第22話 君が代は
流石に我慢しないと。
「んー…」
霊美ちゃんが頭をどちらか片方に傾けるも、
反対の穴が難儀してしまう様子が、
なんというかこう、癖だ。
まだ頭が働いていないのかして、
諦めて自然に垂れるのを待ち始めた。
「ちょっと頭貸して」
「また舐めるの…?」
「ううん、違う」
ポケットティッシュで作ったこよりを差し込む。
「んッ」
変な声を出さないでくださいお願いします。
震えるうなじと赤い耳に目移りしながら、
絡め取る形で粘液を取る。
新しいこよりでもう片方の耳も。
「どう?」
「まだ…奥にありそう」
「そっ…か、取る?」
「ええ、お願い」
こよりを細長くして作り、
慎重に奥へと差し込んでいく。
「はっ…うあ…」
手元と気が狂いそうで。
『サス』
「ひゃうっ!」
「擦らないと取れないから、ちょっと我慢してて」
「うん…」
とてもしおらしくなってしまった。
「ぁぁ…はぅ…」
ごめんなさいごめんなさい。
私が耳舐めなんてしなければ
こんなことにはならなかった…。
「…取れたよ」
「なら、反対もお願い」
「うん」
『ス』
「ッ…ふ」
健気にも声を我慢している。
「ぅッ…ンッ…」
つまりそれは、
声が漏れ出る度に
反応が抑えられていないということ。
なんか、それって…。
『ズリ』
「アっッ」
それってすごいエッチ。
「取れたよ」
「ハァ…ハァ…」
壁にしなだれかかり、息を切らしている。
その耳の穴は赤々と血脈を晒している。
なんだろう。
体が勝手に動く。
「!?ちょま」
『ふううううう』
『ビクンッ』
霊美ちゃんの体が大きく跳ねて、倒れた。
「だ、大丈夫!?」
『ピクッ…ピクッ』
「あ…あ…」
体を痙攣させ、涙を流し涎を垂らしている。
会心の一撃を食らわせてしまったみたいだ。
目の焦点はあっていないが、
呼吸もしているし意識もあるようだ。
「ご、ごめんね…」
果たして聞こえているのかどうか。
ついの出来心が起こってしまうのが、
私の悪い癖だ。
手でなけなしの風を仰ぐ。
「…すみれさん」
「っはい!」
即座に床に正座し反省の態度を示す。
「やってくれたわね…」
「やらさせていただきました!」
日本語が変になってしまった。
彼女は起き上がる。
「いい?これは貸しよ」
「貸し…?」
「この先あなたと私が付き合っていく中で、
その…私が唐突にせっつき始めても、
あなたは無抵抗でそれを受け入れる、
そういう貸しよ」
「ははあ」
ワンチャン役得かもしれない。
「…今日は気は済んだかしら?」
「あ、はい」
「じゃあ、帰りましょう…と
言いたいところだけど、
カラオケ屋さんに来て歌わずに帰るのは、
少々不躾ね」
「確かに」
霊美ちゃんはパネルを持った。
「どうやって使うのかしら」
「ああ、それはね、ここをこうやって…」
「なるほど、理解したわ」
霊美ちゃんはマイクを二つ取り出す。
「あなたも歌って」
「あ、うん」
何を歌うんだろう。
『君が代』
「ぷっ」
「国家を笑うなんて、なかなかやるわね」
「いや違っ、今日最初で最後の歌が、これ?」
「これしか歌えないもの」
「あいあい」
前奏の間に何とか喋り終えた。
き〜み〜が〜あ〜よ〜お〜は〜
ち〜よ〜に〜いいや〜ち〜よ〜に
さ〜ざ〜れ〜い〜し〜の〜
い〜わ〜も〜と〜な〜りて〜
こ〜〜け〜〜の〜〜
む〜〜す〜〜ま〜〜で
『ニヤニヤ』
「霊美ちゃんも笑ってる」
「いえ、これは…帰ってから
歌詞の意味を調べるといいわ」
「ふぅーん」
「行きましょう」
「うん」
カラオケを出て街へ、駅へ。
「すみれさん」
「うん?」
「今日は本当に楽しい一日だったわ、ありがとう」
「そんな、こちらこそだよ」
「振替休日に、
すみれさんのお家に行ってもいいかしら?」
「うん!全然来ていいよ」
嬉しい予定が増えた。
「ではまた、その時に」
「うん、またね」
ウキウキで帰路に着く。
「ふぅ」
家に帰って、一息つく。
そういえば、
君が代の歌詞の意味を調べるんだったっけ。
『君が代 歌詞 意味』
歌詞の大元は和歌にあるらしい、初めて知った。
…。
君が〜八千代には恋の唄として
認識されていた時代があった。
後半は、悠久の例え。
捉えようによっては…。
「…へへ」
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