第5話

香織と涼介は、地下への扉の前に立っていた。李香蓮が持つ小さな鍵が、その扉を開く唯一の鍵だった。涼介が李に「お願いできますか?」と促すと、李は深く頷いて鍵を差し込んだ。


鍵が回る音が静寂の中に響き、重厚な扉がゆっくりと開かれた。涼介が懐中電灯を照らすと、古びた階段が地下へと続いているのが見えた。


「行きましょう」と香織が静かに言い、先頭に立って階段を下り始めた。涼介と李も後に続く。


地下室はひんやりとした空気が漂い、古びた書棚や木箱が並んでいた。涼介が書棚を調べると、古い手帳や書類が積み重なっているのを見つけた。


「これを見て」と涼介が手に取った手帳を広げると、中には祖母の手書きのレシピが綴られていた。その中には、秘伝のレシピだけでなく、家族の歴史や料理への思いが詰まっていた。


「これが…祖母の秘密のレシピです」李香蓮の目に涙が浮かんだ。「こんなに大切なものをずっと隠していたなんて」


香織は手帳を丁寧に読みながら、「このレシピは、ただの料理法だけではなく、家族の歴史そのものね。これを守るために、張さんはあんなことを…」と呟いた。


その時、涼介が木箱の中から古びた写真を見つけた。「これを見て、香織。この写真に写っているのは…」


写真には、若かりし頃の李の祖母と、彼女の親しい友人たちが写っていた。その中に、張健一の祖母もいたのだ。彼らはかつて、この店を共に築き上げた仲間だったのだろう。


「彼らは、共にこの店を支えてきたんだわ」と香織が言った。「そして、その思いを受け継ぐために、張さんは祖母のレシピを手に入れたかったのね」


その瞬間、背後から誰かの足音が聞こえてきた。香織と涼介は振り返り、影の中に立つ張健一の姿を見た。


「全てを話します」と張は静かに言った。「祖母たちの思いを守るために、私はこのレシピを手に入れたかった。それが店の未来を支える唯一の方法だと思っていました」


香織は張の言葉に耳を傾けながら、「でも、盗むことではなく、協力することで守るべきだったのではないですか?」と問いかけた。


張は深くうなだれ、「その通りです。私は焦りすぎて、正しい道を見失っていました」と言った。


李香蓮は、張に近づき手を差し伸べた。「一緒に店を守りましょう。祖母たちの思いを引き継ぎ、未来へと繋げるために」


張はその手を取り、深く頭を下げた。「ありがとう、香蓮さん。これからは共に歩んでいきます」


香織と涼介は、二人の和解を見届けながら、静かに頷いた。地下に眠る秘密が明らかになり、全ての謎が解けたのだ。


事件が解決し、レシピノートも無事に戻された。龍王飯店は再び賑わいを取り戻し、店は新たなスタートを切った。


香織と涼介は、事件解決を祝して再び龍王炒飯を楽しんだ。長崎中華街の美しい夜景を眺めながら、彼らは次の冒険に思いを馳せた。


「今回も見事に解決したね、香織」と涼介が微笑んだ。


「ええ、次はどこへ行きましょうか?」香織が笑顔で答えた。


二人の旅は続き、新たな謎が待ち受けている。しかし、彼らはどんな困難にも立ち向かい、真実を見つけ出すだろう。


そして、龍王飯店のレシピは、これからも変わらぬ味と共に、多くの人々に愛され続けるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る