第4話
厨房の電灯が突然消え、店内は一瞬にして暗闇に包まれた。香織と涼介は視界を奪われ、周囲の状況を把握することができないまま、緊張が高まる。
「香織、気をつけて!」涼介が警戒の声を上げた。その瞬間、背後から何者かの気配が近づいてくるのを感じた。
「誰だ!」涼介が叫んだが、返事はなかった。香織は身構え、暗闇の中で聞こえる微かな足音に集中した。その音は、不規則でありながらも明確に彼らに迫ってきていた。
「美玲さん、大丈夫ですか?」香織は田中美玲の所在を確認しようとしたが、彼女の返答はなかった。不安が胸を締め付ける。
その時、急に厨房の電灯が再び点灯し、周囲が明るくなった。涼介が素早く周囲を見渡すと、厨房の扉付近に立っていた人物が目に入った。張健一が冷たい表情で彼らを見つめていた。
「張さん、あなたが…」香織が驚きの声を上げる前に、張は冷静な声で言った。「ここまでたどり着いたのですね。でも、まだ全てが明らかになっているわけではありません」
涼介は張の動きを注視しながら、問いかけた。
「あなたが田中さんに指示してレシピを盗ませたのですか?」
張は静かに頷いた。
「確かに私が彼女に指示しました。でも、それは全ての真実ではありません。私にも理由があったのです」
「その理由とは?」香織はさらに問い詰めた。
張は深いため息をつき、語り始めた。「龍王飯店の成功は私たち全員の努力の賜物です。しかし、近年、店の経営方針を巡って李香蓮と対立することが多くなりました。店の将来を考えると、どうしても必要な措置だと思ったのです」
「それで、レシピを盗むことが必要だと思ったのですか?」涼介の声には怒りが滲んでいた。
張は顔を曇らせながら答えた。
「レシピを盗んで改良し、新たなメニューを開発することで店の評判を維持しようと考えました。しかし、田中美玲がレシピを盗むことに躊躇し、結果的に事態がここまで複雑になってしまったのです」
香織は張の言葉を聞きながらも、まだ何かが腑に落ちない感じがした。「でも、それだけが全ての理由ではないはずです。あなたは何か他に隠しているのではないですか?」
その瞬間、再び厨房のドアが開き、李香蓮が入ってきた。彼女の顔には決意が宿っていた。「張さん、もう全てを話してください」
張はしばらく黙った後、重い口を開いた。「実は、私は龍王飯店のオーナーとして、私の祖母が遺したもう一つのレシピがあることを知っています。それはこの店の成功の鍵となるものであり、ずっと秘密にされてきました」
李香蓮は驚きを隠せず、目を見開いた。「そんな…私にはそのレシピのことは何も聞かされていませんでした」
「私も同じです。しかし、そのレシピの存在を知った時から、どうしても手に入れたいと思っていました。そのためにあらゆる手段を尽くしましたが、結果として店の信頼を損ねてしまいました」
香織と涼介は、張の言葉に真実の一端を見た。だが、その裏にまだ隠された謎があることを感じ取った。
「張さん、そのレシピはどこにあるのですか?」涼介が慎重に尋ねた。
張は目を閉じ、深く息を吸い込んだ。「そのレシピは…私の祖母がこの店の地下に隠したと言われています。しかし、その場所を知るのは唯一、ある鍵を持っている者だけです」
その瞬間、李香蓮がポケットから小さな鍵を取り出した。「これがその鍵ですか?」
張は驚きの表情を浮かべ、頷いた。「そうです。その鍵があれば、祖母の秘密を解き明かすことができるでしょう」
次の瞬間、香織と涼介は、長崎中華街の地下に隠された秘密の扉の前に立っていた。彼らの前には、まだ解き明かされていない数々の謎が待ち受けていた。そして、その扉の向こうに何が隠されているのか、二人は息を呑んでその行方を見守った。
扉が開かれた時、彼らが目にする真実とは一体何なのか――。
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