第6話 勘違い(改)
「———つい昔の癖で殺しちまったな……流石にこの世界じゃ殺人はアウト中のアウトなんだが……」
俺は【魂白剣】を霧散させた後、頬をぽりぽりかきながら首の飛んだ死体となった男を見下す。
因みに牛鬼とか呼ばれてた化け物は何か煙になって消えた。
後始末しなくていいから助かるよ。
とは言え、別に殺したこと自体に後悔はない。
コイツからは何人もの人間を殺している気配がしたし、俺を誘き寄せた幽霊と同じ姿なのを見るに嫌にやり慣れている。
きっと常習犯だったはずだ。
こんな屑、生きていた方が害悪だろ。
「———って警察に言っても絶対信じてくれないだろうしなぁ……そもそも幽霊自体信じていなさそうだし」
寧ろそんなこと言ったら逆効果になりそうだよな……っと。
そうだ、良いこと思い付いちゃった。
「……埋めるか? やっぱり埋めるよな。もう埋めるしかないよな? 証拠隠滅、バレなきゃ犯罪じゃないって偉大な言葉があるくらいだしな。……いや無理か」
流石に素手で人1人埋められる程の大きな穴を掘れるとは思えない。
それは身体強化したとしても同様だ。
魔法はからっきしだしな。
俺は何か方法は無いものか……と辺りに視線を巡らせる。
しかし見渡せば見渡すほど、埋める以外の方法が浮かばなくなる。
もう埋めるか……と俺が素手で地面を掘ろうとしていたその時———。
「———【業火術】」
空から直径50センチ程の炎球が振ってきた。
俺は咄嗟に近くにあった枝を折って魔力を流し、炎球を上空へと跳ね返す。
———ドガアアアアアアン!!
「なっ、嘘っ!?」
「いや『なっ、嘘っ!?』じゃない! いきなり攻撃するとか卑怯だろ」
「ひ、卑怯ですって!? アンタみたいなクソ野郎に卑怯もクソもないわよ!! ———【業火風刃】!!」
女の声と共に、炎を纏った風の斬撃が降り注ぐ。
数はざっと15。
当たれば火達磨、よければ森林火災。
何方にしても大変な事態に発展すること間違いない。
はっ、俺に元々選択肢はないってことか……!
「チッ、誰と間違えてんのか知らないが……森で炎を使うなよアホが」
そう吐き捨てると同時。
俺は全身に魔力を流し、ノータイムで【身体強化】を発動。
———世界が減速する。
「よし……やるか」
地面を蹴る。
視界がブレ、眼前に炎の斬撃が現れる。
俺は、試しにソレに向けて魔力を籠めた木の棒を振るった。
———ガンッッ!!
生まれる衝撃。
確かな感触と共に上空に弾かれる炎の斬撃。
「う、嘘……っ!?」
よし、どうやら触れただけで爆発するとかじゃないみたいだな。
それなら余裕だ。
「ふッ———」
短い息を吐き、足に力を込める。
一瞬の溜めののち———爆発。
———ドンッッ!!
地を蹴る音がこだまする。
同時。
一瞬身体を支配する浮遊感。
視界が目まぐるしく変化する中、炎の斬撃を確実に上空へと跳ね返す。
跳ね返したら、次へ、また次へと。
縦横無尽に辺りを疾駆し、1つも取り零すことなく全て真上に跳ね返した。
そして———。
———ドガガガガァァァァァァン!!
跳ね返された炎の斬撃が続けざまに上空で連鎖爆発を引き起こす。
「キャァァァァァ!?!?」
上空で停滞していた女が悲鳴を上げて落ちる。
女は減速する気配も何かする気配もない。
……はぁ、仕方ねぇな。
俺は小さくため息を吐く。
タッ、と軽く地面をタップするように女目掛けて跳躍。
「おい、ジッとしてろよ」
「!?」
一瞬で数十メートル跳躍した俺を驚愕の瞳で見つめる女を包み込む様に横抱きしてキャッチすると、静かに着地する。
ふぅ……取り敢えず人がぐちゃぐちゃになるのは回避できたな。
ただ、俺は、いきなり攻撃してきたことに一言文句を言ってやろうとチラッと腕の中の女を見て———息を呑む。
透き通る黒い瞳。
姫カットの艶やかな漆黒の髪。
可愛いより綺麗と言った方が正しい恐ろしく整った顔立ちは、何処か日本人形の様な作り物の様に見えた。
そんな巫女服を着た美少女は何が何だか理解が追い付いていないらしく頻りに目を瞬かせ、俺を見ている。
……こんな美少女なんて聞いてないぞ。
剣聖も剣人も女性経験ほぼないせいで、急に攻撃する激ヤバ女相手にも結構緊張するんだが……。
な、情けないな、俺。
「……取り敢えず話し合わないか?」
「…………え……?」
俺は結局文句も言えなかった。
「———えぇっ!? 貴方、藤木総司じゃないの!? ご、ごめんなさい……た、確かに言われてみれば顔が違う……なら貴方は何者なの……?」
「朝山剣人だ。幽霊にまんまと誘き寄せられてここまで来た」
ぺこぺこ頭を下げる謎の巫女姿美少女は、俺の顔をジッと見て名前を聞いてくる。
俺は何とも情けない理由でここにいることに少し恥ずかしくなって頬に熱が籠る。
ただ気にしているのは俺だけらしく、謎の美少女は特に気にしている様子はなかった。
謎の美少女は頻りに辺りを見渡して首を傾げる。
「それなら本物の藤木総司は何処に……」
「あー……その藤木総司ってコイツ?」
俺は視線だけ首が飛んだ死体に向ける。
謎の美少女は俺の視線を追い……死体を見て目を見開いた。
「し、死体……でも首が……」
「首ならあっち。ごめん、襲われたから殺してしまった」
俺は10メートル程離れた場所に転がる痩せかけた青年の首を指差す。
すると謎の美少女は首を見た瞬間、更に目を見開いて呆然と呟いた。
「———う、嘘でしょ……? あの藤木総司が死んだ……? 連盟の退魔師を10人以上殺した特級指名手配犯が……?」
俺は、逃げることにした。
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
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