第5話 力の再確認(途中から敵side)

「———なるほどな……確かに生まれ変わった気分だ」


 完全にもう1人の俺である剣聖と融合した俺は、軽く手をグーパーグーパーさせる。

 

 ……よし、ちゃんと剣人の記憶も剣聖の記憶もあるし、意識もはっきりしているな。

 人格のベースは俺か……と言うか、今の俺って何か某格闘漫画の緑色の宇宙人みたいだな。


 そんなことを考えていると……牛の頭に蜘蛛の身体の化け物が再び迫って来ていた。

 しかし、先程とは違う点が1つ。



「———遅いな……」



 そう、化け物の動きについてだ。

 先程まで瞬間移動の様に速いと感じた化け物の動きが、今ではちゃんと目で追える。


 これが剣聖が見ていた世界。

 剣人にとっては初めての光景のはずなのに、まるで元々こう見えていたかの様に違和感がない。

 これも人格が混ざった影響か。

 

 俺はひょいっと木の棒を拾い上げると、手慣れた要領で魔力を流し込み———硬質化。

 あっという間に鉄より遥かに硬い木の棒の完成した。


「これも当たり前の様に出来る、か。さてさて……それなら身体能力はどうかな」

 

 取り敢えず……【身体強化】は発動させずに動いてみるとするか。

 まぁ大体の結果は分かるが。


 俺は軽く地面を蹴る。

 すると———僅か数歩で数十メートル離れていたはずの化け物の目の前に移動出来た。


 時間にして、1秒未満。

 ほんの僅かに化け物より遅い程度だった。


 ま、こんなもんか。

 この身体、大して鍛えてないしな。


「よし、確認終わり。お前は一旦遠くに言ってもらって……っと」

「ゴォオオオ!?!?」


 俺は化け物の顔面を蹴り飛ばす。

 大分身体能力が上がったお陰か、少し【身体強化】を発動しただけで7、8メートルもある巨体が軽々と吹き飛んだ。


「おー、よく飛ぶなぁ。ところで———そろそろ出て来たらどうだ?」

「っ!?」


 俺はキッと遠くを睨む。

 そしてずっと前から離れた木の上で俺を監視していた何者かに、敢えて当たらない様に木の棒を投げた。











 ———な、何なんだコイツは……。


 私———藤木総司ふじきそうじは、すぐ横に刺さった木の棒を投げた張本人でありターゲットでもある黒髮黒目の少年に驚愕に目を見開きながら視線を向けた。


「おーい、良い加減出てこいよ! 出てこないなら俺から行くが?」

「……どうやって私に気付いた?」

「うーん……殺気? あと魔力も隠す気ないらしいし……ふっ、色々とお粗末だな」


 こ、このクソガキ……ッッ!!


 鼻で笑ってくるガキを、私は霊力を籠めて睨む。

 しかしガキは涼しい顔で受け流していた。


「一体貴様は何者なんだ……」

「何者? うーん……何者か、ねぇ……」


 チャンスだ!


 私は腕を組んで考え込むガキの姿に喜悦を浮かべる。


 そもそも私の目的は、膨大な霊力を持った人間を牛鬼ぎゅうきに喰らわることにある。

 契約妖怪である牛鬼が強くなれば、私も比例して強くなるからだ。


 その方法も実に簡単だ。

 狙うのは霊力の高い18歳未満で、まず、私の霊体でターゲットを誘導。

 霊力の高い者は元々霊が見えているせいで警戒心が薄く、呆気なく着いて来る。

 そして人里離れた場所に誘導したのち、牛鬼に食べさせる。

 

 その方法で今まで何十人もの人間を牛鬼に喰らわせ、時には退魔連盟の刺客をも殺して喰わせてきた。

 既に牛鬼の力は、元の中級上位から特級怪奇にも迫る程にまで成長している。


 そんな牛鬼を相手できる人間など殆どいない。



 ———そのはずなのに……。



「おいおい今人が考えてんだろ? せめて何か言うまで待ってくれよ」

 

 あ、あり得ない。

 そんなこと、あって良いはずがない……!

 

 私が嗾けた牛鬼の前足を素手で受け止めるガキの姿に、私は狼狽する。


 ぎゅ、牛鬼の前足は鉄でも容易く切り裂く切れ味があるんだぞ……!?

 それなのに何故素手で……それも先程まで目を閉じていたはずなのに……!!


「き、貴様は一体何者なんだッッ!?」

「だからそれを今考えてんだろうが。話聞けよアンタ……まぁでもそうだな」


 ガキが突然、私に向けて手を翳した。

 何をするのかと身構えた瞬間。






「来い———【魂白剣】」







 いつの間にか。

 目を離していないはずなのに、突如ガキの翳した手に一振りのロングソードが現れた。

 

 白銀に輝く剣。

 神具に匹敵する膨大な霊力を包容した剣。

 恐ろしいまでに美しい剣。


 特別な意匠は凝らされていない。

 ただ、何処までも真っ直ぐな剣だった。


 ガキはそんな恐ろしい程の力を持った剣の刀身を懐かしむ様に撫で、話し掛ける。


「久し振りだな……また会えるとは思ってなかったぞ」

「な、何だそれは!? その膨大な霊力の篭った剣は何なんだ!? 知らない! そんな強大な力を持った神具は見たことない!!」

 

 もはや私の中にあのガキを喰らうという選択肢は無くなっていた。

 あるのは———恐怖、畏怖、焦燥。


 い、今すぐに逃げなければ……!!

 直ぐに奴の見えないところまで逃げなければ……!!

 そうしないと———。

 



 ———殺される……!!




 そこからの行動は早かった。


「ぎゅ、牛鬼!! 奴を止めろ!! 私が逃げる時間を稼げ!!」

「ゴォオオオオオオオオオ!!」


 私は牛鬼に命令しえあの化け物の足止めをさせると……一目散に逃げ出す。

 脇目も振らずにあの化け物と真反対に向かって走る。


 牛鬼は此処で死ぬだろうが……私の命が無事であればまた復活させることは出来る! 

 今はとにかくあの化け物から逃げ仰ることが先決だ!!


 しかし———あの化け物は、異常だった。


 私がチラッと牛鬼の様子を見ようと振り返った瞬間。

 


 キラッと閃光が煌めいた。

 刹那の間に数え切れぬ程の閃光が。



 ———スパァァァァァァンッッ!! 


 閃光から少し遅れて空気を斬り裂く音が響き渡る。

 同時。

 牛鬼が不自然に動きを止める。

 

「ま、こんなもんかな」


 化け物が納得した様子で頷いた。

 その次の瞬間。


 ———牛鬼の身体が数千、数万ものサイコロ状に斬り刻まれる。


「ひっっっっ!?!? ———うわっ!?」


 全身が恐怖で粟立つ感覚に支配される。

 足がもつれ、地面に倒れる。


 ば、馬鹿な……ッッ!! 

 い、一瞬で牛鬼が殺られた!?

 特級……特級だぞ……!?

 人間の力を超越した存在だぞ!?


 感情が現実を否定する。

 あまりにもあり得ない現実を。


 下級、中級、上級までが人間の対処出来る怪奇のレベル。

 特級は退魔連盟の中でもトップ層の者が命懸けで戦ってやっと勝てるレベル。 

 日本最強ですら10分は掛かるはず。


 そんな特級に限り無く近いはずの牛鬼が一瞬で殺された。

 再生できない様小さくバラバラに。

 ボトボトと牛鬼だったモノが地面に落ち、藍色の煙となって消滅する。


「さて……次はアンタだな」

「ま、待っ———」


 私は、いつの間にか目の前にいた化け物の瞳を見た。



 ———無機質、無関心。



 その瞳は私を映している様で微塵も映していない。

 所詮、私はこの化け物にとってその程度の存在だったと言うことだ。



「じゃあな、外道」



 ———ザンッ。


 化け物の声と共に、私の視界が上を向く。

 最後の最後で気付いた。



 ———首を刎ねられたのだ、と。



—————————————————————————

 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

 モチベで執筆スピード変わるので、続きが読みたいと思って下さったら、是非☆☆☆とフォロー宜しくお願いします! 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る