第2話
李香蓮は、震える手で破れたレシピノートの残骸を抱えていた。その目は悲しみに満ち、声はかすかに震えていた。「このレシピは、祖母から母へ、そして私に受け継がれてきたものです。これがなければ、店の命が失われてしまいます」
香織は、李の肩に手を置いて優しく言った。「大丈夫です、私たちが必ず取り戻します」
涼介は周囲を見回し、事件の手がかりを探し始めた。「まずは、誰がレシピノートを盗んだのかを突き止める必要があります。防犯カメラの映像を確認できますか?」
李は頷き、店の奥にある防犯カメラのモニターを操作した。香織と涼介は、その映像をじっと見つめた。不審な影が厨房に忍び込む瞬間が映し出される。影はフードを深く被っており、顔は全く見えない。
「この人物がレシピノートを盗んだ犯人に違いありませんね」と涼介は言った。
香織は画面に映る影を凝視し、何かを考え込むように言った。「動き方や体格からして、おそらく店内の誰かが犯人でしょう。全く見知らぬ人物がこれほど簡単に忍び込むのは難しいはずです」
李香蓮は、その言葉にうなずきながらも不安そうな表情を浮かべた。「でも、店の従業員たちは皆信頼している人ばかりです。そんなことをするなんて考えられません」
涼介は李の言葉を聞きながら、さらに詳細な調査を始めることを決意した。「まずは、事件の当夜に店内にいた全ての従業員に話を聞きましょう」
香織と涼介は、一人ひとり従業員に話を聞き始めた。最初に話をしたのは、長年勤めているベテランの料理人、山田達也だった。彼は冷静で真面目な性格で、店のことを大切に思っているようだった。
「山田さん、事件の夜はどこにいましたか?」香織が問いかけると、山田は落ち着いた声で答えた。
「私は夜の片付けを終えた後、自宅に戻りました。その時間帯に店にいたのは、新人の田中美玲さんです。彼女が最後に店を出たはずです」
次に話を聞いたのは、新人の田中美玲だった。彼女は少し緊張しながらも、真剣な表情で香織たちに応じた。
「田中さん、事件の夜はどこにいましたか?」涼介が尋ねると、田中は少し戸惑いながら答えた。
「私は片付けが終わった後、少し残って次の日の準備をしていました。店を出たのはかなり遅い時間でしたが、その時は特に異変には気づきませんでした」
香織は田中の証言を聞きながら、何か引っかかるものを感じた。彼女の言葉には嘘はなさそうだが、何かを隠しているようにも思えた。
「最後に、もう一人の従業員、木村勇人さんにも話を聞きましょう」と涼介は提案した。
木村は、少し不機嫌そうに彼らに応じた。彼は長崎中華街の影響力を持つ人物であり、店のことを誰よりも知っていると自負していた。
「木村さん、事件の夜はどこにいましたか?」香織が問いかけると、木村は冷たく答えた。
「私はその夜、友人と一緒に飲みに行っていました。店のことは全く知らない」
香織と涼介は、全ての証言を整理しながら次の一手を考えた。それぞれの証言には一貫性があり、犯人を特定するのは難しい。しかし、香織は直感的に何かが見落とされていると感じた。
「香織、何か思いついたかい?」涼介が尋ねると、香織は静かに頷いた。
「まだはっきりとは言えないけれど、もう一度現場を詳しく調べてみましょう。何か重要な手がかりが隠されているかもしれない」
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