第11話 0時に屋上に現れる神社①

 ———扉を開けると、別世界が目に飛び込んできた。


 様々な絵の具を混ぜた様などんよりと濁った夜空。

 ドス黒く染まった、高さ5メートルは裕に越える鳥居。

 屋上では有り得ない、砂利と石で出来た参道。

 その奥に鎮座する、腐って半壊した一軒家程の大きさの拝殿。

 本殿は見当たらない。


 そして———息が詰まる程の霧となって可視化した濃密な魔力と、それを垂れ流した1人の装束姿の顔の整った男の姿。


 

「良く来たね、命知らずの愚かな少年」

「初めまして、神様気取りの悪霊さん」



 装束姿の男は、爽やかな顔立ちに似合わぬ気持ちの悪い粘着質な笑みを浮かべてゆっくり立ち上がり、此方に歩いてくる。


「酷いなぁ……悪霊なんて。僕には、三条さんじょう悠真って名前があるんだけどな」

「まぁやってることは悪霊そのものだしな」


 俺はソレに対して余裕の笑みを浮かべたまま、男を観察する。


 身長は170後半、装束姿で分かりにくいが……首の太さや歩き方から細身で武術経験は無いと判断する。

 その代わりにレイを越える膨大な魔力量を持ちながら、恐ろしいレベルで魔力を完全に制御している。

 そのくせわざと魔力を垂れ流しているのを見るに……性格は腐ってそうだ。


 なるほどな……コイツが、レイの死ぬ原因となった悪霊か。

 まぁコイツなら納得だな。


「あー、1つ訊いていいか?」

「何でもどうぞ」

「———レイを消滅させなかった理由が知りたい」


 これは、俺がレイの話を聞いていてずっと気になっていたことだった。

 コイツからすれば、レイは邪魔以外何者でもない存在のはずだ。

 それなのに、わざわざ残しておいた意味が分からない。


「一体何を企んでんだ?」

「企んでるわけじゃないよ? ただその方が面白いからそうしているだけさ」


 肩をすくめて苦笑する悪霊改め三条。

 そこに一切の悪意・害意はなく、本気で面白いからレイを残したらしい。


「お前……見かけに寄らず馬鹿だな」

「あはは……否定はしないよ。でも……この状況で楽しそうにしてる君も、人の事を言えたもんじゃないよね」

「それもそうだ。お互い馬鹿で狂ってる」


 ただ。


「自分の快楽のために、人の命を無闇矢鱈に奪うのは違うんじゃねぇの?」


 面白いことがしたかったなら、他にもっと方法はあったはずだ。

 生贄として人の命を奪う必要はない。


「そこだけは賛同しかねるな」

「分かってない、分かってないよ君は」


 三条は気色の悪い笑みを浮かべたまま、腕を大きく広げる。


「僕達霊にとって人間は、何よりも極上な食材なんだよ! 人間を喰らえば霊力は爆発的に上がり、霊としての格も上がる!! 最も効率的だとは思わないかい!?」

「……まぁ効率だけ考えたらな。ただ、俺はそのやり方が———大嫌いだ」


 心臓の隣にある魔力を全身に流し、全身を強化。

 腰にさした木刀の柄を握り、魔力を篭めながら引き抜く。

 木刀が青白く輝き、刀身を伸ばした。


 戦闘体勢に入った俺を、三条が心底残念そうにため息を吐いた。


「君なら僕の考えが分かってくれると思ったんだけど……残念だ」

「俺もだ。お前がそこまで堕ちてなかったら殺さなくても済んだのに」


 その瞬間———三条の顔が歪む。

 辺りの魔力が一気に三条に吸い込まれ、彼を中心に渦巻く。



「———たかが十数年生きた程度の分際で思い上がるなッッ!!」

「思い上がりかどうか、確かめてみな」



 斬撃と雷撃が衝突した。











 ———一瞬の煌めきと共に、雷が迸る。

 一撃で象すら跡形もなく殺せる威力の篭ったソレは、俺目掛けて空間を駆ける。


 しかしこの程度ならば、造作も無い。


 俺は、全てが鈍化した視界の中で木刀を振るった。

 剣閃が瞬く。

 雷が傾けた刀身と触れ、雷が跳ね返る。

 跳ね返った雷は三条に牙を剥いた。


「———あははははは! いいね、君! 実にいいよ! 分体の時とは動きが違う!」

「そりゃどうも」


 跳ね返った雷を障壁で打ち消した三条が狂った様に嗤う。

 しかし直ぐに膨大な魔力が唸りを上げて、

様々な形に変わる。


 炎の虎、水の龍、風の鷹、地の巨人。

 4属性の化身が姿を表し、三条を護るように取り巻いた。


「これは、止められるかな!?」


 気色悪い笑みを顔に貼り付けた三条が俺へと手を翳す。

 同時。

 4体の化身達が一斉に襲い掛かる。


 まず来たのは、炎の虎。

 炎の虎は大きく口を開き、牙を剥いて飛び掛かってきた。


「ガァアアアアアア!!」

「おっと、危ない」


 俺は最小限の動きで躱す。

 更に躱しざまに左手に力を込め、瞬きの間に炎の虎を斬り刻む。

 

「今度はこっちの番だ」


 地を蹴る。

 参道の石が割れ、陥没。

 次の瞬間。


「よっ」


 爆発的な速度を持って水龍の懐に入る。

 しかし俺は更に地を蹴り、追い抜きざまに幾重にも斬り付ける。

 

 ———スパパパパパァァァァァン!!


 水龍の十数メートルもの身体が数百もの輪切りに変わり、霧散。

 しかし、一瞬動きを止めた俺に、空から風の鷹が風刃を生み出し、地から現れた巨人が剛腕を振りかぶり攻撃を仕掛けてきた。

 わざと隙を作った俺に。


「わざわざどうも」


 俺は僅かに足に篭めた魔力を増やして消えるかの如き速度でその場から跳躍し、巨人を無視して上空で羽ばたく鷹へと急接近。

 迫り来る風刃を全て斬り飛ばし、一太刀の下に風の鷹を両断。


 しかし———落下地点には剛腕を構えた岩で出来た巨人が待ち構えていた。

 その上、空中のため動きも制限される。 

 俺はそんな危機的状況に———更に笑みを深めた。

 

「いいな、楽しくなってきた……!」


 俺は木刀の柄を両手で握り、高速で落下する最中、重力に逆らって剣を振り上げる。

 巨人は咆哮を上げながら地を踏み締めて剛腕を構える。


「力比べといこうぜ、デカブツ!」

「ォォォォオオオオオオオ!!」


 俺は膨大な魔力を木刀に篭めながら渾身の力を持って———振り下ろす。

 巨人は迎え撃つ様に剛腕を振り抜く。 


 青白く輝く木刀と岩の剛腕が衝突。



 ———ドガァァアアアアアアアア!!



 鼓膜が破れる程の衝突音が炸裂。

 衝撃波が一瞬にして鳥居を吹き飛ばし、屋上に巨大なクレーターが生み出される。

 爆煙が巻き上がり、視界を遮断する。


 爆煙が晴れると———。



「ふぅ……」



 クレーターの中心で折れた木刀を眺める俺の姿が現れる。

 巨人の姿は跡形も無く消え、辺りが静寂に包まれた。

 

「……っ」


 一瞬の間にご自慢の化身全員を消し飛ばされたことに、流石の三条も顔を歪める。

 そんな姿に、俺は木刀の刀身を魔力で補いながら、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

 



「さぁ、まだまだ続けようか」

「こ、この餓鬼……」

 


 


—————————————————————————

 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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