最強の魔眼を持った———漆黒の堕天者っと言った風にな!」


 何だよその取って付けた様な設定は。

 てか二重人格なら人格コロコロ変わりすぎだろ。


「……透、気持ち悪いけど良い奴」

「ずっとどこにいたんだよ……てか、気持ち悪いは抜いてやれ。泣くぞ。透が」

「善処する」

「それはしない奴の常套句だな」

「2人とも聞いているのか!?」

「「勿論」」


 誤魔化すように1人で早口でペラペラ話している透を眺め、俺とレイは小さく笑みを零した。


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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