ホワイト・ルーム

骨肉パワー

第1話

「……なんだ?」


 男の困惑した声が狭い室内に響き渡る。


「…どこだよ?ここは……」


 男の前には白い壁があった。ぼんやりとそれを見つめている内に男は気が付く。自分がどこに嵌っているのかを。


「…浴槽?」


 男が両腕を外に出し体を持ち上げる。狭いスペースに無理やりトイレを配置したかのような極小のスペース。棚には洗顔類が綺麗に配置されていた。


「ユニットバスか…?」


(おかしい。俺の住んでる部屋はトイレと風呂は別だ。となるとここは何処なんだ?)


 男がふらふらとした足取りで風呂場から外に出ようとする。ドアの取っ手を引っ張るがびくともしない。


「何だよ…おい!!」


 押せど叩けどドアは動かない。同じ行動を4回ほど繰り返そうとしたとき、男はドアの取っ手に二桁の番号が表示されている事に気が付く。


「…何だよ…これ?」


 そしてよくよくドアを観察してみると、小さなメモ書きが貼り付けられている事に男は気が付いた。


<上を見ろ>


「…上?」


 男が天井の方向へと顔を動かす。薄暗い電球の横には再びメモ書きが貼り付けられていた。


<ノブを左に捻る。左端の数字が1つ上昇>


<ノブを右に捻る。右端の数字が1つ上昇>


<真ん中のボタンを押す。それが正解ならばドアは空く>


「…ふざけやがって」


 この段階でようやく男は確信した。自身が何か、質の悪いゲームに巻き込まれてしまったという事を。


(ドアは施錠されて開かない。壁も恐らくコンクリートで固められてる。ここから出るには答えを知るしかない)


「……」


 男がユニットバス内を調べ始める。


(シャンプーにボディーソープ。特に変わりはないが…)


 男がシャンプーを手に取る。するとある違和感に気が付いた。容器が軽すぎるのだ。


「まさか…」


 男がシャンプーの蓋を開け中身を確認する。するとそこにはメモ用紙が折りたたまれていた。


<汚れた先に希望はある>


「……どういう意味だ?」


 続けてボディーソープの中身も男は確認するが、そこには何も入っていなかった。


「次だ…」


 男が正面に設置された鏡を確認する。そこにはひどくやつれた血色の悪い男の顔が映されていた。念のために鏡の裏側も確認するが異常はなかった。


(…ただの鏡だな)


 下に設置された蛇口を男が捻る。水がゆっくりと洗面台へと流れだした。


「あ…助かる……」


 男が冷たい水を両手で掬い飲み干す。そのまま汗ばんだ顔を洗い流し始めた。


「…ふぅ」


 男が少しだけ冷静さを取り戻す。


(浴槽には何もない…となると)


「残された場所は、トイレか……」


 汚れた先に希望はある。男はその言葉を頼りにトイレを調べ始めた。

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