第25話 新たな依頼


「どれから食べようかな」


丸一個ずつ食べると全部の

種類は食べられないな。


「その⋯半分こして食べてもいいかしら?」

「うん!丁度そう思ってた」


メロンパンの中央を掴み、

左右に引っ張ると簡単に割れた。


「ふわふわだ」

「ええ、本当に美味しそう」


言葉通り霊美ちゃんが

美味しそうな目でパンを見る。


「⋯はい、あーん」

「え」

「あーん」

「あ、あー⋯あむ」


そしてパンを噛みちぎる。


「ん〜」


美味しそうに食べる

霊美ちゃんにそっとパンを渡す。

そして自分も食べる。


「ん!」


美味い。

砂糖とクッキー生地でザクザクした食感と、

それをくどくさせない中の柔らかい食感が、

いい感じにメロンパン。


「美味しいね、これ」

「ええ」


あっという間に食べ終わってしまった。


「次は⋯」

「これなんてどうかしら」


アップルパイに指さす。


「割れるかな⋯」

「なら、先に半分ほど食べてちょうだい、

私は別のパンを半分食べるから」

「分かった、そうしよう」


霊美ちゃんはこれもまた割りにくそうな

ピロシキを手に取った。

二人同時に食べる。

めちゃくちゃ美味い。

パリパリと子気味いいパイ生地と

甘いリンゴが非常にアップルパイ。

美味しいから半分と言わず、

六割くらい霊美ちゃんのために残しておこう。


「食べたよ」

「私も」


アップルパイとピロシキを交換する。

心做しか、ピロシキが縦半分ではなく、

楕円を描いているような気がする。

とりあえずひと口。


「!」


美味い。

旨みがすごい。

今までで食べたピロシキの具の中で

一番美味いかも。

楕円形で残してくれたってことは、

少しでも具を多く渡そうと

してくれてたってことか。

霊美ちゃんを見る。

目が合う。

キスがしたくなる。

でもすぐにキスができる距離感では無いので、

口寂しさを紛らわすためにピロシキを食べた。

美味い。

すぐに食べ終わり、

その後もクロワッサンやカレーパンを分け合う。

そして最後に残ったのは。


「こうみると⋯少し大きわね」

「うん⋯」


腹五分目辺りに丸一人分の

ボリューミーなカツサンド。

入るかどうか急に不安になってきた。

しばし霊美ちゃんと見合い、満を持して一齧り。


『ジャクッ』

「ッ!」


表面を焼いたパンを割り、

歯ごたえのある衣を破った先の肉汁と肉感。

噛めば噛むほど

それぞれの美味さが調和していく。

飲み込んだと同時に、胃が拡張する感覚がする。

別腹が発動する瞬間を、初めて体感した。


「霊美ちゃん⋯」

「ええ⋯」

『ガブッ』


昼からのフラストレーションと、

それを最大限報わせるカツサンドによって、

手と咀嚼が止まらない。

感想も言葉も交わさず、ただ貪る。

二切れだったそれらはあっという間に

一切れになり、

そして瞬きをした次の瞬間には、

その一切れもなくなっていた。

誰かがとったんじゃないかと

思うほどにすんなり消え、

気づけば飲み込んでいた。


「⋯はっ!」


数秒経って、食べ終わったことに気づいた。


「無くなっちゃった⋯」

「おかしいわ⋯確かにここにあったはずなのに、

味の感想を言う前に消えてしまった⋯」

「でも⋯確かな満足感がお腹にある」

「ええ、本当に食べたのね」


カツサンドの味よりも、

不思議な現象について語り合ってしまっている。

目の前には空のプレート。


「ご⋯ごちそうさま」

「ご馳走様でした」


呆気に取られて、無意識にスマホを見た。


「⋯あ!」


DMに連絡が来ている。

それも除霊相談所すみれいの方。


「霊美ちゃん!依頼来てる!」

「本当に!?」


体を乗り上げてお互いスマホを見る。

そこには確かに、

丁寧な文面と依頼内容が書かれていた。



突然のDM失礼します

お気軽にご相談できるという銘文を見て、

相談をしたく連絡させていただきました

相談の日時は、

今週来週再来週の日曜日を考えております

相談する場所は、

依頼する場所の近くを考えております

返信が届いた際に追って詳細をお伝え致します

どうか宜しくお願いします



「どうする?」

「うーん、

直近の日曜日は急過ぎるかもしれないから、

来週か再来週の日曜日になるかしら」

「そうじゃなくて、

依頼を受けるか受けないかとか、

返信するとかしないとかだよ」


受ける気満々だった霊美ちゃん優しい。


「あ、そうだったの、


その⋯受けてもいいかしら?」

「うん!日時はどうする?」

「そうね⋯場所を把握してからにしましょうか」

「分かった」


DMの返信を練る。



DMありがとうございます!

こちらとしましては、

このご依頼既に前向きに検討しております

相談場所を把握してから日時を決めたいので、

そちらの方のご検討を先によろしくお願いします

日時としましては、

来週再来週の日曜日が好ましいです

返信お待ちしています!



「返信したよ」

「今度の依頼はどんなものになるのでしょうね」

「サクッとしたのがいいな⋯

前みたいなのは怖いし。

まあ必殺技があれば大抵何とかなりそうだけど」

「衆目に晒されるのは、少し勘弁願いたいわね」

「それはそう」


テーブルに散らばった包装をまとめる。


「行こっか」

「ええ」


その日は依頼のための準備で、

お互い駅で解散となった。


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