第12話 0時に屋上に現れる神社②(三条悠真side)

 ———今までの時の中で、これほどの相手に出会ったことがあっただろうか。


 僕、三条悠真は己に問い掛ける。

 しかし直ぐに答えは出た。


 ———答えは否だ。


 300年はこの世にいる僕だが、本気で命の危機を覚悟したことなどなかった。

 この僕を封印し、今は僕と同じ霊となってしまったレイと名乗った白髪の少女が相手でも、僕には全然余裕があった。

 封印された後も数多の退魔師がやって来たが、全て僕を斃すには足りない。

 

 しかも、退魔師を殺せば殺す程僕は強くなっていく。

 時が経てば経つほど僕を楽しませてくれる相手は居なくなっていった。



 そんな時———彼が現れた。



 初めて彼を見た時、僕はただの愚かな子供だと思った。

 大した霊力も放っておらず隙だらけで、腰には木刀一振りのみ。

 とてもじゃないが今まで対峙してきたどの相手より格下に見えた。


 しかしそんな僕の考えは、あまりにも愚かであった。

 

 彼が木刀の柄に手を掛けた瞬間———彼の纏う気配が明らかに変わった。

 ただの子供では有り得ない殺伐として死に満ちた気配を纏っていた。

 分体を通して初めて彼の姿を見た時、背筋が凍る感覚を初めて体験した。


 彼は、異常だ。

 彼の剣撃は、異次元だ。

 彼の纏う気配は、たかが十数年生きただけの子供が出して良いモノじゃない。



 彼の纏う気配は———数十年もの月日を休むことなく、数万……数十万もの人間をその手で殺さなければ得られない様な代物だ。


 

「———君は、一体何者なのかな……?」



 僕の放った術を全て完封した彼は、一瞬動きを止めて何か考える様な素振りを見せる。


「そう、だな……剣聖、とでも名乗っておこうか」

「剣、聖……それは剣の達人、って意味なのかな?」


 ポツリと呟く僕に、剣聖と名乗った少年が肩をすくめて頷く。




「そうだ。———世界を敵に回した、な」


 

 

 そう悲しげに零した剣聖の身体がブレた。

 刹那———眼前に剣聖が現れる。

 僕の首筋には木刀の刃が迫っていた。


 は、速いッ!?


「くっ……」


 咄嗟に頭を後ろに逸らし、木刀を避ける。

 首筋に鋭い痛みが走るが……僕は気にすることなく地を蹴って剣聖から距離を取った。


「お、避けられたか」

「はぁ、はぁ……はぁ……あ、あはは……まさか僕に傷を付けられるなんてね。でもね、幾ら傷を付けようと———」

 

 僕は首筋の霊力の消滅した部分に触れ———違和感を覚える。

 修復しようと霊力を操作するが、何故かそこだけ霊力が僕の操作を離れ、大気中に霧散してしまうのだ。


「何!? どうして治らない……!? 僕の身体は霊力で形成されて……」

「教えてやろうか、三条?」

「な、何がかな……?」 


 余裕の笑みを浮かべて木刀で肩をトントンする剣聖に、僕は努めて冷静に問い掛ける。

 その間もずっと治そうとするが……どうしても僕の操作を受け付けてくれなかった。


「ほ、本当にどんな小細工を……」

「だから教えてやるって言ってんだろ? そう焦るな。えーっと……俺の身体に流れる魔力……あー、お前らの界隈の言葉では霊力だったな。俺の霊力はどうなら特異体質みたいなんだ」

「特異体質……?」


 ———霊力の特異体質。

 確かに過去に幾つか事例がある。

 しかしあまりにも珍しいため、300年以上生きた僕も見たことはない。


 そんな超貴重な特異体質が目の前の少年だと言うのか……?


「そう、俺の霊力は、体外に出た瞬間性質が変化するパターンでな? 簡単に言えば———全ての霊力を分解する霊力と言った感じか」

「!?!?」

「そのせいで魔法はからっきしさ」


 そう言ってカラカラ笑いながら剣聖は木刀で肩を叩く。 

 

「ただ、俺は修練の末———制御することに成功した。お陰で今は体外に出ても俺が変化させない限り普通の霊力と一緒だ」

「……ま、まさしく僕たちの天敵、ってわけだね……なら———」


 実は先程から、僕は話を合わせている様に見せかけて、こっそり袖から自らが作った術式の書いてある札に霊力を篭めていた。


 ありがとう、剣聖。

 君が話してくれたお陰で霊力を込める時間が確保できた!

 何としてもここで君を———殺すッッ!!


 僕は札を取り出し———発動。



「お遊びはここまでにしよう! ———【魑魅魍魎】!!」



 瞬間———僕の身体から膨大な霊力が消失。

 しかし同時に、僕の周りにドロドロの肉を纏った大量の異形が姿を表した。

 

「これは、僕の切り札さ! 僕が今まで溜めていた数百の魂に器を与え、僕の自由に動かせる! 更に一体一体が特級にも比肩する強さを持っているんだよ! さぁ、剣聖———君はどう対処する!?」


 僕は少し驚いた様に目を見開く剣聖に、笑みを浮かべながら両手を広げる。

 

 この時僕は———勝ちを確信していた。

 霊力は殆ど尽きたけど、何せ数百もの特級並の力を持った異形達がいる。

 幾ら剣聖が強いと言っても……流石にこの数相手には敵わないだろう、と思っていたからだ。


 しかし———剣聖はずっと変わらぬ余裕の笑みを浮かべた。



「そうだな———俺も手加減して遊ぶのはやめよう」



 その言葉に、僕の怒りが一瞬にして限界を迎える。

 

「あはははっ! そう笑って舐めた口を聞いていられるのも今の内さ! さぁ、やれ異形達! あの生者を食い尽くせ———ッッ!!」


 僕の命令と同時に、異形達が一斉に全方位から剣聖に襲い掛かる。

 異形達は笑みを浮かべた剣聖を一瞬にして呑み込み———高さ数十メートルにも及ぶ異形の山を形成した。


 ———訪れる静寂。

 辺りには、異形達が何かを食らう咀嚼音だけが響き渡る。

 そんな中、僕はあまりのあっけなさに肩透かしを食らっていた。


 な、何だ……終わったのか……?

 ふ、ふふっ……や、やっぱりハッタリだったんだね……。

 ま、まぁ流石の僕でも特級数百相手に戦えないし———




「———【魂白剣】」



 

 それは、一瞬の出来事だった。

 突然、異形の山から極光が溢れたかと思った瞬間。



 ———ズドォォォォォォォォッッ!!



 そんな轟音が鳴り響き、異形の山が吹き飛ばされた。

 同時に———極光に焼かれた異形が消滅。

 それも、一匹残らず全部。



 残ったのは———白銀に輝く一振りの長剣を握った剣聖だけだった。



 そんな有り得ない光景に僕はガクガクと身体を震わせ、同じく震える唇を動かす。 

 

「う、うそ……ぼ、僕の切り札が……」

「言ったろ? ———手加減して遊ぶのはやめるって」

「う、う……」

「う?」

「———う、うわぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!」


 い、嫌だ!!

 ま、まだ消えたくない!!

 僕はまだまだ強くなって人間の苦痛を見て楽しむんだ……ッッ!!


 そのために、僕は逃げる。

 しかし彼は、剣聖は———許してくれなかった。



「———何逃げてるんだお前は。あの世で、自らが殺した奴らに殺されてこい」



 剣聖が白銀の長剣を振るう。

 眩い閃光が煌めき、僕の視界を———。

 

 


 


 

 


「…………いつか俺がそっちに行った時、しっかり確認するからな」

 


—————————————————————————

 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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