第2話 部活棟でキス


翌日。


「おはよう霊美ちゃん!」

「おはようすみれさん」


なにかの小説を開きかけていた

霊美ちゃんに話しかける。


「いつも話している子達とは、いいの?」

「うん、皆にはもう伝えてあるから、一緒に話そ?」

「ええ」


話してみると、

霊美ちゃんの魅力がさらに深まった。

私に合わせた会話の内容でも、

知的に思わせる言葉遣いの機微があった。

時々小ボケを挟んで

ツッコミに誘導されるという、

中々ないやり取りに充実感を感じる。

そんな折、気になる話が聞こえてくる。


「知ってる?部室棟の三階を歩いてると、

たまに首筋を舐められる感触に

襲われるんだけど、

そこには誰もいないんだって」

「えマジ〜なにそれキモ〜」

「霊美ちゃん、これって」

「ええ、幽霊かもしれないわね、

放課後空いてる?」

「うん」



放課後、部室棟の三階を歩く。

主要な部活は利便性のある下階に配置され、

最上階のここは廃部寸前の部活や同好会で

たまに使われていたりする。


「あ」


曲がった先の廊下の中央、

その天井に黒いもやが張り付いている。

でもあれって…。


「二宮金次郎より大きい…」

「ええ…」


二宮金次郎と同じ

変態行為をする幽霊だとしても、

何があったら地縛霊となって

女子高生の首筋を舐めるに至るのだろう。

手遅れになる前に、という感情が湧いてくる。


「今回は前よりも時間がかかりそうね」

「そうだね」


覚悟を決めるようにリップを塗る。

今回は霊美ちゃんも

自分のものを持ってきていた。

ちょっと惜しい。

両者向き直る。

そして目を瞑ったが、

昨日とは体の触り方が違った。

抱き寄せるではなく、押されている。


『ポス』


そのまま窓のある壁に到達した。

そして両腕が顔の左右を通る。

薄目を開けると霊美ちゃんが屈んでいた。

これは。

結構がっつく感じの。


『んむ』


体の前面が密着する。

人肌が温い。

はち切れそうな鼓動が

伝わっていたら恥ずかしい。


『ちゅ』

「あ、まだ…」


黒いもやは消えていない。


「ええ」

『ちゅ』『ち』『ぷゅ』


今度は短く連続でキス。

いつもより速く衝突する唇の感触もまたいい。


「はぁっ…ふ…」


途切れ途切れの呼吸によって酸素が欠乏し、

呼吸が荒くなる。

思考が蕩ける。

昨日よりも興がのっている。

もっと欲しくなる。

霊美ちゃんの両腕を掴むと、

腕を下げてくれて、手を繋いだ。

恋人繋ぎ。

霊美ちゃんと三点で繋がっている。

今最も完璧な状態。


『ダダダダダ』


誰か来る。

走って階段を上がってくる。

惜しくも離そうとしたが、

霊美ちゃんがそうさせてはくれない。

夢中で聞こえてない?。

ヤバい。

来る。


『スタタタタ…』


一人の学生がこちらに見向きもせず、

急いで三階の部室に入り、

何かをとってまた降りていった。

バレなかった…。


『ちゅ…ちゅ…』


心臓が壊れるかと思った。


「ぷはっ」


さすがに呼吸が苦しくなって口を離す。


「あ…」


もやが消えている。

霊美ちゃんもそれを確認して、

惜しそうにこちらを見る。


「…」

「…」

『んむ』


この後一時間はキスしていた。

キスって楽しい。


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