【完結】港町事件簿 旅先編 グルメ殺人事件簿 ①

湊 マチ

第1話

長崎の風が心地よく頬を撫でる。香織は、石畳の道を歩きながらその清々しさを楽しんでいた。涼介と共に観光に訪れたこの街には、歴史と文化が交錯する独特の魅力があった。特に、長崎中華街はその象徴ともいえる場所だ。


「さて、どこに行く。」

涼介が隣で笑顔を浮かべながら尋ねる。彼の声にはいつも通りの穏やかさが感じられる。


「まずは中華街ね。あそこの『龍王飯店』の炒飯は絶品だって聞いたわ」と香織は答える。彼女の声には期待感が漂っていた。


龍王飯店は、中華街の一角にある老舗の中華料理店で、長年地元の人々に愛されてきた。その特製炒飯「龍王炒飯」は、特別な秘伝のレシピによって作られており、多くの観光客がその味を求めて訪れる。香織と涼介もその一人だった。


二人は、賑わう通りを歩きながら、色とりどりの提灯が飾られた店先を眺める。異国情緒あふれる風景に心を奪われつつ、彼らは龍王飯店の暖簾をくぐった。


店内は昔ながらの雰囲気を残し、どこか懐かしさを感じさせる。香り立つ料理の匂いが二人を包み込み、彼らの食欲をそそる。


「いらっしゃいませ」と店主の李香蓮が迎え入れる。彼女の笑顔は温かく、まるで久しぶりに訪れた家族を迎えるようだった。


しかし、その笑顔の奥にはどこか影が差していた。香織はすぐにそれを感じ取り、不安を覚えた。彼女は直感的に、この店で何かが起こっていることを察知した。


注文を終え、二人が料理を待っている間、店の奥から騒がしい声が聞こえてきた。李香蓮が慌てた様子で厨房へ駆け込む。その姿を見て、香織と涼介は顔を見合わせた。


「何かあったみたいだな」

と涼介が低い声で言った。


香織は頷き、「ちょっと見てみましょう」と立ち上がった。彼女の探偵としての本能が目覚めるのを感じながら、二人は静かに厨房へ向かった。


そこで彼らが目にしたのは、破れたレシピノートと、涙を流す李香蓮の姿だった。店の秘伝のレシピが何者かによって盗まれ、混乱の中で一部が破られてしまったというのだ。


「どうしてこんなことに…」

李香蓮の言葉は震えていた。


香織は彼女の肩に手を置き、静かに言った。

「大丈夫です。私たちが何とかします」


この瞬間から、香織と涼介の新たな調査が始まった。長崎中華街に隠された謎を解き明かすために、彼らは一歩一歩真実に迫って行く。

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