第2話
「……何もないな」
便器の周囲を調べてみたが何も変化はなかった。その事に男は落胆する。
「…息苦しい」
風呂場の空調は劣悪な状況だ。換気扇も回転していない。淀んだ空気に緊張状態が続く。男の疲労感はピークに達しようとしていた。
「…残された選択肢は1つか」
男は覚悟を決め、濁った便器内の水へと手を突っ込んだ。
「…おえっ……」
吐き気を堪えつつ指先の神経へと意識を集中させる。
(気持ち悪ぃ…)
感じた感触は何かヌメヌメした汚れのものだけだった。これ以上の収穫は無いと男は判断し腕を引き抜く。
「クソが…!!」
汚れた両手を流水で洗い流す。
「もう調べる場所なんてねえぞ…!!」
男が浴室の壁を蹴り始める。衝撃で棚に設置されていた容器が便器のタンク上へと落下した。
「…っ!?」
「まさか…!?」
男が慌てて便器の後ろ側へと目を向ける。
(確か…タンク式の場合は蓋を開けられるはずだよな……)
「…空いた」
やや重めのタンクの蓋を外すと、その内部では小さなビニール袋が浮いていた。
「これは……」
タンク内部から袋を取り出し、慎重に中身を空ける。そこには再びメモ用紙が入れられていた。
<どんなに汚れを洗い流そうと消えないモノはある。先に進め。「44」>
「…どういう意味だ?」
男にはさっぱり意味など分からない。理解できた事は1つ。最後の二桁の数字だけだ。
「44。これが答えだ」
男がロックされたドアの前へと戻る。
(左に4回…右に4回……)
数字が44の手前になる直前に男の手が止まる。
「……失敗だったらどうなるんだ?」
どれだけ思考しようともその問いに答えは出ない。男に残された選択肢は2つしかないのだ。このままここで餓死するか、前に進むか。
「前に進むんだ。前へ……」
男が震えながらもノブを回転させる。数字を44に合わせ、真ん中のボタンを押す。ピーという機械音と共にドアのロックは解除された。
「…やった!」
男がドアを勢いよく開け放ち外へと飛び出す。
「……あ」
男の興奮は一瞬で沈下した。
「…白い部屋?」
浴室から出たその先に広がる光景。それは窮屈な六畳程の空間だった。壁紙やフローリングなどは貼られておらずコンクリートは剝き出しの状態だ。1つだけある窓には鉄格子が嵌め込まれ、出口と思われる正面のドアは巨大な鎖で施錠されていた。
「……なんだよ…これ…」
男ががっくりと床へと腰を落とす。
「……わけわかんねえ」
男はしばらくその場で頭を抱えていた。悩み苦しんだところで状況は1ミリも変わらない。その事を受け入れるのに約5分の時間が男には必要だった。
「……進まないと」
男が疲労感に崩れそうな体を無理やり動かし立ち上がる。そして白い室内の散策を始めた。
ホワイト・ルーム 骨肉パワー @torikawa999
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