第13話 第1章エピローグ(途中からレイ視点と三人称視点)

「———……本当に、斃した」

「だから斃せるって言ったろ」

「それは、聞いてたけど……」


 俺が屋上から降り、グラウンドで透を護ってくれていたレイと合流すると……屋上をぼんやりと眺めていたレイが信じられないといった感じで零した。

 まぁ200年以上も斃されなかった相手が斃されたのだから、この反応も仕方のないことだろう。


「…………やっと、終わった」

「……そうだな」

「私が、この世にいる必要も、ない」

「……」


 レイは喜びと悲しみの入り混じった様な表情を浮かべ、そう呟いた。

 彼女の淡い碧眼が揺れる。

 足元まである美しい白髪が、吹いてきた一陣の風に揺蕩う。

 そんな靡く髪を耳に掛けるように押さえたレイは、満天の星空を見上げて寂しそうに笑う。


「これで、誰かが巻き込まれることはない。だから———この姿も、もうおしまい」

「……っ、その格好……」


 俺は、制服から一瞬にして巫女装束に変わったレイの姿に少し目を見開く。

 髪と同じ白い巫女装束に変わった彼女の姿は、月光を反射して何処か神秘的な雰囲気を漂わせていた。

 そんなレイの大人びた姿と柔らかく微笑んだ表情に、不覚にもドクンッと鼓動が跳ねる。


「ん。初めて、剣人……動揺した」

「ど、動揺なんかしてないし……」

「幽霊に、嘘は通じない」

「なにそれ凄い。裁判出たら勝ちゲーじゃん」


 そんなぶっ壊れ能力あったらこの世の未解決事件大分解決するだろ。

 冤罪とかも一気に減りそうだな。


「———ふふっ……あははは……!」

「れ、レイ?」

 

 俺が幽霊のチート能力の有能性に思いを馳せていると……突然レイがお腹を抱えて破顔する。

 心底楽しそうに、声を上げて笑う。

 急に笑い出したレイについて行けない俺は困惑するが……彼女の子供の様に無邪気に笑う姿に、気付けば俺も笑みを浮かべていた。


「ははっ……ははははは……! 何で笑ってんだよ……っ」

「わ、分からない……ふふっ、で、でも……何か面白い……っ」


 俺達はそうして、2人して意味が分からないまま笑い合っていた。










 一頻り笑った私達はグラウンドに寝転び、ボロボロと徐々に崩壊していく封印を眺めながら雑談に興じていた。


「———でな? この厨二病、自分から俺をお化け屋敷に誘ったくせに、いざ入ったら一瞬にして気絶したんだよ」

「ふふっ、今日と同じ」

「ほんとそれな。何で誘ったんだか……」


 剣人の話に、私が笑う。

 しかし彼は、そんな私よりも……それこそ心底羨ましいほど楽しそうに笑みを浮かべていた。

 しかし剣人は一呼吸置いた後……真剣な面持ちで私に核心を突く問いを投げかけてきた。



「———これから、お前はどうすんだ」



 私は瞠目する。

 自分でも分かるくらい狼狽して、剣人と目が合うも直ぐに目を逸らしてしまった。


 ……どうするの、か……私は、一体どうしたいんだろう……?


「……わ、分からない。私が幽霊になったのは……アイツを逃さないためだった。だから、アイツが居なくなって———私は存在意義を失った」


 そう、私はあの屑野郎の被害者を出さないために命を捧げた。

 必死に抗って……自分の無力さに苛まれて、また抗う。

 私の意識が蘇るまで、私は機械の様に動いていた。

 意識が蘇っても、同じ様に動いていた。


 それが———私の全てだった。


 だから、今更どうするのかと聞かれても……。



「———なら、俺が新しい存在意義を与えてやるよ」

「っ!?」



 私は剣人の言葉に驚きのあまり言葉を失い、身体が動かなくなった。

 上半身だけ起こした剣人は、目を見開いたまま固まる私に目を向ける。

 

「まぁ本当はそういうのって自分で決めた方が良いんだろうけど……お前が自分なりの存在意義というかやりたいことを見つけるまで、俺が与えてやる。どうだ?」

「……どう、と言われても……よく分からない」

「うーんそうだな……あ、そうだ」


 剣人は人差し指をピンと立てて、顔を歪める私に向ける。

 そして———悪戯をする子供の様な笑みを浮かべて、私に告げた。




「———好きなことをやろう。好きな時に遊んで、好きな時に寝て、好きな時に好きな場所に行けば良い。200年もこんな代わり映えない場所に閉じ込められて、責務を全うしてきたんだ。それくらいの自由は良いんじゃねぇの?」




 …………本当に、良いのだろうか。

 結局何百、何千もの人の命を護れなかった私が、自由を手に入れても。


 そんな思考に苛まれる私に、剣人が全てを見透かした様に———今最も欲しい言葉を言ってくれた。



「———良いんだよ、別に。てか駄目って言う奴は、誰であっても俺がぶっ飛ばしてやる。だからほら、俺と一緒にこんな場所から抜け出そうぜ。俺がお前を連れ出してやるから」



 この人なら……剣人なら、本当にそうしてしまいそうだな……と思った。


 だからだろうか。


 私は「やべぇ……めっちゃ恥ずいこと言ってるぞ俺……黒歴史確定だ……」と心中で悶絶している剣人に小さく笑みを零し、気付けば———彼の手を握って言葉を紡いでいた。



「———私を、連れ出して……お願い…っ!」

「———仰せのままに」



 そう言って、彼は……私のヒーローは朗らかに笑った。











「———と、当主様! さ、三条悠真の封印が消えました……!!」


 剣人が三条悠真を斃した数時間後。

 退魔師の名家———三条家の本家に、1人の退魔師が呼吸を乱しながら当主と呼ばれた黒髪の美女の下へ駆け込んできた。

 美女は退魔師の報告を聞いた途端、執務を止め、椅子から立ち上がった。


「……っ、そ、それは本当なのかしら……?」

「は、はい……! 確認致しましたので間違いありません……!」

「三条悠真は? 我が一族唯一の汚点である三条悠真はどうなの!?」

「———しょ、消滅していました……!! 僅かに三条悠真の霊力の残滓が屋上に残っていましたが……そこは戦闘を行った様な跡があり、そこ以外何処にも彼の霊力は感知できませんでした!! また、三条玲奈様の姿も見当たりませんでした!!」

「つまり、誰かが……私達の知らない誰かが、奴を殺したってこと……?」

「そ、そういうことになります……。退魔連盟は誰も派遣していませんでした……」


 仮にそうなら、大問題だ。

 勿論良い意味でも悪い意味でも。


 黒髪の美女———三条静香しずかは唇を噛む。


(どういうことなの……? 超級怪異のヤツを斃すなんて不可能よ……! でも、確かにヤツは消滅している……それも戦闘痕を残して……)



「———私は退魔連盟と他の名家に報告するわ。だから貴方達は三条悠真を斃した者の捜索をしなさい! 命令よ、急いで!」

「は、はッ!!」



(———絶対に、見つけ出してやるわ……!!)





 こうして剣人は、日本最大の裏組織———『退魔連盟』に目を付けられることとなった。


—————————————————————————

 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

 これで第1章は完結です。

 次話から第2章『剣聖と退魔連盟』がスタートします。

 どうぞ、よろしくお願いします!!


 モチベで執筆スピード変わるので、続きが読みたいと思って下さったら、是非☆☆☆とフォロー宜しくお願いします!  

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