第23話 除霊相談所すみれい本格始動
「こんにちは」
「こんにちは」
駅まで迎えに来た。
今日はお家デートの約束。
「その服…」
「ええ、先日買ったものを着てきたの」
タイトなジーンズに淡い水色のシャツの、
カジュアルなやつ。
「うーん、やっぱり似合ってるね」
「ふふ、ありがとう。行きましょうか」
「うん」
『ギュ』
「すみれさん」
「うーん?」
「へっへっへっ」
「昨日みたいに、
沢山の除霊をしていきたいと思うの」
「うん」
「それで、
ホームページを作ってみたいと思うのだけれど」
「あーね」
どうやらもう本格始動するみたいだ。
「私もホームページ作ったことはないから、
一緒にやってこっか」
「ええ」
忙しくなるのでチップを一階に誘導する。
「クーン」
寂しげな声を耐え忍んで締め出す。
「彼には申し訳ないことをしたわね」
「あ、メスだよ」
「そうだったの」
「うん、で…どうやって作ろうか」
「一通り調べてみて、
どうやら簡単に作れるサイトがあるみたいね」
「ならそれやってみよっか」
「ええ」
一緒に霊美ちゃんのスマホを覗く。
顔が近くてドキドキする。
「背景やフォントも詳細に設定できるのね…
結構やりごたえがあるわ」
「霊美ちゃんのお家って
ホームページ作ったりしてるのかな」
「…見てみるわ」
祓除、除霊で調べると一番上に出てきた。
中身は以外にも、
白を基調とした法律相談所的な雰囲気で、
おどろおどろしさを
掻き立てるような装飾は無い。
ビジネス、というように見える。
「あまり…参考にならないわね、
実績を過去に積み重ねた上での、
自信ありきのホームページに見えるわ」
「そんな感じする」
「だからといってありがちなホームページだと、
埋もれてしまうわ」
「うーん…」
流されていくホームページを観察する。
「一律何円とかにするのは?」
「なるほど…でもそれだと
手に負えない依頼が舞い込んできそうね」
「それは確かに…」
「このモデルを参考にするしかなさそうね」
依頼料は最低五万から、
そこから依頼人の言い値か応相談。
霊媒師を指名することができるが、
別途で指名料がかかる。
探偵とキャバクラが
合わさっているようないないような。
「そうね…一応一律五万円にしましょう、
ふっかけられることもないでしょうし」
「強そうな幽霊の依頼が来たら?」
「私たちの必殺技で対応できそうなものは
私達で済ませて、
事前調査で無理そうと判断したら
本家にでも報告するわ」
「許してくれるのかな」
「私が依頼する形にするわ」
「お金入らなくない?」
「紹介料で家に請求するわ、
それか報酬金を割増する、
事前にホームページに書いておきましょう」
どんどんと情報が足され、完成されていく。
夏のホラー特番の
ホームページみたいにはなったが、
それなりの形にはなった。
「名前は何にしようかしら」
「お家の名前使ったらダメなんだっけ」
「ええ、だから下の名前を使うことになりそうね、
出来れば二人の」
「となるとすみれと霊美だから…」
「すみれい?」
「ふふ、いいね、それでいこう」
「除霊相談所すみれいっと」
「できた」
自分の名前が入るだけで、少し嬉しくなる。
「これを窓口の一つとして置いておいて、
基本的に私が営業をかけて仕事を探すわ」
「営業ってどんなことするの?」
「有志で事故物件や心霊スポットを
掲載してるサイトがあるから、
それをたどって土地の持ち主や
管理人に連絡するわね、
網羅的だから時間がかかるのが玉に瑕だけど」
「SNSとかでもやってる?」
「それは…やってないわ」
「じゃあさ、公式アカウント作ろっか」
「そうね、窓口は多いに越したことはないもの」
正直ホームページより
こちらの方が断然扱いには慣れている。
「こっちは私に任せて…っと、
アカウント名ホームページと同じにする?」
「そうね、それがいいわ」
アイコンもホームページのものを流用する。
「できたよ」
「そんなすぐにできるのね」
「うん、こっちは私が管理しようか?」
「SNSの扱いはすみれさんの方が
長けているでしょうし、お願いするわ」
「任された」
全ての作業が終わる。
「霊美ちゃんが除霊する理由って、
やっぱりお金?」
「それもあるわ、でもあのアパートの一件から、
除霊したくても誰にも相談できないような人が
いると分かったから、
その人達を助けたいと思ったの」
「立派だね」
「そうかしら?将来的には月に何回か除霊して、
小説を書きながら悠々自適に
暮らしたいと思っているわ」
「すごい具体的な将来設計」
私にそういうものは無い。
「じゃあ私はそのお手伝いしながら
ヒモになろうかな〜」
「そうね、すみれさんがいないと
除霊できないから、
そうしてもらうことになるわね」
「…」
冗談めかしく言ったのに真面目に返された。
じゃあそれもうオッケーってことじゃん?。
「…あ!…」
あとから気づいて赤面していらっしゃる。
『カリカリカリ』
扉が爪で引っかかれる音。
「チップちゃんかしら」
「そうだね」
『クゥ〜ン』
「開けてあげましょう」
「そうしたいのもやまやまなんだけど、
ここで開けちゃうと扉を引っ掻いたら
開けてくれると勘違いしちゃう子もいるから、
あえて開けないの」
「なるほど⋯扉が傷ついてしまったり、
夜中に呼ばれ続けたりする⋯と」
「そゆこと」
『クフフゥ〜ン』
「でも⋯」
『クゥンゥンゥンゥ〜ン』
「流石に可哀想じゃ⋯」
チップの鳴き声とそれを
同情する霊美ちゃんの声、
二つの声で心が責め苦にあう。
「⋯開けましょう!」
『ガチャ』
「ワオーン!」
「きゃあ!」
チップが霊美ちゃんに覆い被さる。
「ちょっとチップずる⋯じゃなくてどきなさい!」
「私は大丈夫よ、それに⋯」
『モフモフ』
「キュン」
「すごく心地がいいわ⋯」
眠たげな声でそう言われる。
「ッ⋯私もモフモフする!」
「ワフーン!」
駅前。
「今日はありがとう、また明日、
学校で会いましょう」
「うん!また明日⋯あ」
すみれさんが何かを思い出しそして、
妖艶に微笑む。
「霊美ちゃん、目、瞑って」
「⋯はい」
何かが起こるのはわかっており、
そのわかり切った何かを大いに期待する。
すみれさんが近づいてくるのがわかる。
そして。
『む』
キス。
『チュ』
「⋯またね」
「⋯ええ」
衆人を置き去りにして、
浮き足立ちながらホームに向かう。
明日はきっといい日になる。
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