イチャイチャ除霊 unlimited lilies

甘頃

第1話 二宮金次郎像の前でキス


「私と…付き合ってください!」


私は今、

同じクラス1ーAの払除霊美さんに告白している。

私、鈴木すみれは普通乃女子校普通科の、

流されがちな普通の高校一年生。

そんな私とは対照的に、

霊美さんは常にアンニュイな雰囲気を漂わして

物憂げにどこかを見つめている

孤高のロングヘアー。

最初は変な子だなと一瞥する程度だったけど、

だんだんと目で追うようになって今に至る。

霊美さんは長い黒髪を指で巻き逡巡している。

即決には至らないみたいだ。


「そうね…あなたなら…よさそうね」


なかなか好感触。


「いいわ、付き合いましょう」

「…ッ!」


感極まって涙が出てしまった。


「あらあら、そんなに嬉しかった?」

「うん…うん…」

「そうね、せっかく告白してくれたし、

私も告白しようかしら」

「うん?」


改めて向き直る。


「実は私、霊媒師なの」

「え…?」


本来の意味の、告白?。


「隠してたわけじゃないんだけど、

これから付き合っていくためにも

最初に言った方がいいと思ってね」

「うん…初めて聞いた」


ただ、霊美さんの振る舞いには説得力がある。


「その…今ならまだ間に合うわよ?」

「ううん全然!

むしろ払除さんのミステリアスさに

説得力が出たっていうか…」

「ふふ…もう恋人なんだから、

名前で呼び合いましょ」

「えと…霊美ちゃん」

「すみれさん」

「えへへ」

「ふふ」


お互いにはにかむ。

「突然で悪いのだけど、

私の除霊に付き合ってくれない?」

「え、いきなり?」

「むん…確かに日を改めた方が

順序だっているかしら…」

「あ、ううん!全然いいよ、その、

幽霊に会うなら心構えがいるなって」

「それもそうね…なら」

『ギュ』

「これなら落ち着いて行けるかしら?」

「あ…うん」


自分の顔が赤くなるのがわかる。



校庭。

その隅の方まで歩いてきた。


「もしかして、これ?」


そこにあって思い当たるのは、

この二宮金次郎像。


「そう、普通乃女子校七不思議のひとつ、

グラウンドで体育をしている女子を

いやらしく見つめる金次郎像よ」

「そう聞いたことあるけど…」


大概気の所為なんじゃ…。


「というか、幽霊って夜に出るんじゃ?」

「浮遊霊はそうね、

でも地縛霊は昼でも

夜でもずっと同じ場所にいるの、

それでいて幽霊は昼間が一番大人しくなるの」


なるほど。


「像に何かついてるのがわかる?」

「んー」


よく目を凝らして見ると、

黒いもやのようなものが

像の傍を漂っているのがわかる。

虫ではない、タバコの煙のような何か。


「それ、幽霊よ」

「え!?」


こんな、視界の端に写っても

最悪無視するようなもやが!?。


「初めて見た…」

「今ここで見れるようになった訳でもないし、

きっと気づかなかったのね」

「うん、多分」


ただいま思うとあれは…

というのは次々と出てくる。


「それじゃ、早速始めましょうか」

「除霊って何するの?」

「基本的には、清めた塩を盛ったり、

祈りを込めた御札を貼ったり、

祈祷をしたりするのが一般的ね」


それをするんじゃないんだろうか。


「私は私独自のやり方を模索していて、

実証したいことがあるの」

「それって?」

「リップ音よ」

「リップ音…?」

『ンぱっ──』


教えるかのように、

唇から艶かしい音を出した。

ドキッとする。


「幽霊は流水とエッチなものが

苦手と言われているわ、

それらを音によって複合したリップ音が

除霊にどのような効果を及ぼすか試したいの」


その言葉を聞いた時、脳内に電流が走った。


「まさか、今から私たちがすることって─────」

「キスよ」


衝撃で一歩後ずさってしまう。


「その…私とは、嫌?」


そんな言い方されたらぁ

順序とか準備とか人目のこととか

言いずらくなっちゃうぅ。


「嫌なわけないよ!うん!」


反射的に言葉が出る。


「なら、できるわよね?」

『ズイッ』

「うぅ」


いい顔が近い。


『グイ』


一歩下がった体を抱き寄せられる。

霊美ちゃんは私より背が高い。

近づくとそれがよりいっそう分かる。


『クイ』


あ、顎クイだ…。

これを何度想像したことか。

徐々に近づいてくる顔に目を閉じて迎える。


「ちょっと待って!」


重要なことを思い出した。


「どうしたの?すみれ」

「リップ塗り忘れた」


カサカサな唇のまま

ファーストキスなんてできない。


『ぬりぬり』

「どうぞ」

「私もいいかしら?」

「あ、うん」


あ。

私のリップが霊美ちゃんの手に渡り、塗られる。

貸してって意味だったのか。


「ありがとう」


霊美ちゃんの唇にさらに磨きがかかり、

直視に耐えられなくなる。

ていうか、関節キス…。


『クイッ』


今度こそ、準備万端。


『んむ』


柔らかい。

ただただ柔らかい。


『ちゅぱ』


吸いつかれながら離れる。


「んむ」


余韻なく再度キス。

心臓が壊れそうなほど速く鳴る。


『ちゅぱっ』


そっか、リップ音を出さなきゃいけないから、

自然と連続でキスすることになるのか。


『ちゅ…ぱ』


長めの吸い付きで今度こそ離れる。


「ふふ」


妖艶な笑みと目が合い、笑みは像の方を向いた。


「あ…」


もやが消えている。


「除霊成功、ね」

「おお…」


初めてのことで、

ひょうきんな声を上げてしまう。


「協力してくれてありがとう」

「あ、うん」


こっちも願ったり叶ったりというか。

しばしその場で呆然とする。


「大丈夫?」

「うん…」


初めてにしては、大分濃厚だった。

惚けながら二人で歩き始める。


「あ!、霊美ちゃん」

「どうしたの?」

「その…この後予定、ある?」

「残念だけど…」

「あ、そっか…」


非常に残念。


「じゃあ、一緒に帰らない?」

「それも残念だけど、私達帰り道が反対みたい」

「そっか…」


校門前に着く。


「じゃあ、また明日」

「ええ、また明日」

「あ、連絡先交換しよ」

「ええ」


浮き足だちながら帰路に着く。

あれ?今日初めて話したレベルなのに、

なんで私の帰り道を知ってるんだろう。

ま、いっか。

何かの拍子に知ったんだろう。


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